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第192話 秒速で悲嘆に暮れる

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「これから先の自分の『運』を全て使い果たしたような気分だ」
 部屋へ戻った佐野は、そう呟きながらストーブのスイッチを入れ、その近くに腰を下ろす。
 コンビニの肉まんケースの前で、ユキと思いがけずに再会し、自身の現状を説明できたのは奇跡としか言いようがない。
 きっとこれはユキへの強い愛慕の念と執着が絡まり合った末に、残り少ない自分の『運』を総動員して、このような事象が起きたのだ――佐野はそのように結論づける。
「しかし……」
 ストーブを十七度に設定しているゆえ、基本的に薄ら寒いなか、がっくりと肩を落とす。
「会話はまるで他人事だったし、そのうえ別れ際もドライ過ぎて、どうにも立ち直れない」
 脳内で、一度も振り向かず、足早に去っていくユキの背中が幾度もリピートする。
「もともとそんなに期待はしていなかったが、実際にあんな対応をされると、やっぱりすごく落ち込んでしまう」
 今のユキと自分との温度差は、この部屋と屋外の比ではない。  
 鬱々たる面持ちで窓を見上げると、中途半端な薄暮である。細かな雪もちらついている。
「今日はいつもよりも早く寝よう」
 気晴らしにテレビやウエブ動画でも見ようかと考えたが、どうせ起きている間はずっとこんな調子だろうと予想してのことだ。
「ユキに会えて嬉しかったけど……同じ質量で、ガッカリした」
  カーテンを閉めるために重い腰を上げる。
「一方のユキは、今日の再会をどう思っているのだろう……いや、考えるのは止めよう。だって答えはもう出ているではないか。あの去り際の態度が全てを物語っているのだから」
  部屋の全てのカーテンを閉め終えた佐野は、再びストーブの近くに座り込む。
 そして、今日を境にスッカラカンになった自分の『運』と、これからスッカラカンになる予定の財布の中身と貯金について思いを馳せれば、言わずもがな、秒速で悲嘆に暮れるのであった。



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