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俺様会長
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しおりを挟む【神影side】
まず俺は、奴との接点を作るために、Zクラスの担任の西条にアイツに雑用を頼めと、伝えた。 あの担任も瑞希に好意があるみたいだからこの策に快諾した。
そして俺は他の生徒会のやつらから『瑞希と一緒にゲーム中』という報告が写メつきで送られてきた。
…まじ、あいつら殺す。嫌味にしかに見えない。で、あのゴミは図書館の奧の資料室で掃除をしているみたいだ。
…面倒くせぇけどやるしかねぇのか。仕方なく、図書館の資料室に向かった。
ガチャ
「…入る」
そうひとこと言って足を踏み入れた。
うわ、本当にいたし。俺様に気づいた奴は小さく礼をしてゆっくりとまた手を動かした。
マスクをつけてカラコンも入れてるから俺様が会長だとわかってないみたいだ。話しかけるのも吐き気がするけどこのままだと終われないしな。
「おい」
俺様が声をかけて肩を掴んだら、ビクッと肩を揺らしてビビりやがった。
こいつ、ビクビクしまくりじゃね?そんなに俺様が怖いのか?いや、俺様が会長だって気づいてないからそんなはずはない。多分、誰に対してもこんな感じだと読み取れた。
「ほうきはどこにある?」
「え…?あ、ほ、ほうきはそのロッカーにあります…」
「あぁ、あれか」
ロッカーにほうきはあった。こいつ、喋るのもやっとなのか。どうやって落とそうか…。
とりあえず、ロッカーを開けてほうきを取り出した。
「俺様…じゃない、俺も手伝う」
いつもの癖で俺様と言ってしまったけどすぐに訂正したから大丈夫だろう。掃除なんて俺様には合わないが惚れさせるためにはこれぐらいやらないといけない。苦痛だ。
そのままほうきを持って、床の埃やゴミを掃いたら戸惑った感じで声をかけられた。
「そ、その…掃除は僕一人でも…」
なるほど、そういう身の程は知っているのか。確かに俺様は掃除なんてしない。するわけがない。する必要がない。だけど、こうでもしないと落とす方法を見つけられない。
「あ?別に俺も頼まれただけだから」
こう言えば黙るだろ。
「すみません…あ、ありがとうございます」
奴はそう嬉しそうにお礼を言ってまた手を動かした。驚いた。は、初めて…こいつにそういう反応をされたから。今までは怯えるか下をうつむくのどっちかだったから調子が狂った。
ありがとう…か。嬉しい…とか思ったのはきっと気のせい。どうでもいいことだ。俺は一体何を考えている。こいつは、このゴミと同じゴミだ。ほうきでどんどん掃いていく。そして、このゴミと同じように最後は捨ててやるんだ。歪む顔を見て楽しんだあと俺は一刻も早く瑞希を手に入れる。それが目的だ。
あー、でも掃除は面倒くせぇ。掃除なんて何年ぶりだ?…いや、したことないな。記憶を辿っていっても覚えがない。でもそれにちょっと近かったのは小学生のころ、ペットボトルのフタを拾って捨てたことくらいだ。ほうきを掃くのは実際今日が初めてなのかもしれない。
それから、1時間ちょっとぐらい掃除したところで俺は動きを止めた。もう無理だ限界。俺にほうきは合わない。
「おい、お前」
「は、はい…!」
「もう掃除は終わりだ」
「え、…?で、でもまだ半分も片付いて…」
確かにまだ半分も片付いていない。だけどこれ以上はだめだ。
「今日はここまでだ」
「じゃ、じゃあ…あとは僕に任せてください」
「だめだ」
それじゃあ意味がない。一緒にやって最終的に惚れさせるところまでいかないといけない。
「え?」
「明日、またここで一緒に掃除してやる」
「明日…一緒に?」
吐き気がするくらい嫌だけどこれも瑞希のためだ。
「あぁ、だから今日はここまで。いいな?」
「は、はい!あ、ありがとうございます」
