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爽やかストーカー
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しおりを挟む【あおいside】
『クラスで俺以外と目を合わすな話すな』
『もし破ったら一回につきお前を殴るし酷いことする』
と笹山くんに言われた時から僕は笹山くん以外のクラスの人と極力目線を合わせないようにしている。その日から変わったことがある。クラスの不良さんたちからいじめられなくなった。からかわれることもなくなった。話しかけてこなくなった。変わったことに少し驚きつつ、ビクビクとする日々が少し和らいだ。
「よぉ、パシリ。こっちに来い」
だけど、笹山くんは僕に話しかけてくる。
「は、はい」
呼ばれたので、笹山くんが座っている席まで行く。
「な、何…?さ、笹山くん」
「何って…いいからもう少し近くに来い」
な、なんだろう…?
怒られちゃうのかな?
ちゃんと、笹山くんに言われた通りに約束守ってるはずだけど…わからない。とりあえず、少し近寄った。
ぎゅっー
「俺、眠いから抱き枕になれ」
「え?」
抱き…枕?ぎゅっと腰を抱き寄せられた。
「俺、昨日寝不足なんだよ」
「そ、そうなんですか…で、でも…そろそろ授業始まるよ?」
それにこのままずっと立ったままの体勢でいる自信がない。
「別にあんなの授業受けるってほどじゃないだろ」
確かに授業らしい授業はないけど課題は出される。
「で、でも…」
抱き枕になるっていうのは…周りは何も言わないけど視線が痛いくらい突き刺さる。すると、抱き締める力がさっきよりも強くなった。
「お前は黙って、大人しく俺に従っていればいいんだよ」
「…え、」
ど、どうしよう。そんな強くされると苦しいかも…。
「あぁ、そういやお前体力なかったよな。仕方ない。また俺の膝の上に座ってもいい」
「わっ!」
急に引っ張られ笹山くんの胸の中に、もたれかかってしまった。
「あぁ、ほんとお前の匂いたまらないな。じゃ、そのまま俺、寝るから」
「さ、笹山くん…!?」
「うるせぇ。いいから俺に従え」
ビクッ
「…は、はい」
ドスのきいた低い声。次、喋ったら手が飛んできそうな勢いだった。がっちりと腕は固定されていてもう抜け出すことができない。笹山くんは本当にそのまま目を閉じて寝てしまった。笹山くんの心臓の音が聞こえる近さ。授業中にも関わらず僕は笹山くんの抱き枕にされずっと時間が過ぎることを待った。結局、今日一日ずっとあのままだった。お昼はゆうと食べ、もう食堂では食べなくなって庭のベンチで食べるようになった。そして、午後の授業はまた笹山くんに抱き枕にされた。クラスの不良さんたちがこそこそ何か話していたけど僕は聞き取る余裕などなかった。
「じゃあ、また明日もよろしくな。俺の抱き枕」
笹山くんは何人かの不良さんたちを連れて教室から先に出ていった。僕はパシリから抱き枕になったみたいだ。いじめられて暴力振るわれるより今はまだいい方。だけど、僕が笹山くん以外のクラスの人と話したり目を合わせたりしたらまた暴力振るわれる。…痛いのは怖い。笹山くんから解放された後、僕はなるべく下を向いて寮へと向かった。
「わっ」
そのせいか前を見ていなく、運悪いことに誰かとぶつかった。あまり人が来ないところから通ったつもりだったのに。ぶつかった衝撃に少しよろけてしまったけど尻餅をつくことはなかった。
「ご、ごめんなさいっ」
僕は慌てて謝る。前は見ていなかった僕のせいだ。
「顔あげて?」
「は、はい…本当にごめんなさい」
ゆっくりと顔をあげると
「え?」
見覚えのある人がいた。
この人…って
「…やぁ、久しぶり。佐藤くん」
間違いない。僕の元同室者の中野くんだ。
「俺のこと、覚えてる?」
「も、もちろんだよ。中野くんだよね。ひ、久しぶり…」
どうしよう。中野くんは僕のことものすごく嫌っている。また不快な思いをさせてしまう。まさかこんなとこで会うなんて予想外だった。しかも話しかけられるなんて。
「良かった。覚えててくれてたんだ」
あ、れ…?前と雰囲気が違うような?
