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95 作れるならばやってみよう
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「あんたが噂のハイエルフか! 俺様は白銀スライムのロティスだ! よろしくな!」
「……。……」
何やら偉そうに挨拶するロティスを、ヘイゼンは無言で見下ろす。
その内心を表すのなら、なんだこの生き物は、だろうか。
デウニッツに入って2日目。
まずはヘイゼンに指輪のお礼もかねて挨拶に行こうとやってきたのだが、部屋に入るや否やロティスが飛び出して喋りだした。
ちなみに聖も春樹も、さらに言うとヘイゼンですらもまだ一言も口を開いていなかったりする。
「ええと師匠、いろいろありがとうございます。グレイスから聞いてるとは思いますが、これがロティスです」
「……師匠、何もそんなため息つかなくても……」
2人の前でヘイゼンが盛大にため息をついていた。
ちなみにロティスは満足したのか、テーブルの上をころころ転がっている。
「……アルデリート魔王国に飛ばされたと思えば女王の結婚が決まり、イースティン聖王国に行ったかと思えば騎士団に追われ、途中でなぜか珍妙な生き物と従魔契約を結び……。よくもまあ、これだけ短期間にいろいろやらかすものだな」
よく御存じですねと言いたくなるが、淡々と、実に淡々と語られるその内容は、確かに聖と春樹に起った出来事なのだが、改めてまとめて言われると頭を抱えたくなってしまうのは何故だろうか。
というかヘイゼンの視線が明らかに『これだから落ち人は』と言っている気がしてならない。
「……師匠、最初と最後は不可抗力です」
「そうか。では、騎士団に追われる原因は故意か」
「えーと……」
ちょっと言葉に詰まり、そっと視線をそらす。
「……まあ、それはいい。どうせ落ち人のやることだからな」
「「……」」
まるで落ち人的には日常茶飯事だと言わんばかりの口調に、思わず頬が引きつる。
過去の落ち人たちは一体どんな生活をしていたのだろうかと疑問に思うが、口には出せない。
というか、聞いたら同じ事態になりそうで怖くて聞けない。
「ああ、そうだヒジリ。ちょうど材料が集まった」
「はい?」
「箒だ」
奥に行くぞ、と促されついて行く。
いつも訓練で使っていたその部屋は、少し離れていただけだがとても懐かしく感じてしまう。
そこでヘイゼンは、あの時と同じように土と魔石を取り出す。
「……本当に作るんですか?」
それを見ながら聖は念のため最終確認。
なにせ聖が魔力を入れた春樹の箒が『ああ』なったのだ。ヘイゼンの箒も当然普通ではなくなる、気がする。
というか、春樹がものすごく何かを期待した目で見てくるのだが、当然スルーである。
「いいから早くしろ」
「……わかりました」
どうやら止める気はないらしい。
仕方がなく魔石に魔力を流し、砂に変える。
そして、ヘイゼンがそれを混ぜ、何かの水を振りかけたものを土魔法で形を作る。
一度やった作業だからだろうか、とてもやりやすい。
「……ああ、多少は上達したか」
「え?」
ヘイゼンが何かを呟いた気がして聞き返したが、いや、と首を振りそのまま仕上げに入る。
そして出来上がったのは春樹と同じ形をした箒。
主夫の目で見てもまだミラクル箒である。
「あとは魔力を流して、どうなるか、だな」
「楽しみだな、聖!」
「……そうだね……」
出来てしまったので、あとはもう結果を待つだけである。
春樹の期待はきっと、裏切られることはないだろう。……これは裏切ってもいいんだけどな、と聖は思っていたりするのだが。
「……そういえば師匠」
「なんだ?」
「ずっと思ってたんですけど、空って箒でしか飛べないんですか?」
「なに?」
ヘイゼンが訝しげな声を上げる。
だが、聖としては当然の疑問である。
「いえ、だってこうやって箒が作れるなら他のものも作れたりしないんですか?」
土魔法で形を作っているので、他の形も作ろうと思えば作れる。まあ、仕上げで何をやっているのかが疑問ではあるのだが。
「……そもそも箒を作ることが特殊なんだが……一応聞くが、例えば?」
「たとえば、えーと」