ドクンーっ、まただ。
奴は深々と頭を下げた。何でこいつは…そんなにありがとうなんて言えるんだよ。て、また俺は何またバカなことを考えてるんだ。縁起が悪い。
あ、そうだ。口止めするの忘れてた。
「今日あったことは誰にも言うな、絶対。俺の名前は…えーっと、鈴木だ。明日もよろしく」
たまたま床に置いてあった本のタイトルが魚のスズキと書かれていたのでそれを使わせてもらった。本当はよろしくなんてしたくないけど。
「えっあ、…は、はい!す、鈴木さん…よろしくお願いします。ぼ、僕は佐藤です…」
「じゃあ、また明日な佐藤」
俺様は一目散に早く出たかったのでほうきをロッカーに戻して出ていった。
「…佐藤か」
あいつの名前、佐藤だったのか。ま、別にどうでもいいけど。これはゲームだ。くだらないことなんて考えなくていい。
それなのに、意味わかんねぇけど明日を少し楽しみにしている自分にイラついた。
―――――
―――――――
―――――――――
……。
次の日。俺様はすでに資料室にいた。だけど、まだあいつは来ていない。少し…早すぎたか?いやいやそんなことはない。俺様を待たせるなんてどんな神経してるんだ。許されるはずがない。待たされるのが嫌いだ。
それから数十分経ってやっと来た。
「遅い」
腕を組みながらすぐに口から不満がこぼれた。
「す、すみません…」
一言文句言ってやろうと思ったけど奴は何度も謝った。そして急いで床に転がっているものを拾った。俺はこいつが来る間、何も手につけていない。なぜか…もう怒るのもどうでもよくなってしまった。
やばい。こいつのペースに飲み込まれてしまったらだめだ。早く、奴の悪いところを見つけよう。惚れさせるより、こいつの悪いところを知ってそれを瑞希に言えば瑞希だって愛想つくだろう。
「そういや、お前最近転校生といるらしいな」
まずは、話題を話さないとな。さっそく聞いてみた。
「え?あ、花園くんのことですか?」
「あぁ」
「ぼ、僕なんかが言ってもいいかわからないですけど…花園くんは元気で明るくてそれに優しくてこんな僕なんかと でも一緒にいてくれます…」
「ふーん」
なんだ、こいつ…。何でそこで控えめなんだ。腹立つ。もっと何かあんだろ。
そして、奴はまた手を動かして片付けを続ける。
絶対、なんかあるはずだ。どんな方法でもこいつの口から何か吐き出させないといけない。例えば、誰かを貶すような言葉とか。
「なぁ」
「は、はい?」
「正直言って、あの転校生うぜぇとか思ってたりするだろ?」
ここはストレートに聞こう。さて、どんな答えが聞けるかな。
「そ、そんなこと絶対ないです!ありえません!!」
すぐに首を振って否定した。まだ、本性を現さないのか。案外しつこいやつだ。
「どうだかな」
「ほ、本当です!」
珍しく強く言ったと思ったらすぐにシュンと首をうつむけた。多分、信じてもらえないことが辛いのだろう。…ははは、ざまぁ。でもやっぱ、こいつみてるとイライラする。もっと苦しめたくなる。でも今日は辛そうなとこ見れたしもうどうでもいいや。
…そんな強く言うぐらい、そんなにこいつは瑞希が好きなのか。
「じゃ、俺今日は帰るわ」
楽しくなくなった。考えるのも面倒くさくなる。悪事を見つけようとしたけど、そう言ったことは言わないからつまらない。
「え、あ、あの!」
慌てて声をかけるのが聞こえたけど無視。
バタンー
そのまま資料室をあとにした。本当…イライラする。自分でもなんでこんなにイライラするのかわからない。…はぁ、カルシウム不足かもしれねぇ。これ以上、奴に関わると変になりそうだ。
――――
――――――
その次の日。俺は資料室には行かず、生徒会室にいた。すると、祥が珍しそうに近づいてきた。
「なんで神影がいるのー?もうあのキモオタくん落としたのー?」
「いや、なんか面倒くさくなった」