中野くんは、爽やかスポーツマンって皆からそう呼ばれている。スポーツクラスの人とZクラスの僕が同室という珍しい組み合わせだった。
同室の時には僕と顔を合わす度に中野くんはとても冷たい目でいつも酷い言葉を言っては笑っていた印象がある。
「なんてね。つか、お前まじ汚ねぇんだけど。なに俺にぶつかってんの、きも」
「ぁ、えっと」
態度が急変した。僕が知っている中野くんだ。
「まじうざい。もっと謝れよ」
「ごめっ…ごめんなさい」
いまだに嫌われていたんだと思い知らされる。
「は?全然聞こえない。あーあ、久しぶりにキモいやつ見て俺の目がくさりそう」
「ほ、本当にごめんなさい。す、すぐに前から消えるね」
そう言って横切ろうとした瞬間、
ガシッー
強く腕を掴まれた。
「おい、待て」
「…っ」
体がぶるっと震えた。
「やっぱお前何も変わらねぇな」
「っ!」
な、なにも変わらない…か。
酷く胸が痛んだ。
「あ、そうだ。いいこと思いついた」
そう、悪戯に笑う中野くんは何かを企んでいる楽しそうな顔をした。…に、逃げなきゃ。直感的にそう思った。
「なーに、逃げようとしてんの?ゴミ虫の分際で生意気なんだけど」
あっさりと気づかれ、恐怖が僕を包み込む。
「…俺にぶつかったこと後悔させてやる」
怪しく笑みを溢した。
そう言った中野くんは蔑むような目で僕を見た。
「ご、ごめんなさい…前見てなくて…ぶつかってごめんなさい」
僕は謝り続けた。悪いのは僕であることは変わらない。だけど、中野くんは僕の言葉なんか耳にしなかった。
「いいから俺を楽しませろ。ちょっと来い」
「ぁ、のっ、中野くん!?」
なかば無理矢理、腕を引っ張られ近くのトイレまで連れて来られた。
─────
───────
─────────
……。
ドンッ!
壁に押し寄せられた。
「まずは頭を冷やしてもらわないとな」
中野くんは一体何をする気なのかわからない。
…こ、怖い。恐怖がますます大きくなる。すると、バァーっと勢いよくバケツに水を入れだした。ま、まさかそれを僕にかけるのかな…。頭を冷やすって言ってたし。
「よし、これぐらいでいいかな」
蛇口を捻って止める。
「な、中野くん…っ、ご、ごめんな…さい」
僕はその場で、壁に背中をもたれながら腰をおろす。
「おい立て。ゴミ野郎。何勝手に俺の許可なく座ってんだよ」
前髪を掴まれ立たされる。
「いた…っい」
「後悔させてやるって言っただろ?」
口の端を上げニヤリと笑った。そのあと、中野くんは僕の眼鏡を奪い取った。
「ぉ、ねがい…や、やめ…」
「あ?ぶつかっておいてその態度は何だよ?ゴミの分際で偉そうにしてんじゃねぇよ!」
中野くんは、そう吐き捨てた後、僕の後頭部に手を持っていきバケツにたまった水に顔を押さえつけた。一瞬、死を思った。
僕の後頭部をしっかりと押さえて息をできなくする。冷たい…苦しい。痛い。息ができなくて僕はこれ以上無理だと思った。そんな死ぬか生きるかのギリギリのところで中野くんは僕の髪を掴み、顔を上げさせた。
「ごほっ…っはぁっ」
思いっきり息を吸い込む。誰か助けてと、声も出せない。
「どうだ?苦しいか?あん?」
「くる…し…ごほっ…わっ!」
また水に顔を押し付ける。口の中に水が入ってくる。そして、さっきのように髪を掴んで息をさせてまた水に、とそれの繰り返し。
…やめて、お願い。そんな僕の願いは叶わなかった。このままどうなってしまうのか怖い。
