つい勢いで後輩の童貞を奪っちゃうような女ですが、こんな私でも愛してくれるんですか?

春音優月

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【第一部】

4、どこまで怒らせれば気がすむんですか

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 三日後の金曜日。
 午前の授業を終え、友達と学食で昼ごはんを食べながらしゃべってたけど、スマホの時間を見て立ち上がる。
 
「時間だから、そろそろ行くね」
「のんちゃん、今日サークル? 軽音だっけ」
「うん、そうだよ。金曜はサークルの日なの」
 
 また月曜にね、と手を振って、食器を片付けてから、部室のあるサークル棟に向かう。
 
 火曜と金曜は部活・サークル活動の日と大学で定められていて、午前中しか授業がないんだ。ガチめの部活なんかは火曜と金曜だけじゃなくて週5・週6で活動してるし、部活でもサークルでも入るか入らないかは自由だけど、大学生活をエンジョイしたい私は軽音サークルに所属してる。
 
 中学は合唱、高校は軽音部に入っていて歌は好きだけど、大学に入ってまでは部活はやる気はなかったんだ。勉強もあるし、一人暮らしだからバイトもそれなりにがんばらなきゃいけないし、遊びたいし?
 
 そんなわけで、週2でゆるく活動してる軽音サークルに入ったけど、好きなことも出来て、気の合う仲間もいて、けっこう楽しみなんだよね。
 
 ただ三日前に慧とあんなことがあったばかりだから、ちょっと気まずいんだけど……。どうするかなぁ。
 
「あ」
 
 そんなことを考えていたら、サークル棟の入り口のところで慧とばったり会ってしまった。肩から黒のギターケースを下げた慧は、私と目が合った瞬間にわざとらしく視線を逸らす。
 
「……どうも」
 
 視線を逸らしたまま慧は軽く頭を下げ、そのまま前を行こうとする。
 
 予想はしてたけど、そんなあからさまに避けなくても。いや、私が悪いのは分かってるんだけど。
 
 でも、せっかく今までは仲良くやれてたのに、このままずっと気まずい関係なんて嫌だよ。
 
「待って、慧」
「なに」
 
 どうにかしないと。そう思って慧の腕を掴んだけど、振り向いた慧の目があまりに冷たくて早速心が折れそう。
 
「この前はごめんね」
「それはもう聞きました」
「やっぱり怒ってる、よね」
「……」
 
 恐る恐る聞いてみるけど、慧はじっと私の目を見つめたまま何も言ってくれない。何か言って、慧。無言が一番気まずい。
 
「謝って済むことじゃないし、こんなこと言えた義理じゃないんだけど、仲直りしたい。慧と気まずくなりたくないよ」
「仲直りですか」
「うん、ダメかな?」
 
 少しだけ態度を軟化させた慧との距離を詰めると、慧は一歩引いたけど、それでもまだ話を聞いてくれる気はあるみたいだ。
 
「いや、まあ……ダメ、ではないですけど。
俺もいきなり帰ったりしてすみませんでした」
 
 気まずそうな顔でペコリと頭を下げられ、ブンブンと首を横に振る。
 
「ううん、私が悪いから」
「……」
「考えたんだけどね、女の子は処女かそうじゃないかって身体で分かっちゃうけど、男の子はそうじゃないでしょ?」
「は?」
「だからね、昨日のことは忘れて、ノーカンってことにするのはどう? 慧に次の彼女が出来て、その子とする時が慧の初めてってことで」
 
 うん、これ完璧じゃない?
 この前から考えていたことを一気に話すと、この前と同じく慧の表情が無くなっていく。
 
 あれ? もしかして、またやらかした?
 
「どこまで俺を怒らせたら気がすむんですか」
「えっと、慧、あのね、」
「もういいです、分かりました。忘れます。花音先輩も忘れてください」
 
 どうにか取り繕おうとしたけれど、慧は早足で階段を上がっていってしまった。
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