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第5話 落胆

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 十二月二十三日、十六時を少し過ぎた頃。佐野が担当の工事現場から戻るや、星崎が「オイ」とあごをしゃくる。こっちへ来いという意味だ。またありもしない嘘のクレームをでっち上げて怒鳴るつもりか。うんざりしながら星崎の机の前に立つ。
「明日から二十六日まで橋本建設の夜間作業に出ろ。日中はそこの現場事務所で図面の作成や施工状況写真の整理を手伝え」
 橋本建設は大手ゼネコン。佐野の勤務先である古山建設はいつもこの会社から下請工事を受注し、収益の大半をしめている。いわば会社の生命線だ。
「たるんだ仕事したらぶっ殺すからな。あっちには少しでもサボったりミスしたらぶん殴っていいって言っといたから覚悟しとけよ」
 薄笑いを浮かべて星崎が言う。
「どうせお前なんかクリスマスひまだろ。オレ様が予定作ってやったんだから感謝しろ。ちなみに明日は工事部のクリスマスパーティー。え? 知らない? 当たり前だ。だれがお前なんか呼ぶかよ。ま、せいぜい寒い中、鼻水たらして会社に貢献するんだな。んぎゃはははッ!」 
 星崎の陰険な笑い声を聞きながら佐野はがっかりする。花壇のパーティに行けない。となればユキにも会えない。そのうえ昼夜働きづめで、殴られる手はずまで整えられた。現場統括者のなかにはいまだ口より手が先に出る者がいる。最悪のクリスマスだ。
「おら、さっさと橋本建設にてめえの工事免許や自宅の住所、工事経歴をメールで送れ。ぐずぐずするな、のろま野郎」
 星崎はその工事現場の図面と資料が入った書類袋を佐野に叩きつけように渡すと、机に両足を乗せ、ふんぞり返ってスマホでゲームを始めた。
 翌日の十七時。佐野はパソコンや書類を入れたカバンを抱えて会社を出た。陽はすでに暮れて真っ暗。細かな雪がちらつく。これからさらに気温が下がると思われる。
 工事部では星崎が朝からずっと今夜のクリスマスパーティーについて声高に喋っていた。もちろん佐野への攻撃だ。パーティーには佐野だけ呼ばず、しかも連日の夜間作業をも押しつけて精神的なダメージを与えようする魂胆だ。
 佐野もまた、花壇のパーティへ行けず、ユキにもお礼が言えないことで落ち込んでいたから星崎の一語一句が心に刺さり、とてもみじめな気分であった。
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