中野くんにぶつかったのは本当に申し訳ないと思ってる。苦しい…。
「くくっ、もっとだもっと」
中野くんの楽しそうな声が微かに聞こえてくる。僕は意識が飛びそうなくらい朦朧としてきた。
「もっと苦しめクズ。あぁたまんないなその顔」
意識が途切れそうになった時、顎をくいっと上げられた。中野くんは、ポケットから携帯を出してカシャカシャと写真を撮っていく。
悪戯に笑う顔。
僕の苦しむ姿に楽しむ中野くん。
前にもこんなことがあった。
同室だった時、洗面所で同じことをされた記憶がある。忘れようと思ってしまいこんでいたけど思い出してしまった。
あの時の恐怖が更によみがえってくる。
…忘れようとしてたのに。
「おい、意識飛ばすんじゃねぇよ」
中野くんが意識を飛ばそうとしている僕の頬をぺちぺちと叩く。その反動で、ぽたぽたと水滴が顔から流れて行った。
「なぁ、お前に一ついいこと教えてあげようか」
水に顔を押し付ける手が止まって少しだけ安堵する。
い、いいこと…?
「な、に」
でも僕はそれどころじゃなかった。少しだけ安堵したけど、ここから一刻も早く立ち去りたい気持ちでいっぱいで中野くんが怖かった。
今はとにかく水がある場所から離れたい。
「最近さ、生徒会の会計と二人で話していたよね?」
ニヤリと口の端を上げながら言った。
「…ぇ」
突然、何を言い出すかと思いきや、僕は戸惑った。
…な、何で、それを中野くんが知ってるの?
確かあの時は、授業中で人気のない旧校舎にいたから誰も僕たちには気づいていないと思った。
だけど、中野くんは知っていた。
「正直、びっくりしたよ。まさか学園の人気者が学園の嫌われ者と一緒に楽しそうにしているんだもん」
驚かないわけないよね。と続けて笑った。
「まあ、それは置いといて。ここからが大事なとこなんだけどね。よく聞いてね」
ごくりと息をのむ。
僕は耳に集中させて身構えた。
「さっそくだけど、お前会計に騙されてるよ」
ストレートだった。
「え?」
だ、騙されてる…?
一瞬言っている意味がわからなかった。一体、何を騙されているのかわからない。
「会計が易々となんの見返りもなくお前と仲良くする価値ないじゃん」
「っ!」
それを聞いて僕はなにも言えなかった。
確かに僕なんか価値がない。
仲良くしたいと言われたときは冗談でも嬉しかった。
でも心のどこかで本当に僕なんかと仲良くしてくれると思っていた。あの時、謝ってきたことも嘘だと思いたくない。中野くんの言葉を聞いて、勘違いって言葉が頭に浮かんだ…僕は学習しないな。
「人間案外変わらないものなんだよ。あの人演技超うまいからね。あれ、なになにもしかしてその気になってた?はは、残念だね。あれ君を落とすのが目的だから」
「お、落とす…?」
「そうそう。俺ねたまたま情報が入ってきてー、聞いちゃったんだよね。お前に優しくして好きにさせてあとからポイって捨てるみたいな」
「な、にそれ…」
「会長も会計と同じようにお前を落とすのやってたじゃん」
「か、会長さん…も?」
「会長が前に変装したとき妙に優しかったでしょそれそれ」
それを聞いて理解できた。
だからあの時と、会長が変装してた意味がわかった。結果怒らす形で終わったのを今でも覚えてる。
「一応これ本当だからね。嘘だと思うなら証拠でもみる?誰だか分からないけど盗聴器で録音しているやつがいてさ」
ほら、聞く?
