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第13話 初デートする乙女のごとく
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エレベーターのドアが開く。ユキが先に乗り、佐野が続く。ユキが五階のボタンを押した。ドアが閉まり、動き出す。
この間、佐野は意識し過ぎてカチンコチン。自分の呼吸がユキに聞こえないよう鼻息を極力潜め、唾を飲み込む音にも気を使う。
しかも五階など瞬時に到着するはずなのに、今日は特段長く感じてもどかしい。頼むから、腹よ鳴るな。そう全力で祈りつつ、順次点灯していく各階の数字を凝視する。加えて、隣に立つユキの存在も全身で激しく認識しながら。
五階に到着。助かった。佐野はホッと胸をなで下ろす。昼食前の空腹も合わさり、ほとんど苦行ともいえる十数秒。ようやくまともに息ができるようになり、そそくさとユキのあとをついていく。
社員用の通路沿いには各店舗の通用口が等間隔に並んでいた。それぞれのドアにはセキュリティー・システムの機器とインターホンが設置され、その上には店舗名が記されたネームプレートが貼られている。
「ここだよ」
佐野の知られざる疲弊など全く関知していないユキが、突き当たりから二番目のドアの前で足を止める。そしてインターホンのボタンを押すと、少しの間があったのち、「はい」と男の声がスピーカーから聞こえた。
「ユキです」
カチリと鍵を開ける音がして、花壇のオーナーが笑顔でドアから顔を出す。
「いらっしゃいませ。どうぞなかへ」
さあ、次は『秘密の別室』でユキと二人でランチタイム。くれぐれも食事作法には気をつけろ。美しくきれいに食べろ。終始エレガントであれ。
佐野の心は新たな課題に戦々恐々――
この間、佐野は意識し過ぎてカチンコチン。自分の呼吸がユキに聞こえないよう鼻息を極力潜め、唾を飲み込む音にも気を使う。
しかも五階など瞬時に到着するはずなのに、今日は特段長く感じてもどかしい。頼むから、腹よ鳴るな。そう全力で祈りつつ、順次点灯していく各階の数字を凝視する。加えて、隣に立つユキの存在も全身で激しく認識しながら。
五階に到着。助かった。佐野はホッと胸をなで下ろす。昼食前の空腹も合わさり、ほとんど苦行ともいえる十数秒。ようやくまともに息ができるようになり、そそくさとユキのあとをついていく。
社員用の通路沿いには各店舗の通用口が等間隔に並んでいた。それぞれのドアにはセキュリティー・システムの機器とインターホンが設置され、その上には店舗名が記されたネームプレートが貼られている。
「ここだよ」
佐野の知られざる疲弊など全く関知していないユキが、突き当たりから二番目のドアの前で足を止める。そしてインターホンのボタンを押すと、少しの間があったのち、「はい」と男の声がスピーカーから聞こえた。
「ユキです」
カチリと鍵を開ける音がして、花壇のオーナーが笑顔でドアから顔を出す。
「いらっしゃいませ。どうぞなかへ」
さあ、次は『秘密の別室』でユキと二人でランチタイム。くれぐれも食事作法には気をつけろ。美しくきれいに食べろ。終始エレガントであれ。
佐野の心は新たな課題に戦々恐々――
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