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チャラ男会計
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しおりを挟む【祥side】
土曜日のことが頭から離れない。確かに瑞希があの子のことを『あおい』と言った。
まだ確信したわけじゃない。だって、ありえないだろ。見た目が全然ちがう。
もし、あの子が…本当にもしアイツだったら俺は一体、どうすればいいんだよ…。
今までにして来た酷いこと。
数え上げるときりがない。
誰よりも大好きだったあの子を俺は。
蹴った。殴った。酷い言葉をたくさん言った。
思い出してそう考えると、なんか、こう……心が空っぽになったみたいだ。どうすればいいんだ。
「あれ?最近、元気ないみたいですね」
「え、まじで?」
俺は窓の外を眺めていた視線を貴之の方へ移す。
「そう見えますね。いつもは喋ってばかりなのに今日は静かです」
そっか。俺、元気ないのか。
気づかなかった。
戸惑い、焦り、そう言った感情がさっきからぐるぐるして気持ち悪い。
「あ、そうでした。神影、もうあのゴミを惚れさせるのは諦めたんですか?」
貴之は思い出したかのように神影にそう問う。
「あ?…あ、あぁ」
神影は、ぼーっとしてらしくない態度をとった。
惚れさせる、か…。
「ねぇ、貴之」
「ん?何ですか?」
「…俺が惚れさせるのやっていい?」
別にまだあの子がアイツだって決まったわけじゃない。それを確かめるだけ。
ただそれだけ。
そう言ったら、貴之は驚いてる様子だった。
バンッー
すると、さっきまでぼーっとしていた神影が机を強く叩いて椅子から立ち上がる。
「だめだ」
「は?なんで」
なんか、イラッとして俺がそう聞くと、神影は我に返ったようにハッとした顔になり腰をおろした。
「わ、わりぃ。いや、何でもない。勝手にしろ」
「変なの~」
なんでそんなに慌てるの?
なにか知ってるの?
そうモヤモヤが体の底から溢れ出した。
「本当に惚れさせるのやるんですか?」
「うんー、まー暇だし」
「そうですか。なら助かります」
どうやら、惚れさせることは大丈夫そうだ。あとは、ちゃんと自分の目で見て確認する。
…キモオタがあの子なわけがないって証明してやる。
─────
────────
………。
俺たちは張り込みをしていた。もちろん、俺以外の皆は瑞希に会うため。だけど、俺は別に興味ねぇしどうでもいい。
すると、遠くの方で瑞希とアイツが歩いてくるのが見えた。俺たちは見えないように一応隠れてる。
だけど、なぜか気づかれた。瑞希はアイツの手を掴んで、来た道をまた走って戻った。
「チッ、バレましたか」
「バレちゃったね~」
「追いかけ、よ」
「……」
さっきから黙ったまんまの神影。何かおかしい。あのキモオタを惚れさせる作戦からいつもこうだ。
もう多分、瑞希に興味はないんだろう。
瑞希があのキモオタを、生徒会室に連れてきた時だって目線はずっとキモオタを見ていた。
…いくらなんでもおかしい。
そう疑問に思いつつも、すぐに俺たちは二人のあとを追った。
「じゃあ俺、ここから行くね~」
俺は途中から、皆から離れて先回りをすることにした。
校舎のつくりならもう既に頭に入ってるし次どこにどう逃げるかなんて予想がつく。
運動神経も良いから、あっという間に先回りして、使われていないある倉庫の扉を開けてそこに隠れた。
もうすぐ、ここの前を通る二人を待ち伏せて少し扉を開けて外を確認する。
ビンゴ。
思ったとおりに二人は来た。やっぱ、俺って天才かも~。なんつって。
「あおい!!早く走るぞ!アイツらが来て邪魔されてしまう!」
「は、はぁっ…ぁ、…ま、待って…っもう…む、無理っ」
「~っ、エロい声出すな!!」
なんだ、この会話。
早く倉庫の前に来たら、こっそりアイツだけを引きずり込むつもり。
すると、ドドド、と地響きが聞こえてきた。
それに重なって、二人の後ろから『瑞希ー!待ってくださいー!』などと声が聞こえた。
…ナイスタイミング。
その後から、瑞希を追いかける貴之達が現れた。
「くそ、…っ!」
瑞希はそう声を吐き出す。
キモオタはもう体力切れ。
「あおい!今のうち先行ってろ!!俺が足止めしとくから!」
「え、あ、はぁっ…わ、わかった…っ」
キモオタは息切れしながらも前へと足を進めて俺がいる倉庫の前まで来た。
───はい、俺の勝ち。
そしてゆっくりと手を伸ばす。
瑞希が見ていないその瞬間に
――グイッ
「っ!」
腕を引っ張って、体勢を崩したキモオタの腕を引き、倒れこみそのまま引きずり込んだ。
すぐに、扉を閉めてキモオタの口を押さえた。
外では騒がしい声が聞こえてくる。ゆっくりまた扉をほんの少し開けて確認する。
『お前らしつこいぞ!!もうっ!!』
瑞希は、怒鳴り散らしどこかへ走って逃げていった。そのあとを貴之達がまた追っていた。
だけど、神影のやつはキョロキョロと周りを見渡していたけど、すぐにハッとした顔になり貴之達についていった。
…本当、あやしいよね。
ふぅ、。まあ、でもこれで邪魔者はひとまず消えたかな。
俺は奴の口を塞いでいた手を離す。
たぶん、暗くて何も見えないだろう。
「やっほー、ダサ男くん」
その暗闇の中、そう声をかけるて奴の肩に触れると、ビクッと震えあがった。
「はぁっ、…え、えっと…」
まだこの状況を、把握していないみたいだ。しかも、俺だって気づいてねぇし。
だから、扉を開けて奴の腕を引っ張って一旦外に出る。
「…っ!」
キモオタはやっと俺だということに気づいたのか目を見開いた。
そしてすぐに顔を下にうつむけた。
ははっ、…そんなに俺が怖い?
