19 / 96
【第一部】
19、私とキスしたかった?
しおりを挟む
ラーメン屋から歩いて五分ほどで慧のアパートに着く。慧の部屋に来るのはこれで二回目だけど、相変わらずきちんと整理されていて、綺麗な部屋。
慧に出してもらった冷たいウーロン茶を飲んでいると、壁に立てかけられているギターケースが目に入る。
「家でも練習してる?」
「たまに」
それを指差すと、慧もギターケースの方をチラリと見てから頷く。
「ねぇねぇ、ちょっとギター弾いてみてもいい?」
「弾いたことあるんですか?」
「高校生の時にちょっとだけ」
「そうですか。どうぞ」
ダメ元で言ってみたんだけど、あっさりとOKが出た。
すぐに立ち上がった慧はギターケースを手に取ると、ケースから黒のエレキギターを取り出し、手慣れた様子でヘッドホンとアンプとギターを接続する。それから、私の頭にもヘッドホンを被せると、スマホのアプリで原曲とコードを流してくれた。
「弾けるかなぁ。……ん~なんか変だよね」
スマホの画面に出てくるコードを見ながら弦を押さえてみるけど、思ったように音が出ない。どうやるんだったかなぁ。
高校生の時に一通り楽器はやって、キーボード は家でも少し練習してたけど、ほぼほぼボーカル専門だったし、ギターを弾くのは数年ぶり。
「押さえるとこ違いますよ」
うーんと首をひねっていると、私を包み込みように後ろから手を回され、両手を上から握られた。
「手小さいですね」
「そう?」
そこまで自分の手が小さいと思ったことないけど、言われてみれば小さい方かもしれない。というよりも、慧の手が大きい気がする。
「慧は手大きいね。指も長くてうらやましい」
これだけ指長かったら、楽器を弾くのにも向いてそう。そんなことをぼんやり考えていると、慧が無言で私の手をぎゅっと握った。
「これじゃギター弾けない」
「真面目に弾く気なかったんじゃないですか」
クスクス笑いながら慧の胸にもたれかかると、慧は私からギターとヘッドホンを取り上げて床に置く。
「え~あるよ。教えてよ」
「やる気があるなら今度教えます」
「今度って———」
慧の方に首だけで振り返ると、その瞬間に唇を重ねられた。
「ね? 慧もにんにく食べたから、臭くないでしょ?」
「そうですね。にんにく食べて正解でした」
しれっとそんなことを言う慧との距離をぐっと詰め、にっこりと笑いかける。
「私とキスしたかった?」
「うん」
後頭部を片手で掴まれ、ぐいっと引き寄せられると、再び唇を重ねられた。わずかに開いていた唇の隙間から、熱い舌をねじ込まれる。
「んっ」
口の中を舌でなぞりながら、慧の手が私の服の裾から入ってきた。ちょうどそのとき、私のスマホが震えたけど、二人してそれは無視。
スマホがブルブル震えるなか、慧の手が直接私の背中を通って上の方へと這っていく。その手が私のブラのホックにかかったとき、一際大きい着信音が慧のスマホから鳴り始めた。
「さすがにこれ放置してたら近所迷惑になるよね」
たぶんさっきアプリつけてくれた時の設定のままになっちゃってたんだよね。
「電源切っておけば良かった」
苦笑いを浮かべて慧と目を合わせると、慧はすっと立ち上がり、忌々しそうにスマホを手に取る。
「はい」
慧が電話してるうちに私もスマホのチェックしとこっと。カバンの中からスマホを取り出してタップすると、一花からの着信とメッセージが来ていた。
「大学の友達からでした」
一花にメッセージを返し終えると、ちょうど電話を終えた慧がこちらを振り向く。
「私も。一花からだった。彼氏と旅行行くんだって」
「彼氏出来たんですか?」
「例の先輩。またヨリ戻したらしいよ」
「そうなんですか」
「うん。車で行くんだって。車あると遠出出来ていいよね。私も車持ってる彼氏がほしいなぁ」
「夏休みに入ったら、車校行って免許とるつもりです」
何気なく言っただけでそこまで本気で言ったわけじゃなかったけど、予想外に真剣なトーンで言われ、返す言葉に困る。
「ちょうど姉が車を買い替えるみたいで、今使ってる車は譲ってくれるそうです」
「? うん」
やっぱり慧が何を言いたいのかよく分からなくて、曖昧に相槌を返す。慧はそんな私の右手を取り、それを両手でぎゅっと握る。
「免許取って車も手に入ったら、色々なとこに連れて行きます。部屋の掃除もします。
良い彼氏になれるように努力します。
だから、———俺と付き合いませんか?」
冗談だとはとても思えないくらいに真剣な目で言われ、嫌な汗が背中を流れていった。その目を見ていられなくて一瞬うつむいて、数秒後に顔を上げる。
