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第288話 細かすぎる裏工作
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「佐野君は大丈夫だよ」
ユキが言う。そして続ける。
「でも、あまりのビビリに俺も思わず笑ってしまったけどな。鈴木君はそういう不安を黙って耐えていたけれど、佐野君は今にも死にそうな顔で、それをしょっちゅう言葉にするから、逆にこっちが気を使う」
ユキはそう言い終えると、鈴木に感づかれないよう、ちらりと佐野へ目配せする。
「……!」
即座に佐野はユキの言葉の意図に気づく。
これはさりげなく口裏を合わせているのだと。
というのも、ここへ来る前、佐野は鈴木との通話をユキに聞こえるよう操作していたからだ。もちろん鈴木はそんなことなど知る由もない。
だからユキは、通話の内容と今の会話とをすりあわせるために即興で作り話をしているのだと。
いやはや、実に細かいところにまで気が回る男である。佐野は内心、舌を巻く。
けれど、あながちそれは作り話でもないのは佐野も承知している。言動の端々にそれらが出ていると常々思っているからだ。
加えて、あの時、隣でユキが声を殺して爆笑していたのは、やはりそれが理由であったのだと、今さらながら改めて認識する。
恥ずかしいけど、まあいいか。佐野は気分良く納得する。これが自分の性格なのだと。明るい気質でメンタルの強い鈴木とは違うのだと。
こうして、佐野が気に病んでいた鈴木との電話についての後ろめたさはユキの細かすぎる裏工作によって、表現は悪いが、上手く誤魔化せたのであった。
しかし、佐野はその点においては気持ちが楽になったものの、元勤務先の社屋をフロントガラス越しに見た途端、瞬時に気が萎える。
ユキが言う。そして続ける。
「でも、あまりのビビリに俺も思わず笑ってしまったけどな。鈴木君はそういう不安を黙って耐えていたけれど、佐野君は今にも死にそうな顔で、それをしょっちゅう言葉にするから、逆にこっちが気を使う」
ユキはそう言い終えると、鈴木に感づかれないよう、ちらりと佐野へ目配せする。
「……!」
即座に佐野はユキの言葉の意図に気づく。
これはさりげなく口裏を合わせているのだと。
というのも、ここへ来る前、佐野は鈴木との通話をユキに聞こえるよう操作していたからだ。もちろん鈴木はそんなことなど知る由もない。
だからユキは、通話の内容と今の会話とをすりあわせるために即興で作り話をしているのだと。
いやはや、実に細かいところにまで気が回る男である。佐野は内心、舌を巻く。
けれど、あながちそれは作り話でもないのは佐野も承知している。言動の端々にそれらが出ていると常々思っているからだ。
加えて、あの時、隣でユキが声を殺して爆笑していたのは、やはりそれが理由であったのだと、今さらながら改めて認識する。
恥ずかしいけど、まあいいか。佐野は気分良く納得する。これが自分の性格なのだと。明るい気質でメンタルの強い鈴木とは違うのだと。
こうして、佐野が気に病んでいた鈴木との電話についての後ろめたさはユキの細かすぎる裏工作によって、表現は悪いが、上手く誤魔化せたのであった。
しかし、佐野はその点においては気持ちが楽になったものの、元勤務先の社屋をフロントガラス越しに見た途端、瞬時に気が萎える。
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