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4 どうせ一夜の相手なら (※R18描写あり)

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付き合う相手の希望によって、斗真はベッドでの振る舞いを変化させてきた。

抱きたいと望まれれば、恥じらいながら従順に足を開き、抱いて欲しいと言われたならば欲しがられるまま何度でも満たせるよう努めた。
自分が‪性的にアルファやオメガの特質を持たない凡庸で平均的なベータ男性である事をよく知っている斗真は、柔軟である事で相手を悦ばせようと努力してきた。例え、それぞれの性に微塵も及ばないとわかっていても。

そして今夜の相手は、…。


飲んでいたバーからさほど歩いた訳でもない、うらぶれた飲み屋街の中の路地を入った場所にあるホテル。一昔前なら、連れ込み宿とでも言い表したのだろうか。ホテルというにはあまりに粗末な。
今どきこんな宿は珍しいのではないかとも思えるような、畳敷きの、壁の薄い古い部屋。
小さな型遅れの液晶テレビ、低い座卓、色褪せた座布団。
座敷に敷かれた古びた赤い布団、枕元を照らす行灯型の間接照明。この薄っぺらく安っぽい寝具達は、今までにどれほど多くの人間達の体液と体温とセックスを迎え入れてきたのだろうか。男女の、或いは同性同士の。

斗真は部屋に入るなりそんな布団の上に押し倒された。布団からは少し饐えた匂いがして、こんな所に入る日が来るとは思ってもみなかったと思い、少しげんなりした。
けれど意外に惨めな気分にならなかったのは、きっと斗真を抱きしめて唇を吸っている男が思いの外優しいからだ。
場末の汚い宿で間に合わせるくらいどうでも良い一夜の相手にするには似つかわしくない、丁寧な丁寧な口付け。斗真のスラックスのベルトを外し、ボタンを外し、下着の上から股間の膨らみを撫でる手つきはソフトで、不思議なほどに優しい。

「…んっ…あ…。」

やわやわと布越しに揉まれて声が出てしまった。酒で鈍っていた感覚が戻って来つつあるようだ。

「…や、だ…下着、汚れる…。」

「感じてるから?可愛い事言うね。」

男は小さく笑って、斗真の頬にちゅっと口付けた。
後頭部に回されたその手は斗真の手よりも一回り大きい。‪典型的なアルファ様だ、とぼんやり思う。長身に、華奢でもない成人男性一人を軽々と抱え上げて走れるがっちりした体躯。整った顔立ちは凛々しいのに何処か甘さを含む。体目当てとはいえ、面倒な酔っぱらいをあれだけ甲斐甲斐しく世話できるのだから、存外優しい男なのかもしれない。
でなければ、大抵の人間を選り好みできるであろうこの男が、さほど特徴もない酔っ払いのベータ男をわざわざ世話するとは思えない。
それに、斗真を触る手も触れる唇も囁く声も注がれる瞳も、ずっと優しい。


男は唇を重ねながら、ゆっくりと器用に斗真のスラックスを脱がせ、下着を脱がせ、ネクタイを解き、シャツのボタンを外していく。
すっかり剥かれた頃には、キスだけでぐずぐずにされてしまっていた。
男の手が胸をまさぐる。

「あ…!」

「乳首、感じるんだね。」

「うっ、ん…んっ、ふ…」

斗真を乳首だけでイけるほどに開発したのは、確か3人目の恋人だったアルファだ。
優しくて強引で、ヤキモチ焼きで、常に斗真を独占したがっていたのに、ある日出会ったオメガと衝動的に体を重ね、番になってしまった。
あの時も斗真は、二度と特殊バースの人間とは付き合わないと泣いたのだ。
それなのに全く進歩していない自分に、笑いが込み上げてくる。

「ふ、ふっ…ん、」

「どうしたの?くすぐったかった?」

「…ん、いや…何でも…。」

「とまくん。」

「…え?」

男が自分をとまくんと呼んだ事に、斗真は驚いた。自分は酔っている間に名前も名乗ってしまったのだろうか。

「とまくん、可愛いね。」

「……っ。」

可愛いなんて甘ったるい言葉をくれながら、斗真の乳首を唇で食む男の頭を胸に抱えてしまう。

「あ、きもち…あぁ…ッ」

緩くウェーブのかかった、絹糸のような明るい色味の男の髪は柔らかい。この2年程はオメガである三村と付き合っていたから、彼には対しては斗真はずっと抱く側だった。誰かに胸を愛撫されて髪に指を絡ませるなんて何時ぶりだろうか、と思う。堪らない気分だ。
三村との別れに苦しんでいた筈なのに、その数時間後には見知らぬ男にこんな風に抱かれているなんて、自分が自分じゃないみたいだ、と斗真は思った。

斗真に抱かれた男は、只の男性体でしかない斗真の体を優しく念入りに解して蕩けさせ、彼の巨大なペニスを慎重に挿入した。
数年ぶりに受け入れたアルファのペニスに、斗真は脂汗を流しながら、それでも感じた。
大きく空いた胸の風穴を、このセックスで埋めようとするかのように。
足首を掴まれ、限界まで開ききった尻穴にペニスが出入りする度、バツンバツンと肉のぶつかる音が響く。
畳の上に敷かれた布団の上での営みなのに、何かが軋んでいる音がするのは何故なのか。

「あぁ、いや、いやっ、あっ、」

「はぁ…凄いな、これは…。」

ゆすゆすと斗真を揺らしながら、絞り出すように言う男。もう何時間も斗真の中に居座って、具合いを堪能しているらしい。

「君みたいなベータがいるなんて信じられない。
こんな事なら焦ってこんな所に連れて来るんじゃなかった。」

男は息を荒くしながらそんな言葉を口にする。

(何それ…。)

一夜の相手なんて何処で抱こうが同じだろう。只、トイレでは嫌だっただけだ。幾ら遊びだとはいえ、自分も便器扱いされたように感じそうで、終わった後には傷心の傷も更に深まりそうではないか。
とはいえ、場所はいくらかマシになったとはいえ、まさかこれだけ優しく抱かれるのも、計算外だったが…。

斗真は周囲の部屋に筒抜けであろう嬌声を上げながら、なかなか達しないアルファのペニスに夜明けまで穿たれ続けた。







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