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第6話 仰天

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 佐野がこれから夜間作業をする橋本建設の工事現場は隣町にある建設中の十階建てのマンション。その敷地の隅には小さなプレハブ小屋の現場事務所があり、入口の前にはボックス型の白い車が数台、奥の方には油圧ショベルと高所作業車が一台ずつ停まっている。
 佐野は自分の車を入口から一番離れた場所に停め、荷物を持って現場事務所の引き戸を開ける。どうか星崎の言葉に同調するような野卑で粗暴な現場監督員でありませんようにと全力で祈りながら。
「おつかれさまです。古山建設の佐野です。よろしくお願いします!」
 営業スマイルで快活を装いながら元気よく挨拶する。事務所は机が五台、キャビネットが一台、壁に沿ってコピー機と冷蔵庫、ウオーターサーバーが並んでいる。
「おう、おつかれさん。せっかくのクリスマスなのにすまんな」
  三台の机にそれぞれ橋本建設の技術者がパソコンに向かっていたが、佐野の声に全員が振り向き笑顔で迎える。よかった。根性悪はいなさそうだ。こっそり胸をなで下ろす。
「来て早々悪いんだが、夜間作業の時間まで図面の修正を頼む。そこの机を使ってくれ」
 技術者の一人が窓際の机を指さす。
「はい」
  佐野はそそくさと席に着くとバッグからパソコンを出してセッティングを始める。隣はだれかの席らしく、パソコンや図面などが置かれている。きちんと整理整頓された机から几帳面な性格が読み取れた。
「そこ、現場代理人の田上課長の席だから。今、打ち合わせに行ってるけど、そろそろ帰って来るころだよ」
 別の技術者が言う。現場代理人、つまりここの統括者。となれば星崎が『ぶん殴っていい』と伝えた相手であろう。どんな人なのか。再び佐野に緊張が走る。
 十八時を過ぎた頃、外で車が進入して来る
音がした。薄っぺらいクリーム色のカーテン越しから車のライトが一瞬鋭く差し込み、エンジン音とともに消える。
 来たか、現場代理人。何食わぬ顔で業務をこなしつつ、背中は警戒心から硬くこわばる。
「おつかれさん」
 作業服姿の背の高い男がパソコンバッグを手に入ってきた。  
「……!」
 途端、佐野は無言で仰天する。その男がユキだったからだ。
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