そう言ってニヒルな笑みを浮かべた。
証拠…
「だ、大丈夫…いい」
僕は横に首を振る。
「なんだつまんね」
中野くんは、小さく舌打ちをした。
だって聞いたらきっと泣いちゃうから…。
そんなみっともない姿見せたくない。
「あー、それと、あとあと書記の無口野郎もお前のこと大嫌いなんだってー」
「ぁ、…うん…」
やっぱりと思った。
前からそうだと確信していたから驚かない。
あの時、僕のせいで井上さんを傷つけてしまったから…。
嫌わない訳がない。
「そして、副会長はお前のこと殺したいくらいむかつくらしいよー。あの転校生の居場所はどこだって探してるみたいだし」
副会長さんが怒るのも無理もないよね…。
だって僕が花園くんを追い出してしまったといっても過言じゃないから。
許せないに決まってる。
なのに、僕は…。
「ははー、お前どんだけ嫌われてんのウケるー。最近調子乗ってるみたいだし可哀想だから教えてあげた俺に感謝してよね。お前は学園イチの嫌われ者だよ。その自覚ある?」
「き、嫌われてることなんて…わかってる…よ」
言われなくても見ていてわかる…っ。
「そう?ならいいけど」
ずっと昔から僕は多くの人に嫌われてる。だからそれぐらいわかってる。面と向かって、聞きたくなかった。知らない方が幸せなことだってある。
堂々とそう告げられるのは正直悲しい…。
「じゃあ、このダサくて俺だったら生きていけない眼鏡を返すねー」
取られていた眼鏡を返された。
この眼鏡は僕のお気に入りなのに生きていけないってまで言われてしまった。でも返してもらって良かった。僕はゆっくりと眼鏡をかける。
「俺これから用事あるから、じゃばいばーい」
「いっ」
最後にでこぴんされて、中野くんは出て行った。
…痛い。
体も心も。
「…っ、なんで泣いちゃうかな」
我慢してたのに。
涙が次々、溢れてきた。
別に僕は嫌われていることに慣れてるんだ。
今さらそう言われたって平気なはずなのに…。
嫌われやすい体質と残念な容姿に弱虫な性格…。昔から何も変わらないこと。
だから、今さら辛いって思っても意味ない…。
─────
───────
────────
……。
僕は寮へ帰ってくるなりベッドの布団の中にくるまった。こんな顔、ゆうに見せられない。
少し落ち着いてからと思っていたらいつの間にか眠りについていた。
「…ん」
目が覚めると、窓から見える景色は暗くなっていた。
一体、何時間…寝ていたかな。
目を擦りながら起きあがると隣にゆうが腰をおろしていた。
「ゆ、う?」
呼びかければゆうは何やら本を読んでいたらしく、その本を閉じた。
「あおい起きたんだ」
「う、うん。帰ってきたら少し眠くて…気づいたら今まで眠ってたみたい」
ゆうはそうなんだと言って本を机に置き、僕の頬に手を添えた。
「ゆ、ゆう…?」
「今まであおいに何も聞いてこなかったけどもう限界。頬が赤くなって、目元なんてきっと泣いてたってわかる」
もうこんな傷ついてるあおいを放って置けない。とゆうは優しく僕に言った。
「別に、な、何もないよ。多分寝てたから」
「嘘だってわかるよ。ね、俺だけには我慢しないで何があったか教えてよ」
ゆうには心配かけたくないって思ってたのに逆に心配させてしまっている。僕なんかのせいでゆうまで巻き込んでしまう。
「ぼ、僕は本当になにも…」
「お願いだ。…あおいが辛いなら、俺も辛いんだ。見ていてわかる。今にも泣きそうな顔してるあおいを黙って見てられない」
「ゆ、う…?」
ゆうは優しく僕を抱き締めた。どうして、一番知られたくないゆうに気づかれてしまうんだろう。
「辛いならたくさん泣いてもいいよ。そして俺に話して我慢しないでいい」
その言葉にまた涙腺が緩んだ。
「あおい、一体誰に何されたの」
「何もされてないよ…」
ゆうに迷惑はかけたくない。
「…そっか。よしよし」
泣いてる僕の背中を優しく後ろからゆうは擦ってくれた。その手が温かくて、少し気持ちが軽くなった気がした。冷静になって、落ち着いた時に僕は初めてゆうに話すことにした。
「ゆ、う…」
「ん?どうした、あおい」
「き、気づいてると思うけど僕って…その…嫌われやすい体質でいろんな人に迷惑ばかりかけているんだ」
もう後には戻らない。ゆうが僕から離れて行ってしまうかもしれない。
でもこれでいいんだ。
これで誰も傷つかないなら…。
「何を言ってるの俺は嫌ってない」
「それは!ゆうは優しいから…」
「俺はむしろ好きだよ」
「えっ?」
「あおいの全部好き。俺だけがあおいを好きだったら他は別に関係ないでしょ?ほら、悲しい顔しない」
す、好きなんて…本当に?
