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第333話 根性曲がりの愛の告白は、実にまどろっこしい

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「これに関して、ついでに言ってしまえば――」
 ユキが額を手でこすりながら言う。
「実は俺、ケイが無職の間も、キャラメル・フェアリーへ昼飯を食べに通っていたんだ。オーナーに愚痴を聞いてもらうためにな」
「愚痴?」
「そうさ。ケイの採用計画が思いのほか難航して、さすがの俺も、あの時はかなり弱気になったんだ。そういう紆余曲折があったから、ケイの入社が決定した時は、オーナーとオレンジジュースで盛大に乾杯したものさ」
「ああー……色々と、すみません」
 佐野はユキの方を向いて深く頭を下げる。
 自分が今年の仕事始めの日に、星崎と大喧嘩をして会社を辞めていなければ、ユキによる引き抜きの計画は、もっとスムーズに事が運んでいたはずだからだ。
「いや、いいんだ。気にするな。結果的には俺の手回しがなくても、ケイはケイ自身の実力だけで入社できたんだ。ほかの技術者達が、ケイの技能と気質を早々に見抜いて、俺より先に手を打ってくれていたからだ」
 ユキは肩をすくめ、そして話を続ける。
「しかも逆に、そういう流れで採用された方が、今後の昇給や昇進には絶対に有利だし、俺の担当する工事現場へも配属しやすくなる。まあ、そういうわけで――ケーキ、食べようぜ」
 ユキは当時の心情と経緯を吐露した照れ隠しなのか、ケーキの上に飾られている星形のクッキーをつまみ上げると、そそくさと口へ運ぶ。
 一方、佐野は、これらの説明全てがユキからの愛の告白なのだと理解する。
 さすが根性曲がり。いきなり直球で来たかと思えば、今度は表現が遠回しで実にまどろっこしい――佐野は心の中で苦笑する。
 本音を言ってしまえば、先ほどの居酒屋で、ユキと次の日曜日に買い物デートをする約束はしているものの、これで本当に両思いとなったのかは、いまいち確信が持てていなかったのだ。
 そんなもやもやを抱えたまま、ここへ来たわけだが、こんなにも早くユキの真意を知ることになるとは思ってもいなかった。
 もちろん、これにはオーナーによる陰の協力があってのこと。目の前の小さなクリスマスケーキについてもそうである。
 ユキが恋心を伝えることができるよう、そのきっかけをさりげなく作ってくれているからだ。
  ありがたい――佐野は感謝と至福で胸を熱く震わせる。自分にとっては今夜がまさにクリスマス。今まで生きて来たなかで、一番幸せな聖夜である、と。 
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