「ねぇ、ダサ男くんー。なんで顔そらすの?」
嫌みを込めて言った。
やっぱり、こんな奴があの子なわけがない。そんなはずあるわけないだろ…。
するとキモオタは息をごくりと飲んでゆっくりと口を開いた。
「っ、あ、あの…」
「んー?」
「ぼ、僕…そ、その、なにか、気にさわること…してたらご、ごめんなさい!」
勢いよく頭を深々と下げる。
なにそれ。まじ、意味不明なんだけどー。
うーん、でも気にさわることね。
「別にー?これはただの暇潰しだし。あ、それよりも、確認しないといけないことあんだよねー」
「か、確認…で、ですか?、」
「うん」
そして、俺は一歩こいつに近づく。
「な、なんですか…?」
俺が近づくと、こいつは後ろに下がっていく。
「ねぇー、なんで離れていくのー?」
「え、えっと…」
多分、怖いんだろうね、俺のこと。わかっていて質問する俺、嫌な奴とか思わないでね。
「あっ…」
下がりすぎて、奴は倉庫の扉の壁に背中がもうついていた。
ははっ、バカなやつ。
「もう、逃げられないねー。てか、まじうざいよーお前」
「っ、ご、ごめんなさい」
「別に謝れって言ってるわけじゃないしー?」
まあ、無理矢理言わせちゃってるって、わかるけど面白いじゃん。
「はい。つーかまえたっ♪」
俺は奴の肩に手を置いた。これでもう逃げられない。
「あ、あの…っ」
「ほらあまり動かないで。俺、お前に確認したいことあるって言ったじゃん」
そう言って、奴のすげーダサい眼鏡に手を伸ばした。
早く、こいつがあの子と違うってわかりたい。違うって早く知ってこの目に焼きつけたい。
そしたら俺は悩まなくて済む。
俺は奴の眼鏡に手をかけ、奪った。
「ちょ、あ、あのっ!か、返してください…っ」
だけど、結果は残酷なものだった。
目の前で涙目を浮かべる俺の大好きな子と同じ顔。 一瞬頭の回転が停止した。
俺は眼鏡を手に持ったまま、すぐに少し距離を取った。
口を押さえる。
「……うそだろ」
この間、たっぷり1分はあっただろう。
ははっ、し、信じられるわけないよ。
だって、嫌われ者のアイツだぜ?
キモくてダサくて…弱虫で良いところがまるでない奴。
そんな奴が…俺の想いの人だなんてありえない。
だけど、この胸の鼓動の早さはあの子にしか感じたことのない感覚。
眼鏡を外したこいつの素顔は誰もが驚くほどの容姿をしていた。
っ、こんなのってありかよ…。
「あ、あの…っ、か、会計さん眼鏡返してください…っ」
俺がずっと探していたのお前だったのかよ。
だから探しても見つからなかったんだ。
こんなに近くにいたのに。
俺は地面に体育座りっぽく腰をおろして顔をうつむけた。
「か、会計さん…っ?だ、大丈夫ですか…?」
お前だったんだ。
俺がずっと喋りたかった相手。
喋りたくて…喋りたくてたまらなかった相手。
大好きな子に会えて、いつも酷いことしてきた相手だった。そんな真実を知ってさ、今更どう反応すればいいんだよ。
もうだめじゃん…。
誤算だった。絶対ないと思っていた。
キモオタが、“あの子”だなんて思っていなかった。容姿が違いすぎだろ…。
…いやでも、どこかで分かっていたかもしれない。
後ろ姿や頑張っている姿がどこか一瞬重なって見えたから。
もしかして、と思ったが、そんなわけない、と否定していた。
それはきっと自分にとって都合が悪かったからだ。
だから、誤魔化すようにいじめの対象としてたくさん酷いことした。
急に胸が苦しくなった。
「…っ、くそッ」
呟くように吐き捨てる。
「か、会計さん…?」
頭上からそう聞こえてきた。
若干、声が震えていてもその声は心配してくれる優しい声で温かい。
…なんで、気づかなかったんだろ。
俺ってバカなやつ。
ゆっくりと顔あげて立ち上がり、ズボンについた汚れを払う。
「わぁっ、会計さん!?」
ごくりと息をのんで、ぎゅっと前から抱き締めた。
どうしようもできなくて、今まで我慢してきたものが溢れ出た。
俺、絶対情けない顔してる。
「あ、あの…、会計さんっ」
「祥」
「へっ?」
「会計さんじゃなくて、祥って呼んでよ」
