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第286話 鬼の会話

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 鈴木は車から降りると、フロントガラス越しに佐野とユキへ会釈をする。
「まずは作戦会議だ」
 ユキは会釈を返しながら佐野へ言い、鈴木には後部座席へ乗るよう、手で合図する。
「どうも毎度様です」
 鈴木は車に乗り込むと、快活にユキへ挨拶する。
「おう。毎度さん。新しい職場はどうだい?」
 ユキは振り向き、笑顔で聞く。
「はい。おかげさまでとても良くしてもらっています。給料も待遇も会社の体質も古山建設とは雲泥の差です」
「そうか。よかったなあ」
 目を細め、嬉しそうにうなずく。
「そして、今ここへすぐに来れたのも、上司が快く許可をくれたからなんです。というのも、この騒ぎを聞いて、上司も他の社員も大爆笑しまして――だからすぐに行けと。そしてじっくり様子を観察し、状況を詳しく報告せよと」
「わはは! そうか。俺もあとで会社に報告するつもりなんだ。そうなれば業界内へ一気に広まるから、古山建設は完全に干されるぞ。もうこれで再起不能だな」
 心底、楽しげに言う。
「ええ。その日が来るのが楽しみです。あんな会社、億単位の負債を抱えて、さっさと倒産してしまえばいいんです」
 鈴木は建物へ向かって吐き捨てるように言う。
「だよな。特に星崎とレイナは自己破産もセットでな。ついでに何か別件で逮捕されちまえばいいんだ」
「最高ですね。そう考えただけで、胸がスーッとしますよ」
 作戦会議はどこへやら、凄まじい恨みつらみを二人はさらりとぶちまける。さながら、鬼の会話である。
 佐野は、そんな二人がこれからどんな行動に出るのか想像すらできず、密かに背筋を寒くするのであった。





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