掃除はキツいし、悪口言わねぇし惚れるどころかビビってるし、俺様は何も得しない。イライラするだけ。
「まさか、落とせないとか言うんじゃないよねー?」
「はっ、それは俺様を舐めてるのか?」
「だって、まだ落としてないんでしょー」
っ。
「チッ」
本当に面倒くさい。
「こっちも大変なんだよね~。瑞希ゲームしてる最中もキモオタのことばかり話してくるし」
「うっせぇ。わかってる」
早く惚れさせないと瑞希が奪われるかもしれないって言いたいんだろ。なんで俺様がこんなこと…。
「うーん。神影がダメなら次は誰かに…「だめだ」
「え?」
俺は自然と口からこぼれた。…俺、今何て言った?祥のやつが急に次は誰かにって言い出すからなぜか嫌だった。
「てことは、やってくれるのー?」
「あ、あぁ俺様にできないことなんてない」
まずい。頷いてしまった。なんで嫌だったかわかった。きっとあれだ。こんな完璧の俺があんなゴミを惚れさせられないなんてありえないことだからだ。そうに決まっている。
それから、2日経ち、またあのマスクとカラコンの変装で資料室に向かった。掃除はもう終わってるだろうか。わからないがとりあえず、行ってみて確認しないと作戦が実行できない。
数分歩いて着き、資料室のドアを開けた。
ガチャ
…いた。
そこに小さな人影があった。
奴は本を片手に持っていて棚の下の段は本がもう収納されていたけど中間と上の方はまだだった。床は完璧に綺麗になっている。
まさか、一人でここまで終わらせているとは…。俺だったらあんなきついことしたくない。
でもいつもの癖でバカにしたような口調になった。
「まだ終わってなかったのかよ」
惚れさせることが作戦なのに棘のある言葉ばかりが出てくる。だってそれはしょうがない。こんな奴に何で俺様が敬意をはらわないといけない?だけど、今はそう思っている場合じゃない。
「ぼ、僕その…何をするにも時間がかかちゃって…で、でも今日で多分終わります」
俺がまた来ていることに驚いている様子だった。
「しょうがない。俺も手伝う」
「あ、ありがとうございます…そ、それと…あの!こ、この前はごめんなさい…」
急に、頭を下げて謝ってきた。なんのことだ。
「この前?ああ、別に。俺も少し言いすぎた。すまん」
あーあれのことか。すっかり、忘れていた。
「い、いえ!」
って待て…。今俺がこいつに謝った…?自分で自分に驚く。…ありえない。ありえないありえない。俺様が誰かに謝るなんて…。今までそんなことはなかった。自然と口から出た。
ありえない。
…れ、冷静になれ。
「これを並べればいいんだろ?」
そうだ。自然体だ。自然体。
「は、はい!そうです」
俺は、手に本を持ち本棚の一番上の方に並べた。
やばい。やっぱり、こいつが隣にいるだけでイライラしたり調子が狂ったりして自分が変になる。
とんだ疫病神だ。チラッと隣を見る。奴は頑張って本棚に手を伸ばそうと背伸びをしている。…無理だろお前の身長じゃどう見ても。と、そう思った矢先だ。
バタバター
「ぅ…わっ」
…ほら言わんこっちゃない。バランスが崩れて本を床に落としやがった。だけど、すぐさま拾って再度また背伸びをした。
絶対、それ永遠に続くな。俺は呆れて、奴の手首を掴んだ。
「ったく。上は俺がやるからそれを貸せ」
今のままじゃ一生終わらない。
「あ、ありがとうございます…すみません」
申し訳なさそうに本を俺に渡した。シュンとなっていた。少し可愛いと思った。
…は、可愛いだと?俺はまた変なことを…。こいつの容姿はどう見てもダサいしキモいしオタクだ。可愛い要素なんてない。
はぁ、多分疲れているんだ…。そうとしか考えられない。そして、本棚の上の方は俺、下の方は奴が並べた。
――――
――――――
………。
「ふぅ…。お、終わった…」
「やっと終わったか」
資料室の光景は、最初来たときとは大違いだ。見違えるほど全てがピカピカで綺麗になっている。