慧に出してもらった冷たいウーロン茶を飲んでいると、壁に立てかけられているギターケースが目に入る。
「家でも練習してる?」
「たまに」
それを指差すと、慧もギターケースの方をチラリと見てから頷く。
「ねぇねぇ、ちょっとギター弾いてみてもいい?」
「弾いたことあるんですか?」
「高校生の時にちょっとだけ」
「そうですか。どうぞ」
ダメ元で言ってみたんだけど、あっさりとOKが出た。
すぐに立ち上がった慧はギターケースを手に取ると、ケースから黒のエレキギターを取り出し、手慣れた様子でヘッドホンとアンプとギターを接続する。それから、私の頭にもヘッドホンを被せると、スマホのアプリで原曲とコードを流してくれた。
「弾けるかなぁ。……ん~なんか変だよね」
スマホの画面に出てくるコードを見ながら弦を押さえてみるけど、思ったように音が出ない。どうやるんだったかなぁ。
高校生の時に一通り楽器はやって、キーボード は家でも少し練習してたけど、ほぼほぼボーカル専門だったし、ギターを弾くのは数年ぶり。
「押さえるとこ違いますよ」
うーんと首をひねっていると、私を包み込みように後ろから手を回され、両手を上から握られた。
「手小さいですね」
「そう?」
そこまで自分の手が小さいと思ったことないけど、言われてみれば小さい方かもしれない。というよりも、慧の手が大きい気がする。
「慧は手大きいね。指も長くてうらやましい」
これだけ指長かったら、楽器を弾くのにも向いてそう。そんなことをぼんやり考えていると、慧が無言で私の手をぎゅっと握った。
「これじゃギター弾けない」
「真面目に弾く気なかったんじゃないですか」
クスクス笑いながら慧の胸にもたれかかると、慧は私からギターとヘッドホンを取り上げて床に置く。
「え~あるよ。教えてよ」
「やる気があるなら今度教えます」
「今度って———」
慧の方に首だけで振り返ると、その瞬間に唇を重ねられた。
「ね? 慧もにんにく食べたから、臭くないでしょ?」
「そうですね。にんにく食べて正解でした」
しれっとそんなことを言う慧との距離をぐっと詰め、にっこりと笑いかける。
「私とキスしたかった?」
「うん」
後頭部を片手で掴まれ、ぐいっと引き寄せられると、再び唇を重ねられた。わずかに開いていた唇の隙間から、熱い舌をねじ込まれる。
「んっ」
口の中を舌でなぞりながら、慧の手が私の服の裾から入ってきた。ちょうどそのとき、私のスマホが震えたけど、二人してそれは無視。
スマホがブルブル震えるなか、慧の手が直接私の背中を通って上の方へと這っていく。その手が私のブラのホックにかかったとき、一際大きい着信音が慧のスマホから鳴り始めた。
「さすがにこれ放置してたら近所迷惑になるよね」
たぶんさっきアプリつけてくれた時の設定のままになっちゃってたんだよね。
「電源切っておけば良かった」
苦笑いを浮かべて慧と目を合わせると、慧はすっと立ち上がり、忌々しそうにスマホを手に取る。
「はい」
慧が電話してるうちに私もスマホのチェックしとこっと。カバンの中からスマホを取り出してタップすると、一花からの着信とメッセージが来ていた。
「大学の友達からでした」
一花にメッセージを返し終えると、ちょうど電話を終えた慧がこちらを振り向く。
「私も。一花からだった。彼氏と旅行行くんだって」
「彼氏出来たんですか?」
「例の先輩。またヨリ戻したらしいよ」
「そうなんですか」
「うん。車で行くんだって。車あると遠出出来ていいよね。私も車持ってる彼氏がほしいなぁ」
「夏休みに入ったら、車校行って免許とるつもりです」
何気なく言っただけでそこまで本気で言ったわけじゃなかったけど、予想外に真剣なトーンで言われ、返す言葉に困る。
「ちょうど姉が車を買い替えるみたいで、今使ってる車は譲ってくれるそうです」
「? うん」
やっぱり慧が何を言いたいのかよく分からなくて、曖昧に相槌を返す。慧はそんな私の右手を取り、それを両手でぎゅっと握る。
「免許取って車も手に入ったら、色々なとこに連れて行きます。部屋の掃除もします。
良い彼氏になれるように努力します。
だから、———俺と付き合いませんか?」
冗談だとはとても思えないくらいに真剣な目で言われ、嫌な汗が背中を流れていった。その目を見ていられなくて一瞬うつむいて、数秒後に顔を上げる。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる