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第208話 人を好きになる瞬間なんて、特定できるものではない
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「でもまあ、この件は……俺の私情もかなり入ってるんだ。いや――かなりじゃない。全部だな」
ユキは照れくさそうに首の後ろを手でこする。
「私情?」
佐野は脳をフル回転させて断る口実を考えているので、話半分、心あらずで聞き返す。
「つまりその……ケイを自分のそばに置いておきたいからさ」
「――!」
そこでようやく佐野の思考がユキへ向く。 もしや、これは告白か……?
ユキのこの一言で、佐野が今まで必死に練っていた、『角の立たない断り文句』の草案が全て瞬時に消し飛んだ。
「実はうちの会社、レイナが図面を粉砕させた時点で、今後は古山建設を下請に使わないことを決めてたんだ。そうなると、もうケイを俺の現場に呼べなくなるだろう」
「あー……ですよね」
古山建設のことなど今やどうでもいい。それよか、いつから自分のことをそんな風に思っていてくれていたのか。
忘年会での鍋のあく取りの時か。あるいは現場事務所での仕事ぶりか――
今度はそっちの方へ気が行って、またしても心あらずな返答をしてしまう。もちろん心臓は早鐘のごとし。口の中はカラカラだ。
「だから俺は、ケイをうちに入社させるために急いで策を練ったんだ」
動揺しまくる佐野とは反対に、ユキはとても恥ずかしそうな表情で経緯を説明する。
そんなユキを前にして、佐野は突然の告白に舞い上がり、野暮な詮索をしている自分を強く恥じた。
人を好きになる瞬間なんて、特定できるものではない――と。
自分だって、それはいつだと聞かれたら言葉に窮してしまう。『何年何月何日、何時何分何秒にユキが好きになった』などとは断言できない。逆に即答できたら、その感情は疑わしい。
とにかく今はユキの話を聞こう。入社辞退についての判断はそのあとだ。
佐野は気持ちを落ち着けて、ユキの言葉に耳を傾ける。
ユキは照れくさそうに首の後ろを手でこする。
「私情?」
佐野は脳をフル回転させて断る口実を考えているので、話半分、心あらずで聞き返す。
「つまりその……ケイを自分のそばに置いておきたいからさ」
「――!」
そこでようやく佐野の思考がユキへ向く。 もしや、これは告白か……?
ユキのこの一言で、佐野が今まで必死に練っていた、『角の立たない断り文句』の草案が全て瞬時に消し飛んだ。
「実はうちの会社、レイナが図面を粉砕させた時点で、今後は古山建設を下請に使わないことを決めてたんだ。そうなると、もうケイを俺の現場に呼べなくなるだろう」
「あー……ですよね」
古山建設のことなど今やどうでもいい。それよか、いつから自分のことをそんな風に思っていてくれていたのか。
忘年会での鍋のあく取りの時か。あるいは現場事務所での仕事ぶりか――
今度はそっちの方へ気が行って、またしても心あらずな返答をしてしまう。もちろん心臓は早鐘のごとし。口の中はカラカラだ。
「だから俺は、ケイをうちに入社させるために急いで策を練ったんだ」
動揺しまくる佐野とは反対に、ユキはとても恥ずかしそうな表情で経緯を説明する。
そんなユキを前にして、佐野は突然の告白に舞い上がり、野暮な詮索をしている自分を強く恥じた。
人を好きになる瞬間なんて、特定できるものではない――と。
自分だって、それはいつだと聞かれたら言葉に窮してしまう。『何年何月何日、何時何分何秒にユキが好きになった』などとは断言できない。逆に即答できたら、その感情は疑わしい。
とにかく今はユキの話を聞こう。入社辞退についての判断はそのあとだ。
佐野は気持ちを落ち着けて、ユキの言葉に耳を傾ける。
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