自分もそれに手伝ったとなると、こんなにも達成感を得るなんて思わなかった。今まで掃除は人任せだったからこんな気持ちは初めてだ。よくわからんが気持ちはいい。
「あ、鈴木さん。…そ、掃除手伝ってくれてありがとうございました」
深々とお辞儀をされ、感謝された。いや…確かにしたが、俺様は全く手伝ってるとは言えなかった。お前が一人でここ数日やっていたのだ。それなのに感謝されるとは…。どう反応すればいいかわからないから本棚から本を一冊抜き取り、ペラペラと捲った。
「お、おう…。、いてッ!」
ゆっくり、返事を返すつもりだったがペラペラと捲り過ぎて思いっきり紙でピシッと指を切ってしまった。
だ、だせぇ…。…っ、これは結構痛いな。
「だ、大丈夫ですか…!?あ、あの!これ使ってください…」
すると、奴は慌ててポケットからハンカチと絆創膏を取り出した。
「何でそんなもん」
持っているんだ。タイミングが良すぎるだろ…。
「ぼ、僕…よくケガしちゃうんで…いつも持ってるんです」
なるほど。そういうことか。ドジっぽいし、前にコケてるところとか見たことあった。状況は把握したが
「…そうか。でもいらん。これぐらい大丈夫だ」
お前の力なんぞ借りたくない。別に大したケガでもないし。断ればすぐに手を引っ込めるかと思ったけど、でもそうじゃなかった。
「だ、だめです…!え、えっとハンカチは毎日洗って汚くないです…だから使ってください。それに血が…」
すっごく心配され、内心少し嬉しいのと驚きが溢れた。
「舐めときゃ治るだろ」
「で、でも…っ」
いつもは一歩後ろにいる感じだが今は普通に接して来ている気がする。なぜ、こいつはこんなにも必死になれる?相手が少しケガしたくらいで心配してしかも絆創膏とかハンカチを渡すなんてお前になんの得になるんだ。
本当、何考えてるかわからなくて気持ち悪い…。俺は今までに感じたことのない罪悪感を感じた。
「はぁ…わかった。貸してくれ」
俺は折れて仕方なくそれを受け取った。
「あ、は、はい!」
奴はどうぞと言って快くハンカチと絆創膏を渡して嬉しそうな顔をした。
「ハンカチは借りとく。絆創膏さんきゅ」
「い、いえ!」
別に感謝の一つくらい言ってもいいだろうと思った。俺はさっそくこいつからもらった絆創膏を指に貼り、ハンカチは濡らして冷やすためにあとで使うからポケットにしまった。
「え、えっと、掃除を一緒に手伝ってくれて本当に助かりました!ありがとうございます」
最後にまた感謝の気持ちを込めてお礼をされた。もう関わるのがこれで最後みたいな口調。
「あぁ…。そうだこのハンカチ」
どうしても引き止めたくてそう言ったが
「あ!大丈夫です!返さなくてもいいです。いらなかったら捨てても構いませんので」
「…わかった」
別に寂しいなんて思っていない。ただ、悔しいだけだ。なんか、腹が立つ…。
「じゃ、じゃあ…ぼ、僕はこれで失礼しますね」
小さくお辞儀をして奴は出ていった。バタンとドアが閉まった。
…俺は一体何をしているんだ。結局惚れさせることができてないじゃないか。これじゃあ、本当に意味がない。俺はそれからどうすることもできなくてただ立ち止まっていた。
―――――
―――――――
………。
あれから数日経っていた。生徒会室に籠っている。
「神影ー、何そんなにそのハンカチと指の絆創膏をずっと見つめてるわけー?」
祥が急に話しかけてきた。
「は、は!?別に見つめてねぇよ!!」
俺は慌ててハンカチをしまって手は下におろした。見つめてただと…?無意識だった。
「なにそんなに慌ててんのー?あやしいー」
「あやしくねぇよ」
「ふーん。あ、そうだ。あのキモオタくんの件どうなったわけー?」
「あれは、失敗に終わった」
「え~~!!!なにそれ!困るよ!」
「ふざけるな。俺様だって、あんなやつと関わるのはもう嫌なんだよ」
…嘘だ。惚れさせたい。っ!また、俺はなにバカなことを考えてるんだ!
