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4・狼人族の馬鹿貴族
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近づく私の姿が癇に障ったのか、苛立たしげに取り巻きの二人が私を睨みつけてきた。
「……なんだ貴様。無礼であるぞ!」
「ここおわすのはロウドゥス・エッセリオン子爵の息子。ルディル・エッセリオン様だぞ!」
「だから?」
堂々と子爵の馬鹿息子ですって宣言されても、ため息しか出ない。反応に困るっていうか……偉いのは貴方の『父親』なのであって、貴方が偉いわけじゃないんだけど……って言いたくなる。
だけど、馬鹿だから伝わらないんだよねぇ……私の言葉にぽかんとした顔で呆然としたかと思うと、ぴくぴくと青筋を浮かべている。
「だから? だと……! 貴様ぁぁぁっ!」
「そんなに騒がないでちょうだい。大体、高貴な者だと言うのであれば、それ相応の振る舞いをしなければならない……でしょう?」
「確かにその通りだ。だが、それならば貴様やそこの下賤な者にも言える事だ。平民風情が私の前に立ちふさがるなど、あってはならないことだ」
ちらっと取り巻き共を見ると、にやにやとした顔つきで私や、その獣人の女の子を見下ろしてた。今度は深いため息が零れ出る。
「貴様、先程からため息ばかり……無礼にも程があるぞ!」
「こちらの名を聞いて自らは名乗らぬとは、恥知らずも良いところだ! どうせ平民上がりの者であろうが、聞いてやる。名を名乗れ!」
「……エールティア・リシュファス」
随分な物言いにムッとしながら、私が自分の名前を口にすると、空気が『ピシッ』と音を立てて凍り付いたような気がした。
「は、ははっ、嘘は――」
「嘘を言っていると思うのでしたら、館へご案内しましょうか? それとも、お父様やお母様にご挨拶されますか?」
わざと敬語を言って煽ってあげると、本当だと判断した子爵の男の子は顔を真っ青にしてた。取り巻きの子たちは失神しかけてるみたいだ。
「リ、リシュファス……王族の……令嬢」
「な、なんで貴女のような御方が……」
「なんでって……ここは私の国の学園よ。居て当たり前でしょう」
「い、いや……そういう事でもなくて、ですね」
さっきまでの傲慢な態度が嘘のようにしどろもどろして、私の様子を窺ってる。権力を振りかざす奴は権力に弱いものだものね。そして私はこの国の王族の一人だ。……まあ、こんな町まで追いやられちゃった悲しい経緯はあるんだけどね……。
「さっき学長も言っていたけれど、私たちは同じこの学園の生徒。後は……わかるでしょう?」
「……二人とも、行くぞ」
「「は、はい……」」
私が何を言いたいのか大体察してくれたのか、子爵の男の子は、一瞬獣人の女の子に忌々しそうな視線を向けて……最後に私に一礼をしてから取り巻きの子達と歩いて行ってしまった。残された女の子はおどおどとした様子でこっちを見つめてる。
「大丈夫?」
「え!? あ、あの……も、申し訳ありません。王族の方に……なんてことを……」
「この学園では私も貴女も同じ立場……でしょう? 気にしないでちょうだい」
私はただ、自分なら好きにやってもいいっていう態度で接してくる男どもが嫌いなだけ。……いや、そんなことをする女も嫌いなんだけど。
「で、ですが……」
「だったら、私が困ったときに助けてくれればそれでいいわ。ね?」
「わ、わかりました……」
女の子はおどおどとした様子で頭を何度も必死に下げて、走り去ってしまった。どんどん小さくなっていく彼女を見送った後、私も自分のクラスに行くことにした。
――
教室に到着すると、私が最後だったらしくて一斉に視線がこっちに向けられる。
興味深そうなものだったり、値踏みするようなものだったり……なんだか嫌な視線も混ざってる。
――はぁ、嫌だなぁ……。
こういう視線があるから、こんなところに来たくなかったんだ。荒んだあの日々の事を思い出してしまう。昔はこれより、もっと酷かったけど。
もう何度目になるかもしれないため息をついて、適当な空いてる席に座る。
「ね、ねえ……」
「うん?」
好奇の視線が散った後、一人の女の子が声を掛けてきた。その子は……ものすごく珍しい、人の姿をした猫人族の女の子。灰色の毛並み……って言えばいいのかな? 髪と耳と尻尾はそんな感じで、目が黒い子だった。
「貴女は?」
「あ、はじめ、まして。私、シルケットから来ましたリュネー・シルケット……と言い、ます」
シルケットと言うと……ちょうど隣国にあたるところだったはず。それに、その家名は……。
「シルケットの王女様?」
「あ、うん。そう、だよ」
「初めまして。私はエールティア・リシュファス。よろしくね」
「よ、ろしく」
うーん、どんな話し方をすればいいのかわからない……そんな風な感じなんだと思う。
「それにしても、珍しいわね。人のような猫人族の女の子なんて」
「やっぱ、り。この姿……変?」
「ううん。とっても可愛らしいわ。仲良くしましょう」
私の言葉を聞くと、彼女は花が咲いたような笑顔を見せてくれて、何度も何度も頷いてた。