こんな世話が焼ける年下のだめだめな僕なんかを好きなんて言ってくれるなんて…。
「なんで、ゆうは昔から優しいの…」
ずっと一緒にいたゆう。
優しいのは昔から。
だから甘えてしまう。
これじゃあ…ゆうを縛っているもんじゃないか…。
「俺は優しくない。優しいのはあおいの方だよ。俺、小さい頃からあおいのこと見てきて知ってること多いから誰よりも優しいこと知ってる」
「ゆ、うっ」
止まっていた涙がまた出そうになる。
嬉しい言葉言われるのあんまりなれてないから震えてしまう。慰めているってわかってる。
「あおいは自分で思ってるほど弱い子じゃないよ」
ゆうは本当に優しい言葉を僕にくれる。
「まあ、こうやって泣くところは強いとも言えないけどね」
クスリとゆうは笑った。
そして、僕の涙をゆうは拭ってくれた。
「で、でも…僕は周りを傷つけてしまうんだ…。いつかゆうも…」
「それはないよ」
「そんなのわからない…」
「もしかしてあおいは俺から離れたいの?」
「ち、違う…っ!」
「じゃあ、あおいの気持ちは?」
僕の気持ち…。
「…ぼ、僕は…い、一緒にいたい。だけどそんなわがまま…」
「わがままになって。てかあおいにはそれくらいが丁度いい。俺もずっとあおいと一緒にいたい」
ほら俺もわがままでしょ、と笑う。
やっぱり、ゆうは優しい…。
「ただ…僕がゆうを縛っている感じがして申し訳なくて…それで」
「ふふっ、なにそれ」
「ぼ、僕皆に嫌われてるんだよ?それでも一緒にいてくれるのが不思議で」
「そんなこと関係ないよ。それに俺はあおいを嫌ってなんかいない」
「…、っ」
嬉しくて言葉にできない。
「あ、でもあおいになら縛られたいかも」
「え、なにそれっ」
つい、おかしくなって笑ってしまった。
「笑ってる方があおいには似合ってるよ」
「…あ、ありがとう。あと、あの…ぼ、僕もゆうのこと好き…だよ」
せめて、ありがとうの気持ちは伝えたい。
「ふふっ、可愛いこと言ってくれるね…」
ゆうは笑って僕の頭を撫でた。
辛い出来事をゆうは上書きするように優しく包み込んだ。
「あおいは本当可愛いから閉じ込めたくなっちゃうね」
「ふっ、ゆうってば可笑しい」
ゆうは人を元気にさせるのが上手い。
それで僕は救われている。
「……本気だけどね」
「?」
「ううん!何でもないよ。ちなみに俺の好きはあおいが思っている以上だからね」
「ふふ、ありがとう」
やっぱり、ゆうは優しいな。
「それより、お腹空いてない?」
「あ、空いてるかも…」
お腹に手をあてる。
帰ってきてすぐ寝ちゃったからお腹が空く時間になっている。
「よし、じゃあ今日はハンバーグにしようか」
「やった!ゆう、ありがとう」
その後、ゆうが美味しいハンバーグを作ってくれた。
─────
───────
─────────
……。
昨日はハンバーグを美味しく食べてゆうといつものように寝た。ゆうが隣にいてくれるだけで心が落ち着く。まるで魔法使いみたいだ。もし、ゆうが隣にいてくれてなかったら僕は本当に一人ぼっちだったかもしれない。
そんなことを思いながら今日もまた一日が始まった。
「パシり」
今日も笹山くんに声をかけられた。
