上 下
3 / 676

3・学園の入学式

しおりを挟む
 なんとか遅刻することなく学園にたどり着いた私は、門の前で待っていた教師の人の案内を受けて中へと入っていった。

「……わぁ、すごく綺麗な場所」

 感嘆の声を上げた私は、ありきたりな事を口にするしか出来なかった。白い学び舎に中央には噴水があって……周囲には花畑がいろどりを与えてくれる。白い門のようなものがいっぱい並んでて、かなり豪華な道に見える。乳白色って言ったっけ。

「えっと……確か……訓練場にいけばいいんだっけ」

 この学園には礼儀作法や文学の他にも、戦いや魔導など、様々な事を教えてる。だから、そういう施設も必要らしい。
 校門で案内してくれた人にもらったパンフレットを頼りに、訓練場の方まで歩いて行くと……大きくて立派な建物が校舎よりも少し奥まったところに丸い物が建ってるのが見えた。そこには私と同じ格好をした同じぐらいの子供が集まろうとしてる。

 大きな猫が二足歩行してたり、獣耳や尻尾が生えてる人が歩いてたり……見たことのない色んな種族の人が訓練場に向かってる。
 こういう景色を見ると、改めて異世界にやってきたんだなって実感が湧いてきた。

 ……こんな色んな種族がいる中で、私一人だけ浮いてしまわないかな? 少し不安もあったけれど、よくよく見たら、私以外にも似たような子がいる。

 中にはわいわいと楽しそうにお話ししてる子たちもいて、ちょっと遠くの光景を見てるような気分になった。

 そのまま訓練場の中に入ると、あまりの広さにまた驚く事になった。訓練場って言うより、闘技場なんじゃないかな? って思うような広さとすり鉢状に広がった観客席みたいな場所が余計にそう思わせてくる。

「おーい、そこの君」
「……私?」
「そうそう。リシュファス家の子だろう? こっちが君の席だよ」

 手をちょいちょいとしてる男の人が呼んでるけど……嫌だなぁ、って思いながら恐る恐るそっちの方に行く。

「……ここは貴族も平民も関係ないと聞いてますけど?」
「確かにそうだけど、王族の君が後ろの方で……っていうのもちょっと不味いからね。ここだけは譲って欲しいかな」

 怪しいものを見るような目で見ていた私に、軽く頬を掻いた男の人は苦笑いを浮かべてる。

「……わかりました」

 ため息混じりで、結局私の方が折れた。ここで少しでも揉め事になったら絶対に面倒な事になるに決まってるし、あまり男の人と話したくなかった。
 静かに席に着くと、興味深そうな目に晒される。あの人のせいで変な注目を浴びてしまったみたい。

 ……あぁ、嫌だなぁ……なんてうんざりしながらひたすら平静を装って、入学式が始まるのを待つ事にした――

 ――

 生徒が全員集まって、入学式が始まると、教師の挨拶が始まって、最後に学長の話が始まった。

「皆さん。まずは入学おめでとうございます。こうして皆さんと出会えて、私――アウグス・メナズスは嬉しく思います」

 白髪混じりの金髪が、ちょっと年を感じさせるアウグス学長の話に、ちょっとうんざりするような雰囲気が立ち込めてきた。ここまでずっと座ったままで先生たちの話を聞いてたからもう限界が来そうだったからね。

「皆さんも疲れているでしょうから、伝えたい事だけ話すとしましょう。この学園は貴族・平民問わず学べる施設であり、生活をする上でそれらの立場を使ってはならない『決まり』が存在します。決して親や自らの地位を使って、他人を貶めたり、蔑ろにしたりしてはいけません。貴方の隣人は、同じように学ぶともがらなのですから」

 アウグス学長は少し目を閉じた後、ゆっくりと私達の顔を見渡すように眺めて……一度頭を下げた。

「これで私の話は終わりです。皆さん、明日から頑張ってください」

 にこやかに笑ったアウグス学長が帰っていって――それで入学式は終わった。なんだか、最後の方だったからか、すごく印象に残ったかも。

 ――平民も貴族も、ここでは同じともがら……ね。

 言ってることは立派だと思う。だけど、それを実行するのは難しい。どんなに言い繕っても貴族と平民。分かり合う事なんて出来ないもの。

 ……さて、入学式が終わった後は、クラスに行って自己紹介して帰るって感じかな。私のクラスは――

「……そこのお前! よくも僕にぶつかったな!」

 思った通り、早速揉め事が起こったみたいだ。生徒のほとんどが移動したことを良い事に、好き放題やってるみたい。声の方に視線を向けてみると、狼が人型のように二足歩行した姿をした狼人族の男の子と、取り巻きが二人。人型に動物の耳と尻尾が生えた獣人族の小さな女の子を囲んでた。
 うんざりするような光景。さっき入学式が終わったっていうのに……浮かれた馬鹿ってのは、いつの世の中もこういうのはいるって事だろう。
 誰も助けに来ないのを知ってるのか、取り巻きの子が女の子の頭を掴むように押さえて、無理やり謝らせようとしてるのが見えた。

「ちょっと、待ちなさい!」

 そんな光景を見て、我慢できなくなった私は、大声を出して苛立たしい足取りで彼らの方に歩いていく。胡乱うろんなまなざしを向けてくる男の子たちの顔が、余計に腹立たしい。私の目の前で、弱者を甚振る真似は絶対にさせない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...