「皆聞いてー!神影が作戦失敗したんだってー!」
祥が大声で貴之や煌に聞こえるように言った。
「それは本当ですか?」
「…う、そ」
二人ともびっくりしているみたいだ。
「るせぇ。お前らだけ瑞希と遊ぶなんてどう見ても反則だろ」
不公平すぎる。
「それは、じゃんけんに負けた神影が悪いです」
「悪、い」
「そうだよ~、俺たちはただ瑞希を引き止めてただけだってー」
そんな怒らないで~とか言う祥。
「はっ、どうだか」
お前らは他人事だからそう言えるんだ。…だけど、またアイツに会いたいと思った自分に吐き気がした。
――
次の日。
「またハンカチ見て何してんの~?」
「うるせぇ。見ていない」
すぐにポケットにしまう。最近ずっと、あいつのことを考えている。あー、イライラする。
「いや、絶対ハンカチ見てたよね。まあ、いいや。あ、これから貴之が瑞希を連れて来るから神影はどっか行っといてね~」
「はっ、瑞希が来るのか。誰がどっか行くかよ」
瑞希に会うのは久しぶりだ。早く会って、アイツを忘れたい。
ガチャー
その途端に扉が開いた。
「瑞希~、待っていたよ」
「ちょ、瑞希に近づかないでください」
「み、ずき…会いた…かった」
瑞希を取り囲む邪魔者たち。俺様の瑞希を…っ。すぐさま、退け、と言おうとしたその時だった。
「もうーー!!お前ら邪魔だな!!今日はあおいも一緒にゲームするんだよ!どっか行けって!」
瑞希はそう大声で言って、“アイツ”の腕を掴んで入ってきた。
…うそ、だろ。俺様は固まった。こんなタイミングでまた会うなんて思いもしなかった。
「さあ、あおい!お前こっち来いよ!!今からやるゲームすっげぇ面白いんだぜ!」
「え、あ、は、花園くん!ぼ、僕は…っ」
瑞希に引っ張り出されていたのはやっぱりアイツだった。何でこんな時に…。
クソッ。
「瑞希~なんでこんな奴連れてきたのー」
「あおいのことか?なんだよ!皆でやる方が楽しいに決まっているだろ!!」
「違いますよ。このゴミが勝手に着いてきたのです」
「ぼ、僕は…そのっ」
奴は、違うとすぐに言えずに顔をうつむけた。
見てすぐわかる。奴の細い手首の方がすごく赤くなってるから…。多分、瑞希がずっと掴んでいたと伝わってくる。これじゃあ、すぐに強引に連れて来られたって誰でも気づくだろ。それほど、赤いのだ。
だけど、今まで俺はそれに気づきもしなかった。…いや気づこうともしなかった。ゴミ扱いや空気扱いしてあいつの存在をないものにしていた。時に暴力を振るったことだってあった。罵声は会うたび毎日投げつけてる。
こんな弱いやつに…。たまらなく、胸が苦しくなった。だけど、こいつの苦しむ顔がたまらなくいいから悪い。もっといじめたくなる。全部、こいつが悪いんだ。
こんなにイライラしてコイツのことばかり考えるのも全部コイツのせい…。今までしてきたことを後悔?…そんなのしていない。
「ほらほら、神影も言ってやんなよ~、帰れって!」
すると、祥が俺にキモオタにそう言ってやれ的なことを言う。
「え、あぁ…」
突然、話を振られて困る。別にそんなのどうでもいいじゃないか。あ、れ…。普段はそんなこと思わないのに。
俺は一体…何がしたいんだ。自分でもよくわからず仕舞いで、勝手にそう考えてしまう。それから、瑞希たちはゲームをし始めた。俺は瑞希ではなくて、奴から目が離せなかった。
祥たちは奴がいることを許せないみたいでずっと睨んだり、帰れとたくさん棘のある言葉を投げつけていた。俺はそれを遠くから見ていた。
…よくこんなのアイツは耐えきれるな。ふと、そんなことを思った。
あー、もう何で俺はあんな奴のことばかり。
この時間、ずっとイライラして自分の机にうつ伏せた。
―――――
―――――――
……。
あれから、数日が経った。俺はまたマスクとカラコンをいれてあの格好をしている。
なぜかというと、貴之たちに『もうアイツ邪魔だから』と言われ、またこの格好をすることになった。
今、アイツは一人で図書館に本を借りに行っているみたいだ。近づくなら今がチャンスだと思った。だから、仕方なく図書館へと足をのばした。
ガラー
図書館の扉を開ける。静寂に包まれて人がいる気配もない。…本当にいるのか?少し疑った。
だけど、すぐに見つけた。奥の方で、本棚に手を伸ばそうと背伸びをしているが見えた。
アイツだ。すぐにそっちに向かう。
…背ちいせぇくせに高い本棚に手を伸ばすなと言いたくなる。
「ほら、これだろ」
俺は後ろから、軽々と本を取ってあげて渡した。
「わあっ、あ、ありがとうございます…。えっと…も、もしかして鈴木さん?」
「あぁ」
奴は驚いた様子だった。まあ、会うのはあれ以来だしな。でも、俺様だって覚えてくれていたのか。久しぶりに鈴木さんと呼ばれ、 つい、嬉しいと思ってしまった。
「ひ、久しぶりです…。この前はどうも助かりました」
「いや、俺は別に大したことしてねぇから」
「そんなことないですよ。…今だって本を取ってくれて本当助かりました」
「そんなのどうってことねぇし。それより何でお前こんな誰もいない時に図書館にいんの」
俺がそう聞くと、奴はビクッと肩を揺らした。
「え、えっと…誰もいない時間じゃないとだめだから…」
「なんで?」
「ほ、ほら…僕、皆に嫌われているし…顔を合わせたくない人が結構いて…」
徐々に声が弱々しくなる。多分、前に痛い思いをしたんだな。
「なるほど。変なこと聞いて悪かった」
「い、いえ別に!本当のことですし…それより何で鈴木さんはこんなところに?」
「あ、俺か?別に気分転換」
「そ、そうなんですか…。あ、その鈴木さんは僕を見てムカついたりイライラしたりしないんですか?」
「は?」
突然、何を聞いてくるんだ。
「あ、いや、だ、だって…僕みたいなの、顔も見たくないって思われるほど嫌われてるし…その一緒にいて不快な思いをさせてるのかもって思って…」
「なにそれ」
「へ?」
こいつ、どこまでネガティブなことしか考えられないんだ?