何、とまでは考えていなかったので返答に困り、咄嗟に春樹を見る。
「え? えーと、そうだな……絨毯とか?」
「なるほど!」
「? なんだそれは?」
それはいいかもしれない、と聖は思ったが、ヘイゼンには通じなかった。
「えーと、敷物、ですね」
「……それで飛ぶのか?」
「……足も伸ばせるし、ご飯も食べれたりできそうですよ?」
「………」
便利な利点を上げてみたのだが、ヘイゼンが微妙な表情になった。
春樹と顔を見合わる。
そんなに変なことを言っただろうか、と思っているとヘイゼンが口を開く。
「ミラクル箒を作るための材料が何かわかるか?」
突然の質問だが、もちろん知らないので首を振る。
それにヘイゼンはだろうな、と頷いた。
説明によると、必要な材料は主に4つ。
魔土と魔力水、そして魔石と魔粉。
前半2つはデウニッツのお店で買えるのだが、問題は後半の2つ。
「これに使う魔石はダンジョンにある」
「えっと、デウニッツにあるダンジョンですよね?」
「そうだな。そして魔粉だが……これがどういうものかはわかるか?」
もちろんわかるわけがない。
というか、本音で言えば全部わからないのだが。
「通常使われる箒は魔木と呼ばれる木に生る」
「「は?」」
説明内容がわからなかった。
「え、生るんですか? 木に?」
「そうだ」
「……さすが異世界」
まあ、パンも木に生る世界である。箒が木に生ってもおかしくはないのかもしれないが、やっぱりおかしい。
まあ、聖の箒はタッケーの木から出てきたものだが。
「その魔木の葉を粉にしたものが魔粉と呼ばれ、最終的に箒を形成するもとになっている」
「え? でも土魔法で形作ってますよね?」
「言い換えよう、その形を本物にするための素材だ」
ともて魔力の通りがいいものだと、ヘイゼンは言う。
「……じゃあ、箒以外もいけそうじゃないか?」
「……そうだな、試したことはないが」
なにやら考えるように顎に手をやり、そして口を開く。
「魔粉で箒しか作らないのは、箒を生み出す一部であり、それが一番想像しやすく魔力が通りやすいからだ。つまり、それに流されないように魔力を誘導してやれば他の形を作ることも可能だ、と思われる。……理論上はな」
「ええと、つまり、簡単に言うとものすごく頑張ればいけるってことですよね?」
何処かの誰かが言っていた。
イメージが大事。
つまりはそういうことなのだろうとヘイゼンに言うと、何故か呆れたような顔をされた。
「……まあ、それでいい」
「なあ師匠。なんで誰も試してないんだ? そもそもカエデだったか? デッキブラシ作ろうとしなかったのか?」
「言っただろう、あれは最初から最後まで空を飛ぶことしか覚えなかったと。……それにこの方法を作り出したのはだいぶ後になってからだ」
「……そうなんですか。よかったというべきかなんというか……」
ひょっとしたら箒ではなく、デッキブラシで空を飛んでいた可能性を考え、ちょっとだけ安堵する。
もしデウニッツに来たときにそんな光景があったなら、間違いなく爆笑しており、魔法を習うどころではなかったかもしれない。というか、空を飛ぶ魔法を習ったかどうかも怪しい。
「それで師匠、その魔粉は何処にあるんですか?」
「……魔木園で葉を取ってくれば加工はできる」
「そこは僕たちでも入れるんですか?」
「……そうだな」
「わかりました」
なにやら微妙に歯切れの悪い口調が気になったが、とりあえず頷いておく。
「どのくらい必要なんですか?」
「失敗することを考えると、あればあるだけいい」
まあそれはそうかもしれない。
なにせ箒以外のものを作った前例がないとのことなので、一度で成功する確率は低い。
それに恐らくだが、もし成功したら同じものをヘイゼン用に要求されるだろうと、なんとなく聖は思っている。
「師匠、そこは今から行っても大丈夫なところか?」
春樹がちらりと窓の外を見て、ヘイゼンへと問う。
それにつられて聖も外を見るが、確かにまだ明るいので、すぐ近くなら行ってみてもいいかもしれない。
「……ちょうど塔のすぐ横にある。今からなら特に問題ないだろう」
「わかりました」
「じゃあ、ちょっと採ってくるか」
行けばわかる、とのことだったので、さっそく向かうことにした。