「おい、パシり」
「お、はよう、笹山くん…」
後ろから声をかけられ、ゆっくりと振り向いてあいさつした。
「たく、一回で振り向けアホ」
「ご、ごめんなさい」
「まあ、分かればいいけど。それよりてめぇ約束は守ってんだろうな」
「や、約束…?」
「あ?忘れたとは言わせねぇぞ」
軽くぎゅっと頬をつねられた。
「この脳は約束も覚えられないのか。とんだ飾り物だな」
頬をつねった後、最後に額をつんと指で押された。
僕は考える。
え、えっと笹山くんとの約束…って確か
「ご、ごめんなさい。ちゃんと覚えてます」
『クラスで俺以外と目を合わすな話すな』
『もし破ったら一回につきお前を殴るし酷いことする』
多分、約束ってこれのことだよね。殴られたり酷いことされるのは怖い。
これからは忘れないようにしないといけない。
「覚えてるならいい。絶対忘れるなよ」
少し怒った口調で笹山くんはそう言った。
僕はまた下を向きながら一日を過ごした。
授業が終わって放課後になった。靴をかえようと、靴箱を開けたら中には、白い一枚の手紙が入っていた。
その手紙を手にとって開けてみた。
『佐藤へ。今日の夜8時に体育館倉庫の掃除を頼む』
そ、掃除…?今まで靴箱はゴミとか入れられていた記憶しかないけど手紙は初めてだ。
夜8時って確か…部活とか終わってる時間帯だよね。
い、一体誰が僕に…?
こんな僕なんかにわざわざ手紙を書いて掃除を頼むなんて…。
とりあえず、夜8時まで時間はあるし、寮へ帰って鞄を置いてから考えよう。
─────
……。
掃除をすることに決めた。
誰だか分からないけど僕なんかに頼ってきているのは本当。
夜は少し怖いけど電灯を持ってるから大丈夫だよね。
朝にしようと考えたけど、わざわざ夜8時と言うくらいだから何か理由があるんだろう。
もうすぐ8時になるので僕はジャージに着替えてこっそりと靴を履いた。
「──あおい、どこ行くの?」
ビクッ
玄関のドアノブに手をかけた時に後ろから声をかけられた。
「えっと…ちょっと…売店まで」
夜から掃除って言ったら…怪しいよね。
ゆう、嘘ついてごめんなさいと心の中で謝った。
「俺が代わりに行こうか? 」
「だ、大丈夫!じゃあ、僕行くね!」
そう言って僕は寮から出た。
体育館の倉庫に着いた。
やっぱり暗かったので電灯をつけた。
ちなみに体育館倉庫は外にあって体育館のすぐ横にある。
鍵かかってないか心配だったけど開いていた。
「暗くてよく見えないや…」
倉庫の中に入って電灯の灯りだけじゃ暗くてよく見えない。
するとその途端に
ガシャン──ッ
扉の閉まる音が倉庫中に響いた。
「えっ…?」
ビクッと体が震える。
扉の方に行くと
「あ、れ…?」
…開かない。どうして?
ドンドンと、扉を叩く。
「だ、誰かいませんか?」
ど、どうしよう。
倉庫に閉じ込められた。
さっきまで開いていたはずなのに…なんで。
明日になるまで誰も来ない。
その間ずっとここにいるという恐怖が襲ってくる。
ガタンッ
「─だ、だれ?」
僕しかいないはずの倉庫に音が立つ。
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