自分でも今なにいってるかわからない。だけど、ただ本当にそう呼んで欲しかっただけ。自分でもおかしいと思うくらい欲求が止まらないと思った。
でもやっと、見つけたんだ…。
何ともいえないこの感じ。だけど幸せって感じる。
今まで経験したことがなく、すごく胸が痛んだ。
すると、まだそんな時間も経っていないのにどこからか声がした。
「おーーーい!!!あおーい!!」
…やっべ。
とてつもなく嫌な予感がした。
「あおーい!!ってなんだ!!!何で祥とあおいが抱き合ってるんだよ!!!!」
多分、貴之たちをまいてきた瑞希が再び戻ってきた。
まじ、神出鬼没なやつ。大きな声で怒鳴り散らすもんだから周りに響いてる。
そこであおいを見ると、ビクッて体が揺れた。
せっかく、あともう少しで俺の名前を呼んでもらおうとした時に邪魔された。
「あーもうっ!イライラする!!あおいは俺のなんだからな!勝手に俺の許可なく触れるんじゃないぞ!」
はっ?
『怒るぞ!』とか言う瑞希だけど、もうすでに怒っているでしょ。
まあ、そんなこと考えてる暇ないけど。
「あれー?瑞希、こんなところにいたんだー、探したんだよー」
わざと、話を変える。まるで何事もなかったように。
『───あおいは俺のなんだからな!勝手に俺の許可なく触れるんじゃないぞ!』
こっちだって、なんか知らねぇけどイラついてんだよね。
「あ!今、話変えたな!!」
ちっ、バレたか。
いつもはあまり気づかないくせにこういう時だけ鋭い。
「ほら、さっさと離れろよ!って、あーーーー!!!あおい、お前眼鏡どうしたんだ!?」
俺とあおいを引き離した瞬間、叫び瑞希はあおいの肩を前後に揺すった。
瑞希はいつからこいつの素顔に気づいていたんだ…?
俺は狙っているものを横から奪われたり、先を越されたりするのは好きじゃない。
「あーもう!あおいの眼鏡返せ祥!!」
「言われなくても返すよー、ほらはいどうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
受け取ってあのダサい眼鏡をかける。
…こんなに変わるもんなんだな。
「なんであおい、俺の許可なく眼鏡はずしてんだよ!!許さないぞ!」
「そ、それはその…ご、ごめんなさい」
瑞希は怒鳴ってあおいの腕を強く掴む。おい、そんなに強く掴むと折れるだろ。
「はいはいはいー、それは俺が悪いから怒らないでねー」
俺は間にはいって瑞希の手をあおいの腕から離れさせる。
「祥が悪いんだな!もう俺のあおいに近づくなよ!!」
「なんでー?」
「なんでもだ!!」
瑞希って、結構俺と似て独占欲強いんだ。やっぱり、無理だね。こういうやつ。
「ほら、あおい行くぞ!これからデートしようぜ!!」
「あっ、は、花園くんっ」
瑞希が腕を引いて無理矢理連れていきやがった。
「…なにあれ」
でも、いまのところまだ行動に出なくてもいつかは俺のもんにするから大丈夫。
まさか、あの子があの嫌われ者だなんて思いもしなかった。
似ても似つかない。
なんで、あんな眼鏡をかけているんだ?目が悪いんだったら、もっとオシャレの眼鏡にすればいいのに。
まあ、そうしたら周りのやつが黙ってないからダサい眼鏡で良かったけど。
これにはまじビビった。
心臓が止まるかと思った。
誰にも教えてあげないけど俺、今、気づいたんだけどさ、俺たち(生徒会)がアイツをいじめのターゲットにしたのはただ暗くて地味でいじめやすそうな奴だったとかじゃなくて
───ただ関わりたいと思ったからだよね。
普通、考えればどこにでも地味な奴いるよね。
いじめてもいじめても、全然俺たちのこと悪く思わないし本当にこいつ人間かなって思ったことも事実。
…まあ、怖がられてるのは別だけど。
今までしてきたことはもう戻せることなんてできない。
だけど、嫌われたくない。
もし、嫌われてたら…
そっか、嫌われるってこんなに嫌な気持ちなんだな…。
アイツ、ずっとこんなのたえてきたのか…。
もう一回、話がしたい。
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