そんな軽い気持ちで行こうとするのを、何故かヘイゼンが若干の憐みのこもった目で見ていたりするのだが、もちろん2人は気付かなかった。
「……。……」
何やら偉そうに挨拶するロティスを、ヘイゼンは無言で見下ろす。
その内心を表すのなら、なんだこの生き物は、だろうか。
デウニッツに入って2日目。
まずはヘイゼンに指輪のお礼もかねて挨拶に行こうとやってきたのだが、部屋に入るや否やロティスが飛び出して喋りだした。
ちなみに聖も春樹も、さらに言うとヘイゼンですらもまだ一言も口を開いていなかったりする。
「ええと師匠、いろいろありがとうございます。グレイスから聞いてるとは思いますが、これがロティスです」
「……師匠、何もそんなため息つかなくても……」
2人の前でヘイゼンが盛大にため息をついていた。
ちなみにロティスは満足したのか、テーブルの上をころころ転がっている。
「……アルデリート魔王国に飛ばされたと思えば女王の結婚が決まり、イースティン聖王国に行ったかと思えば騎士団に追われ、途中でなぜか珍妙な生き物と従魔契約を結び……。よくもまあ、これだけ短期間にいろいろやらかすものだな」
よく御存じですねと言いたくなるが、淡々と、実に淡々と語られるその内容は、確かに聖と春樹に起った出来事なのだが、改めてまとめて言われると頭を抱えたくなってしまうのは何故だろうか。
というかヘイゼンの視線が明らかに『これだから落ち人は』と言っている気がしてならない。
「……師匠、最初と最後は不可抗力です」
「そうか。では、騎士団に追われる原因は故意か」
「えーと……」
ちょっと言葉に詰まり、そっと視線をそらす。
「……まあ、それはいい。どうせ落ち人のやることだからな」
「「……」」
まるで落ち人的には日常茶飯事だと言わんばかりの口調に、思わず頬が引きつる。
過去の落ち人たちは一体どんな生活をしていたのだろうかと疑問に思うが、口には出せない。
というか、聞いたら同じ事態になりそうで怖くて聞けない。
「ああ、そうだヒジリ。ちょうど材料が集まった」
「はい?」
「箒だ」
奥に行くぞ、と促されついて行く。
いつも訓練で使っていたその部屋は、少し離れていただけだがとても懐かしく感じてしまう。
そこでヘイゼンは、あの時と同じように土と魔石を取り出す。
「……本当に作るんですか?」
それを見ながら聖は念のため最終確認。
なにせ聖が魔力を入れた春樹の箒が『ああ』なったのだ。ヘイゼンの箒も当然普通ではなくなる、気がする。
というか、春樹がものすごく何かを期待した目で見てくるのだが、当然スルーである。
「いいから早くしろ」
「……わかりました」
どうやら止める気はないらしい。
仕方がなく魔石に魔力を流し、砂に変える。
そして、ヘイゼンがそれを混ぜ、何かの水を振りかけたものを土魔法で形を作る。
一度やった作業だからだろうか、とてもやりやすい。
「……ああ、多少は上達したか」
「え?」
ヘイゼンが何かを呟いた気がして聞き返したが、いや、と首を振りそのまま仕上げに入る。
そして出来上がったのは春樹と同じ形をした箒。
主夫の目で見てもまだミラクル箒である。
「あとは魔力を流して、どうなるか、だな」
「楽しみだな、聖!」
「……そうだね……」
出来てしまったので、あとはもう結果を待つだけである。
春樹の期待はきっと、裏切られることはないだろう。……これは裏切ってもいいんだけどな、と聖は思っていたりするのだが。
「……そういえば師匠」
「なんだ?」
「ずっと思ってたんですけど、空って箒でしか飛べないんですか?」
「なに?」
ヘイゼンが訝しげな声を上げる。
だが、聖としては当然の疑問である。
「いえ、だってこうやって箒が作れるなら他のものも作れたりしないんですか?」
土魔法で形を作っているので、他の形も作ろうと思えば作れる。まあ、仕上げで何をやっているのかが疑問ではあるのだが。
「……そもそも箒を作ることが特殊なんだが……一応聞くが、例えば?」
「たとえば、えーと」
何、とまでは考えていなかったので返答に困り、咄嗟に春樹を見る。
「え? えーと、そうだな……絨毯とか?」
「なるほど!」
「? なんだそれは?」
それはいいかもしれない、と聖は思ったが、ヘイゼンには通じなかった。
