85 / 334
第85話 愚か者登場
しおりを挟む
ユキは新年の挨拶もそこそこに、今回の件の不手際を橋本へ謝罪した。次いで佐野を紹介し、佐野と橋本は名刺交換をする。
この間、佐野は緊張しっぱなし。一介の下請業者、しかも末端の若手技術者が大手ゼネコンの社長と名刺交換をするなどほぼあり得ないことだからだ。
そのうえシャッターの落書きの主犯は自分の上司ときている。あまりの気まずさといたたまれなさに逃げ出したいくらいである。
三人は資材倉庫の前にいる。
佐野とユキが養生シートを外すと、真っ赤なスプレーで書かれた罵詈雑言が現われた。
「これは派手にやられたもんだね」
橋本が眉根を寄せる。
「本当に申し訳ございません。最初から倉庫にも防犯カメラをつけていれば、こんな事には」
ユキが深く頭を下げる。
「いや、現場ではよくあることだ。書かれた文句からして、きっと十代くらいの子供だろうね」
いいえ、自分の上司です。歳は三十です、とは口が裂けても佐野は言えない。ユキも険しい表情でシャッターを睨んでいる。
「うむ。状況はわかった。覆っていいぞ。寒いところを悪かった」
何も知らない橋本はそう言い、佐野とユキは手早くシャッターを覆う。
風が強くなってきた。養生シートはバタバタと音をたて始める。
「今にも飛ばされそうですね」
佐野が不安げに、激しく波打つシートを見上げる。
「もう少しガムテープの量を増やそうか」
ユキが言う。
「その方がいいかもしれないね」
橋本もうなずく。
「では、事務所から取ってきます」
佐野はそう言って二人に背を向け走り出す。しかし、その足がピタリと止まる。黒塗りの国産高級車がこちらへ向かって来るのが見えたからだ。
嫌な予感。佐野は車のナンバープレートを素早く読み取る――星崎だ。
この間、佐野は緊張しっぱなし。一介の下請業者、しかも末端の若手技術者が大手ゼネコンの社長と名刺交換をするなどほぼあり得ないことだからだ。
そのうえシャッターの落書きの主犯は自分の上司ときている。あまりの気まずさといたたまれなさに逃げ出したいくらいである。
三人は資材倉庫の前にいる。
佐野とユキが養生シートを外すと、真っ赤なスプレーで書かれた罵詈雑言が現われた。
「これは派手にやられたもんだね」
橋本が眉根を寄せる。
「本当に申し訳ございません。最初から倉庫にも防犯カメラをつけていれば、こんな事には」
ユキが深く頭を下げる。
「いや、現場ではよくあることだ。書かれた文句からして、きっと十代くらいの子供だろうね」
いいえ、自分の上司です。歳は三十です、とは口が裂けても佐野は言えない。ユキも険しい表情でシャッターを睨んでいる。
「うむ。状況はわかった。覆っていいぞ。寒いところを悪かった」
何も知らない橋本はそう言い、佐野とユキは手早くシャッターを覆う。
風が強くなってきた。養生シートはバタバタと音をたて始める。
「今にも飛ばされそうですね」
佐野が不安げに、激しく波打つシートを見上げる。
「もう少しガムテープの量を増やそうか」
ユキが言う。
「その方がいいかもしれないね」
橋本もうなずく。
「では、事務所から取ってきます」
佐野はそう言って二人に背を向け走り出す。しかし、その足がピタリと止まる。黒塗りの国産高級車がこちらへ向かって来るのが見えたからだ。
嫌な予感。佐野は車のナンバープレートを素早く読み取る――星崎だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
81
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる