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第334話 最終話~かなり遅れたクリスマス

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 佐野は今一度、改めてユキとの恋路を振り返る。
 古山建設の忘年会での最悪の出会いから偶然の再会を経て、僕はユキに恋をした。
 でも片思いゆえ、一人で大騒ぎしながらの悶絶する日々だった。
 その一方で、ユキは、いつ、どのような経緯で僕に好意を抱いてくれたのだろうか。
 正直、とても聞いてみたくてたまらないのだが、それは絶対にやめておこうと決めている。 
 なぜなら恋愛とは、感情のみで成立しているものだから。
 目に見えず、手で触れることもできない実にあやふやなものであり、物理的な根拠や理論では解き明かせないものだから――
「では、遅ればせながら、メリー・クリスマス」
 佐野は穏やかな笑みを浮かべながらそう言って、水割りのグラスをユキへ向かって小さくかかげた。
 するとユキも、すぐさまグラスをかかげ、それから佐野へ、いたずらっぽい表情を浮かべながらこう言った。
「かなり遅れたクリスマス――か。じゃあ、今からここで、俺達のクリスマスの『やり直し』をするとしよう。そして、カウントダウンパーティーの『やり直し』は、この店を出たあと、俺の部屋の近所のラーメン屋でしよう。そこで汁を飛ばしまくりながら、チャーシューメンとギョウザを食べようぜ」
 そのラーメン屋とは、かつてユキがAとの『空きっ腹を抱えてのおしゃれなデート』が終了したあと、汚れてもかまわない服に着替えて駆け込んだ店である。そして、前述のメニューを注文し、むさぼるように食べたのだ。
「いいですね! どうせこのスーツ、捨てるんですから、汁飛びなんか気にせず豪快に食べたいです」
 佐野はユキの思いを汲んだうえで、大きくうなずく。
 これもまた、ユキにとっての、辛い過去の『やり直し』であるからだ。
 そうだ。ユキと一緒にこれからも、どんどん『やり直し』て、各々が抱えている嫌な記憶を一つ残らずリセットしていこう。
 そして、そのまっさらな状態から、二人で素敵な想い出を新たにつくるんだ――佐野の鼓動は、未来への希望で高く鳴り響く。
「よし。決まりだ。俺は部屋で作業服に着替えるから、その間、汚い部屋だけど、のんびりしてくれよな」
 ユキが晴れ晴れとした表情で言う。
「はい!」
 佐野も元気よく返事をする。
 そして、カウンターの隅ではオーナーが、シャンパングラスを磨きながら優しく微笑んでいる。
 こうして二人は、最高に幸せな気持ちで白い皿の上の『クリスマス』を仲良く分かち合うのだった。〈完〉

 




  










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