「えーと、敷物、ですね」
「……それで飛ぶのか?」
「……足も伸ばせるし、ご飯も食べれたりできそうですよ?」
「………」
便利な利点を上げてみたのだが、ヘイゼンが微妙な表情になった。
春樹と顔を見合わる。
そんなに変なことを言っただろうか、と思っているとヘイゼンが口を開く。
「ミラクル箒を作るための材料が何かわかるか?」
突然の質問だが、もちろん知らないので首を振る。
それにヘイゼンはだろうな、と頷いた。
説明によると、必要な材料は主に4つ。
魔土と魔力水、そして魔石と魔粉。
前半2つはデウニッツのお店で買えるのだが、問題は後半の2つ。
「これに使う魔石はダンジョンにある」
「えっと、デウニッツにあるダンジョンですよね?」
「そうだな。そして魔粉だが……これがどういうものかはわかるか?」
もちろんわかるわけがない。
というか、本音で言えば全部わからないのだが。
「通常使われる箒は魔木と呼ばれる木に生る」
「「は?」」
説明内容がわからなかった。
「え、生るんですか? 木に?」
「そうだ」
「……さすが異世界」
まあ、パンも木に生る世界である。箒が木に生ってもおかしくはないのかもしれないが、やっぱりおかしい。
まあ、聖の箒はタッケーの木から出てきたものだが。
「その魔木の葉を粉にしたものが魔粉と呼ばれ、最終的に箒を形成するもとになっている」
「え? でも土魔法で形作ってますよね?」
「言い換えよう、その形を本物にするための素材だ」
ともて魔力の通りがいいものだと、ヘイゼンは言う。
「……じゃあ、箒以外もいけそうじゃないか?」
「……そうだな、試したことはないが」
なにやら考えるように顎に手をやり、そして口を開く。
「魔粉で箒しか作らないのは、箒を生み出す一部であり、それが一番想像しやすく魔力が通りやすいからだ。つまり、それに流されないように魔力を誘導してやれば他の形を作ることも可能だ、と思われる。……理論上はな」
「ええと、つまり、簡単に言うとものすごく頑張ればいけるってことですよね?」
何処かの誰かが言っていた。
イメージが大事。
つまりはそういうことなのだろうとヘイゼンに言うと、何故か呆れたような顔をされた。
「……まあ、それでいい」
「なあ師匠。なんで誰も試してないんだ? そもそもカエデだったか? デッキブラシ作ろうとしなかったのか?」
「言っただろう、あれは最初から最後まで空を飛ぶことしか覚えなかったと。……それにこの方法を作り出したのはだいぶ後になってからだ」
「……そうなんですか。よかったというべきかなんというか……」
ひょっとしたら箒ではなく、デッキブラシで空を飛んでいた可能性を考え、ちょっとだけ安堵する。
もしデウニッツに来たときにそんな光景があったなら、間違いなく爆笑しており、魔法を習うどころではなかったかもしれない。というか、空を飛ぶ魔法を習ったかどうかも怪しい。
「それで師匠、その魔粉は何処にあるんですか?」
「……魔木園で葉を取ってくれば加工はできる」
「そこは僕たちでも入れるんですか?」
「……そうだな」
「わかりました」
なにやら微妙に歯切れの悪い口調が気になったが、とりあえず頷いておく。
「どのくらい必要なんですか?」
「失敗することを考えると、あればあるだけいい」
まあそれはそうかもしれない。
なにせ箒以外のものを作った前例がないとのことなので、一度で成功する確率は低い。
それに恐らくだが、もし成功したら同じものをヘイゼン用に要求されるだろうと、なんとなく聖は思っている。
「師匠、そこは今から行っても大丈夫なところか?」
春樹がちらりと窓の外を見て、ヘイゼンへと問う。
それにつられて聖も外を見るが、確かにまだ明るいので、すぐ近くなら行ってみてもいいかもしれない。
「……ちょうど塔のすぐ横にある。今からなら特に問題ないだろう」
「わかりました」
「じゃあ、ちょっと採ってくるか」
行けばわかる、とのことだったので、さっそく向かうことにした。
そんな軽い気持ちで行こうとするのを、何故かヘイゼンが若干の憐みのこもった目で見ていたりするのだが、もちろん2人は気付かなかった。
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