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第145話 黒歴史、封印
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極上の笑顔とともにユキから礼を言われた佐野の頬は瞬時に上気した。
「いえ、そんな……あ! 袋、車まで運びます」
佐野は照れ隠しにゴミ袋を持てるだけ両手で掴み、そそくさとユキの車へ向かう。ユキも残りの袋を持ち、佐野のあとに続く。
こうして十数年前の恋の黒歴史の後始末は終了し、二人は現場事務所で図面の修復に取りかかる。その後はお互い、Aについても、ゴミ袋の中身についても一切触れなかった。
二人は暗黙の了解で、この件に関する全ての事柄を完全に過去のものとして封印したからだ。
十二時。これからコンビニへ昼食を買いに行こうと二人が支度をしていると、ユキのスマホが鳴った。ラインである。
「ケイ。すまん。ちょっと待ってくれ。会社からなんだ」
「はい」
佐野はユキを急かさないよう、着ていた防寒ブルゾンを脱ぎ、自分の席に座った。
ユキは立ったまま画面を見ている。表情は普通。緊急事態などではなさそうだ。
「ケイ。やはり呼び出しが来たぞ」
スマホから顔を上げ、苦笑しながら佐野を見る。
「え?」
「例のテナントビルさ。昼飯食ったらすぐに行ってくれ。絶望的に人手が足りないそうだ」
そこは以前、ユキと一緒に手伝いに行った、工期が迫っている改修工事の現場である。
「承知しました。田上課長は?」
「俺はここで図面の修復をする。こっちも急ぎだからな」
「いえ、そんな……あ! 袋、車まで運びます」
佐野は照れ隠しにゴミ袋を持てるだけ両手で掴み、そそくさとユキの車へ向かう。ユキも残りの袋を持ち、佐野のあとに続く。
こうして十数年前の恋の黒歴史の後始末は終了し、二人は現場事務所で図面の修復に取りかかる。その後はお互い、Aについても、ゴミ袋の中身についても一切触れなかった。
二人は暗黙の了解で、この件に関する全ての事柄を完全に過去のものとして封印したからだ。
十二時。これからコンビニへ昼食を買いに行こうと二人が支度をしていると、ユキのスマホが鳴った。ラインである。
「ケイ。すまん。ちょっと待ってくれ。会社からなんだ」
「はい」
佐野はユキを急かさないよう、着ていた防寒ブルゾンを脱ぎ、自分の席に座った。
ユキは立ったまま画面を見ている。表情は普通。緊急事態などではなさそうだ。
「ケイ。やはり呼び出しが来たぞ」
スマホから顔を上げ、苦笑しながら佐野を見る。
「え?」
「例のテナントビルさ。昼飯食ったらすぐに行ってくれ。絶望的に人手が足りないそうだ」
そこは以前、ユキと一緒に手伝いに行った、工期が迫っている改修工事の現場である。
「承知しました。田上課長は?」
「俺はここで図面の修復をする。こっちも急ぎだからな」
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