魔王の娘としては大変不本意ではございますが、勇者と結婚することになりました。

春音優月

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5、勇者の実力

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 コンコンと遠慮がちにドアをノックする音が聞こえたのは、ちょうどその時だった。
 
「ミアさま、アデルです。入ってもよろしいでしょうか」
「構わない」
 
 ミアがリリスに目配せをすると、リリスは羽を広げて窓から出ていき、そのまま夜の闇に紛れる。
 
 リリスが出て行ったのと入れ替わりにアデルが入ってきたが、その瞬間にミアは指先に全身の魔力を集め、躊躇なくアデルにそれを放つ。
 
 しかし、不意に攻撃を仕掛けられたアデルは素早く剣を抜いてそれを受け止めると、ミアの首元に剣を突きつけた。
 
「あなたは……。ミアさま、でお間違いないでしょうか」
 
 アデルが剣を鞘におさめながらもミアの顔をじっと見つめると、ミアもアデルを見つめ返して頷く。
 
「いかにも。私が大魔王の娘、ミアだ」
「なぜこのようなことを?」
「魔族と人間が夫婦となるなど出来るはずがなかろう。魔族と人間の関係は、どちらかがしもべとなってひれ伏すか、敵となるかだけだ」
 
 アデルがミアを問い詰めると、ミアは悪びれもせずにそう告げる。アデルがあっさりと攻撃を受け止めたことは多少は驚いているようだが、それでもまだ自分の方が上だと思っているようだ。
 
「そうでしょうか。私はそうは思いませんが」
「綺麗事を言うな。何千年も殺し合いをしてきたのに、今さら心を許せるわけがない」
「魔族と人間が仲良くなるために、私とあなたが結婚するのでしょう」
「形式上はな。しかし、魔族の私と人間のお前が本当の夫婦になどなれるわけがない。敵となるか、どちらかがひれ伏すしか道はないのだ」
 
 アデルは困ったような顔でミアを見つめていたが、先程言ったことをミアがもう一度繰り返すと、何かを思いついたようにピンと指を立てる。
 
「なるほど。それでは、私の方が強ければ、私がミアさまをしもべにしても良いのですね」
「ああ、そうだ。そのようなことは絶対にないだろうがな。ステータス!」
 
 ミアがステータスと唱えると、空中にウインドウが表示され、ミアとアデルの詳しいステータスが表示される。
 
 ミアはレベル67で、魔力魔防の値が突出して高い。ミアは自分のステータスを自慢気に眺めていたが、アデルのステータスを見て、愕然とした。
 
「レベル102……だと……? 99でカンストじゃないのか?」
 
 レベル67のミアが弱いわけではない。むしろミアは強い方で、102もあるアデルが異常なのだ。
 
 レベル99の魔王から生まれたミアは、生まれつきのレベルと全体的なステータスも高かったが、こつこつ魔物狩りに勤しんでレベルを上げてきたのだ。魔王と幹部を除き、ミアよりレベルの高い者はいなかったし、ミアは自分の強さに絶対の自信を持っていた。
 
 しかし、どうしたことだろう。
 アデルのレベルはミアを圧倒的に上回っている。ステータスを見ても攻撃力防御力が群を抜いているが、魔力魔防までもがミアのステータス値よりも高い。
 
「この私が、全てにおいて負けているだと? 人間の男に? 人間に……たかが人間なんかに……!」
 
 悔しさの余りミアはギリリと唇を噛み締め、声を張り上げた。
 
「どんな手を使って、ここまでレベルを上げた!」
「盗賊を退治してたり、村を襲っていたモンスターを倒しているうちにいつのまにか……?」
「それぐらいでレベル100に到達出来るのなら、私はとっくにレベル200を超えている!」
 
 のほほんとしているアデルにミアはますます腹が立ったが、それと同時に無力感に襲われた。
 
「この私が、魔王の娘たる私が、こんな優男に勝てないというのか……」
 
 ミアの全魔力を込めた攻撃をあっさりとかわしたのは、まぐれだと思っていた。いや思いたかったのだが、今になって考えてみると、あの時点で勝敗はついていたのである。
 
 一瞬でミアの喉元に剣を突きつけ、圧倒的に上回っているステータス値を見せつけられれば、いくらミアでも負けを認めないわけにはいかない。
 
「仕方ない、私の負けだ。私を殺すもいたぶるも、好きにするがいい」
「……え?」
 
 くっと悔しそうな表情を浮かべながらも潔く負けを認めたミアは、ぎゅっと拳を握る。
 
「好きにいたぶれって言われても……」
 
 アデルは困ったような笑顔を浮かべ、目の前にいる小さなミアを見下ろす。
 
 アデルはミアを殺すつもりはもちろんなかったし、しもべにすると言ったのも冗談のつもりだった。親同士が決めたことではあるが、これも何かの縁。仲の良い夫婦になれたら、と思っていたのである。
 
 元来アデルは優しい性格で、無闇に生き物を殺すこともないし、誰かをいたぶるような趣味もない。だから、好きにいたぶれと言われても困るのだが……。
 
 小柄で可愛い外見なのに、やたらえらそうなお姫様。自分の妻となる予定のお姫様が小さく震えながら、自分を好きにいたぶれと言う。
 
 可愛くて強情なミアを見ているうちに、清廉潔白なアデルの中に小さな加虐心が芽生え始める。
 
「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」
 
 アデルはミアの腕を引き、そのままふかふかのベッドに押し倒すと、自分も彼女の上に馬乗りになった。
 
「は、離せ!」
 
 突然のことにミアは驚き、アデルから逃れようともがく。しかしそんなことではアデルはびくともせず、ミアを掴んでいるその腕はがっちりと彼女を捉えたままだ。
 
「ミアさまを好きにしてもいいんですよね?」
 
 にっこりと笑ったアデルの笑みは、残酷なほどに美しい。その顔を見たミアは自分の発言を後悔したが、今さら後悔してももう遅かった。
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