「安心しろ。不快な思いなんてしていない」
前はものすごく不快だと思っていたが今はそうじゃない。まあ、なんかイライラはするけど…。それもよくわからない。
「あ、ありがとうございます…。す、鈴木さんって本当優しい方ですね」
今にも泣き出しそうな声だった。おいおい、別に泣かすようなこと言ってねぇよな?
「どうした?泣きそうな声して」
「え、えっと…その嬉しくて」
「っ!」
ドクリ。胸に衝撃が走った。なんだこれ…。心臓が、嫌な音を立てた気がした。コイツにただ、嬉しいと言われただけなのに。
動揺してイライラする。また、この感じ。意味わかねぇ。こいつのこと考えるだけでむしゃくしゃする。
「…する」
「?」
「やっぱり、お前といるとイライラするつってんだよ」
「…、…っ…」
奴は黙って顔をうつむけた。そうだ。こんな奴嫌いだ。…大嫌いだ。もうなんか、作戦なんてどうでもよくなった。変装なんかしてられるか。そう思ったすぐに俺は奴の目の前でマスクを外した。
「っ!…か、会長さん…!?」
すると、マスクを外した俺を見て奴は驚いた。肩が震えて怯えている様子だった。
なんだよ、その反応。
「…ムカつく」
「す、鈴木さんが…か、会長さん…?」
奴は声を震えさせながら、あたふたしていた。急なことで理解できないみたいだ。
「お前さ、まじうぜぇ。ちょっと優しくしたからって調子のるなよ?俺様がただでお前に優しくしてると思っているのか?全部演技だよいい加減気づけよ」
─違う。違う、…違う。
違う!
俺が言いたいのはそれじゃない。
「わかったらうせろよ。俺様の前に顔を出すな」
───やめろ、俺。
もうこれ以上なにも言うな。それなのにもう口走ってしまった。
「あ、ご、ごめんなさい…っ、ぼ、僕…本当ばかで気づいてませんでした…っ。…か、考えてみたらわかることですよね…っ!で、でも演技でも嬉しかったです…あ、ありがとうございました」
今にも泣きそうな声だった。さっきとは違う傷ついたような声。
…俺はそんなことを言いたいんじゃない。奴は『し、失礼します』と言って俺の横を過ぎ去って行った。何やってんだ、俺は。自分が言ったことだろ…。
自然と足が動いた。奴のあとをすぐに追う。矛盾してるってわかってる。だけど、嫌でたまらない。
もう、なんでこんなに自分に余裕がないのかわかんねぇ…。
「…いた」
奴を見つけた。
だけど、俺は足を進めることなくその場で立ち止まった。
「あれって…」
俺は浮かれて忘れていたのかもしれない。今、見える光景は俺にとってすっごく残酷なものだった。遅かった。いや、違う…元から知っていた。
アイツの隣には新條ゆうがいたことに。今、見えてる光景は新條ゆうに抱き締められている奴の姿。なんだよ…あれ。
たまらなく、胸が痛んだ。このイライラは何なんだ。俺が好きなのは瑞希だ。
…なのに、なぜか
お前が頭から離れない。
…あおい。
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