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第二章 変わりゆく日常
32話目 配信
しおりを挟むその数日後、
「優奈、あの力持ち自慢の人達、動画配信者にインタビューされてる」
「え?」
どうやらネットでは大うけされたみたいで、一番拡散された人に対し、大手の動画配信者がインタビューを申し込んだみたいだ。
その動画はこの動画の配信者の配信部屋みたいだ。
モノトーン調の家具で統一されて落ち着いた雰囲気の部屋だ。
二人はカメラの方を向き別々の一人用のソファーに腰かけ、間には黒い丸テーブルが置かれ、飲み物がその上にあった。
ガラスのグラスに氷が浮かんでおり果物が縁に刺さっている。 なんというおしゃれドリンク。 別なところに注目してしまった。
『はい、という訳で今巷で噂の人に来てもらいましたー拍手』
わーと配信者の男性は拍手をする。
『あ、どうもよろしくお願いします』
インタビューされている男性は紹介されお辞儀をする。
上げた顔は所在なさげで、緊張しているのがはた目から見ても丸わかりだった。
『分からない人はこちらの動画、見れるかな? あ、出ましたね。 凄いですねこれ』
カットインしてされた動画は誰かが撮影した物らしく、学際かなんかで物を運ぶ様子が映されていた。
ブレブレの所がとても素人臭い。
『恥ずかしいですね』
『いやいやいやいや、凄いですよこれ、と、その前に自己紹介をお願いします』
『あ、はい。 関東の大学に通ってます。 大学2年生の荒川翔と言います』
『大学生、だからこの動画学祭の物が多いんですね』
『はい、準備で荷物を運んでいた時に撮られました。 そしてそのまま宣伝に使っていいかと言われて……ここに至る結果と……なりました』
『そうなんですね、ならせっかくなので宣伝しましょう。 日付と大学名とアピールをお願いしまいします』
『はい』
ここで荒川さんの大学のアピールが入った。
出演アーティストと学祭の目玉企画と日付を説明していた。
『ありがとうございます。 では早速企画に参りましょう』
動画が切り替わる。
どうやら生配信ではなくあらかじめ撮影していた物みたいだ。
場面は配信部屋からどこかのトレーニングジムに切り替わった。
荒川さんと配信者の方もどちらも運動できる服装に変わっている。
『では今から視聴者の皆様の疑問に答えて行きたいと思います』
配信者が拍手をし、コーナー説明を行う。
『まず、先ほどの動画でありました荷物、あれ重そうでしたよね、実際の重量って分かりますか?』
『いえ……計ってないので分かりません』
『と言う事で今から実際に重さの分かる物を使って計っていきたいと思います。 今回ご協力いただくのはパーソナルトレーナーの宮部さんです』
そう言って画面の外から新たに一人男性が入って来た。
『パーソナルトレーナーの宮部です。 よろしくお願いします』
このジムのパーソナルトレーナーの人が出てきた。
安全に配慮してます。 と言う事か。 確かに素人には分からないもんね。
ちなみに使用しているジムの名前が画面下にテロップでURL付きで出てきた。
……宣伝大事だね!!
『ではまずどれから行きましょうか』
『その前に説明します。 今回は身体能力の限界を知りたいと言う事なので普段の使い方と違った使い方をします。 視聴者の皆さんはくれぐれも真似しないよう、よろしくお願いいたします。 機材の使い方はパーソナルトレーナーの指示に従ってくださいね』
『そうですね、大事ですね。 宮部さんありがとうございます』
そしてストレッチを指導し、身体を温めてから測定に入った。
『それではベンチプレスの重量を測定していきます。 まず荒川さんの体重を教えてください、あとベンチプレスの経験はありますか?』
『あ、はい、67kgです。 ベンチプレスの経験はありません』
『67kgですね……はい、分かりました。 では体重から判断して、最初に39kgの物を持ってもらいましょう』
セットする様子は丸々カットされ、次の瞬間には荒川さんがベンチプレスに寝ころんでいた。
いつの間にかサポートする人が一人増えてた。
『重かったら無理をしないでくださいね』
『分かりました』
『ではお願いします』
配信者の掛け声で荒川さんがバーベルをひょいと持ち上げた。
勢いが付き過ぎて一瞬手から離れた。
『え?』
『え?』
『あれ?』
配信者と宮部さんはその勢いの良さに、荒川さんは軽さに驚いた様子だ。
バーベルをもとの位置に戻すと宮部さんが声を掛けた。
『どうですか? 重さの方は』
『……軽いです。 これなら両手いっぱい持てそうです』
『両手いっぱい……?』
『えっと……私も挑戦させてもらっても良いですか?』
荒川さんの言葉にパーソナルトレーナーの宮部さんが困惑する。
これでは重さがよく分からないと急きょ配信者も参戦することになった。
『では、行きますね。 ふんっ……!!』
今度はゆっくりとバーベルが持ち上がる。
宮部さんはホッとした様子だ。
普通はこうだよね、と感じてるに違いない。
バーベルをもとの位置に戻し、配信者の方が傍らに立つ。
『重さはありました!! ちょっと最初からビックリ映像が撮れてしまいましたね、嘘じゃないですよ、本当ですよ』
荒川さんの挑戦は続き、次は初級者向けの57kgに挑戦した。
『では私の掛け声で持ち上げて頂きます。 せーの……!?』
配信者の掛け声で持ち上げられたバーベルはまたも、重さを感じさせない軽やかな上昇を見せた。
配信者と宮部さんが顔を見合わせる。
『次は中級者の78kg……』
次々と重さをクリアしていく荒川さん。
そしてとうとう65kgの上級者の104kgも軽々クリアしてしまった。
『重さは感じてますか?』
配信者が思わずと言った感じでそう言った。
ちなみにこの配信者は57kgでギブアップした。
『あ、はい。 けっこう……重いです』
その言葉に配信者と宮部さんはほっとしていた。
重さを感じてくれた……と。
その後もどんどん重さが足され、荒川さんの記録は132kgを10回、合計1320kgで終了した。
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