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第14話 希望の光 

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「ケイさんって、ユキさんと同業者だったんですね」
 オーナーが水の入ったグラスを二人に出しながら言う。『秘密の別室』は入口すぐの事務室を通ったところにあった。広さは約四畳半、ほかにも五つの『客室』がある。どうやら通路の突き当たりの部屋も借り、壁を取り壊して地続きにしているらしい。かなり財力のあるオーナーと見た。
「ええ。でも偶然知ったんです。花壇ではケイに名字や職業とか聞かなかったし」
 ユキがオーナーに言う。
「では仕事でばったり顔を合わせてしまったと」
「はい。現場の夜間作業で急に技術者が足りなくなって、協力会社へ連絡したらケイが来て」
「だから花壇のクリスマスパーティーに二人とも来なかったんですね。作業は今夜もあるんですか」
「はい。なので残念ながら欠席です」
「じゃあ、大晦日のカウントダウンパーティー、もしご都合よろしければお越しください」
「そうですね。ぜひ行きたいです――そうだ、ケイ、君の会社の仕事納めは何日なんだい」
「二十八日です」
 緊張しつつも落胆混じりに答える。明日の二十六日でユキの現場は終了。また星崎からネチネチといびられる日々が始まるのだ。仕事始めは五日だが、休みの間も気が晴れることはない。一日過ぎるごとに出社日が近づくからだ。
「そうか。で、お正月は帰省して親御さんと過ごすのかい?」
 佐野の住所は、佐野が現場に入る前の二十三日にユキの会社へ工事の免許や工事経歴書などと一緒に連絡済み。だから賃貸マンション暮らしなのを知っているのだ。
「実家は車で二十分くらいのところにあるんで、毎年ちょっと顔出して、おせち料理つまんで日帰りです。あとは自分の部屋で寝正月です」

「ほう、なら来れるか? 花壇のカウントダウン」
「……!」
 もしかして、これって誘われているのか。佐野の胸がにわかに騒ぎ出す。たとえ片思いでもユキと年越しができる。みんなとも会える――
「行けます! 僕、絶対行きますっ」
 年末年始の休暇中なら、さすがの星崎も邪魔はできまい。花壇のクリスマスパーティーに行けない分を取り戻そう。ついでに今年一年、星崎のせいで積もりに積もった憂さも晴らそう。 
「よし、決まり。花壇で会おうな」
「はいっ!」
 佐野が力いっぱいうなずくと、オーナーも「待っているよ」と笑顔で言う。
 なにやら気持ちが上を向く。不思議と先ほどまでの緊張もほぐれてきた。ユキが自分のことをどう思っているかわからないが、とりあえず大晦日にまた会える。来年のことは年が明けてから考えればいい。案外、また別の現場の下請で呼ばれるかもしれないし。星崎には本当に腹が立つが、会社に在籍していればユキとの繋がりは続く。だから転職についてはひとまず保留。しばらくは今の会社にかじりついていよう。佐野の心に希望の光があふれ出す。
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