「全員、席について! そろそろホームルームを始めるよー」
気付かなかったけど、いつの間にか先生が来てたようだ。リュネーと軽く挨拶を交わしてから、彼女も席について……ホームルームの時間が始まった。
「……なんだ貴様。無礼であるぞ!」
「ここおわすのはロウドゥス・エッセリオン子爵の息子。ルディル・エッセリオン様だぞ!」
「だから?」
堂々と子爵の馬鹿息子ですって宣言されても、ため息しか出ない。反応に困るっていうか……偉いのは貴方の『父親』なのであって、貴方が偉いわけじゃないんだけど……って言いたくなる。
だけど、馬鹿だから伝わらないんだよねぇ……私の言葉にぽかんとした顔で呆然としたかと思うと、ぴくぴくと青筋を浮かべている。
「だから? だと……! 貴様ぁぁぁっ!」
「そんなに騒がないでちょうだい。大体、高貴な者だと言うのであれば、それ相応の振る舞いをしなければならない……でしょう?」
「確かにその通りだ。だが、それならば貴様やそこの下賤な者にも言える事だ。平民風情が私の前に立ちふさがるなど、あってはならないことだ」
ちらっと取り巻き共を見ると、にやにやとした顔つきで私や、その獣人の女の子を見下ろしてた。今度は深いため息が零れ出る。
「貴様、先程からため息ばかり……無礼にも程があるぞ!」
「こちらの名を聞いて自らは名乗らぬとは、恥知らずも良いところだ! どうせ平民上がりの者であろうが、聞いてやる。名を名乗れ!」
「……エールティア・リシュファス」
随分な物言いにムッとしながら、私が自分の名前を口にすると、空気が『ピシッ』と音を立てて凍り付いたような気がした。
「は、ははっ、嘘は――」
「嘘を言っていると思うのでしたら、館へご案内しましょうか? それとも、お父様やお母様にご挨拶されますか?」
わざと敬語を言って煽ってあげると、本当だと判断した子爵の男の子は顔を真っ青にしてた。取り巻きの子たちは失神しかけてるみたいだ。
「リ、リシュファス……王族の……令嬢」
「な、なんで貴女のような御方が……」
「なんでって……ここは私の国の学園よ。居て当たり前でしょう」
「い、いや……そういう事でもなくて、ですね」
さっきまでの傲慢な態度が嘘のようにしどろもどろして、私の様子を窺ってる。権力を振りかざす奴は権力に弱いものだものね。そして私はこの国の王族の一人だ。……まあ、こんな町まで追いやられちゃった悲しい経緯はあるんだけどね……。
「さっき学長も言っていたけれど、私たちは同じこの学園の生徒。後は……わかるでしょう?」
「……二人とも、行くぞ」
「「は、はい……」」
私が何を言いたいのか大体察してくれたのか、子爵の男の子は、一瞬獣人の女の子に忌々しそうな視線を向けて……最後に私に一礼をしてから取り巻きの子達と歩いて行ってしまった。残された女の子はおどおどとした様子でこっちを見つめてる。
「大丈夫?」
「え!? あ、あの……も、申し訳ありません。王族の方に……なんてことを……」
「この学園では私も貴女も同じ立場……でしょう? 気にしないでちょうだい」
私はただ、自分なら好きにやってもいいっていう態度で接してくる男どもが嫌いなだけ。……いや、そんなことをする女も嫌いなんだけど。
「で、ですが……」
「だったら、私が困ったときに助けてくれればそれでいいわ。ね?」
「わ、わかりました……」
女の子はおどおどとした様子で頭を何度も必死に下げて、走り去ってしまった。どんどん小さくなっていく彼女を見送った後、私も自分のクラスに行くことにした。
――
教室に到着すると、私が最後だったらしくて一斉に視線がこっちに向けられる。
興味深そうなものだったり、値踏みするようなものだったり……なんだか嫌な視線も混ざってる。
――はぁ、嫌だなぁ……。
こういう視線があるから、こんなところに来たくなかったんだ。荒んだあの日々の事を思い出してしまう。昔はこれより、もっと酷かったけど。
もう何度目になるかもしれないため息をついて、適当な空いてる席に座る。
「ね、ねえ……」
「うん?」
好奇の視線が散った後、一人の女の子が声を掛けてきた。その子は……ものすごく珍しい、人の姿をした猫人族の女の子。灰色の毛並み……って言えばいいのかな? 髪と耳と尻尾はそんな感じで、目が黒い子だった。
「貴女は?」
「あ、はじめ、まして。私、シルケットから来ましたリュネー・シルケット……と言い、ます」
シルケットと言うと……ちょうど隣国にあたるところだったはず。それに、その家名は……。
「シルケットの王女様?」
「あ、うん。そう、だよ」
「初めまして。私はエールティア・リシュファス。よろしくね」
「よ、ろしく」
うーん、どんな話し方をすればいいのかわからない……そんな風な感じなんだと思う。
「それにしても、珍しいわね。人のような猫人族の女の子なんて」
「やっぱ、り。この姿……変?」
「ううん。とっても可愛らしいわ。仲良くしましょう」
私の言葉を聞くと、彼女は花が咲いたような笑顔を見せてくれて、何度も何度も頷いてた。
「全員、席について! そろそろホームルームを始めるよー」
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