上 下
4 / 676

4・狼人族の馬鹿貴族

しおりを挟む
 近づく私の姿がかんに障ったのか、苛立たしげに取り巻きの二人が私を睨みつけてきた。

「……なんだ貴様。無礼であるぞ!」
「ここおわすのはロウドゥス・エッセリオン子爵の息子。ルディル・エッセリオン様だぞ!」
「だから?」

 堂々と子爵の馬鹿息子ですって宣言されても、ため息しか出ない。反応に困るっていうか……偉いのは貴方の『父親』なのであって、貴方が偉いわけじゃないんだけど……って言いたくなる。
 だけど、馬鹿だから伝わらないんだよねぇ……私の言葉にぽかんとした顔で呆然としたかと思うと、ぴくぴくと青筋を浮かべている。

「だから? だと……! 貴様ぁぁぁっ!」
「そんなに騒がないでちょうだい。大体、高貴な者だと言うのであれば、それ相応の振る舞いをしなければならない……でしょう?」
「確かにその通りだ。だが、それならば貴様やそこの下賤な者にも言える事だ。平民風情が私の前に立ちふさがるなど、あってはならないことだ」

 ちらっと取り巻き共を見ると、にやにやとした顔つきで私や、その獣人の女の子を見下ろしてた。今度は深いため息が零れ出る。

「貴様、先程からため息ばかり……無礼にも程があるぞ!」
「こちらの名を聞いて自らは名乗らぬとは、恥知らずも良いところだ! どうせ平民上がりの者であろうが、聞いてやる。名を名乗れ!」
「……エールティア・リシュファス」

 随分な物言いにムッとしながら、私が自分の名前を口にすると、空気が『ピシッ』と音を立てて凍り付いたような気がした。

「は、ははっ、嘘は――」
「嘘を言っていると思うのでしたら、館へご案内しましょうか? それとも、お父様やお母様にご挨拶されますか?」

 わざと敬語を言って煽ってあげると、本当だと判断した子爵の男の子は顔を真っ青にしてた。取り巻きの子たちは失神しかけてるみたいだ。

「リ、リシュファス……王族の……令嬢」
「な、なんで貴女のような御方が……」
「なんでって……ここは私の国の学園よ。居て当たり前でしょう」
「い、いや……そういう事でもなくて、ですね」

 さっきまでの傲慢な態度が嘘のようにしどろもどろして、私の様子を窺ってる。権力を振りかざす奴は権力に弱いものだものね。そして私はこの国の王族の一人だ。……まあ、こんな町まで追いやられちゃった悲しい経緯はあるんだけどね……。

「さっき学長も言っていたけれど、私たちは同じこの学園の生徒。後は……わかるでしょう?」
「……二人とも、行くぞ」
「「は、はい……」」

 私が何を言いたいのか大体察してくれたのか、子爵の男の子は、一瞬獣人の女の子に忌々しそうな視線を向けて……最後に私に一礼をしてから取り巻きの子達と歩いて行ってしまった。残された女の子はおどおどとした様子でこっちを見つめてる。

「大丈夫?」
「え!? あ、あの……も、申し訳ありません。王族の方に……なんてことを……」
「この学園では私も貴女も同じ立場……でしょう? 気にしないでちょうだい」

 私はただ、自分なら好きにやってもいいっていう態度で接してくる男どもが嫌いなだけ。……いや、そんなことをする女も嫌いなんだけど。

「で、ですが……」
「だったら、私が困ったときに助けてくれればそれでいいわ。ね?」
「わ、わかりました……」

 女の子はおどおどとした様子で頭を何度も必死に下げて、走り去ってしまった。どんどん小さくなっていく彼女を見送った後、私も自分のクラスに行くことにした。

 ――

 教室に到着すると、私が最後だったらしくて一斉に視線がこっちに向けられる。
 興味深そうなものだったり、値踏みするようなものだったり……なんだか嫌な視線も混ざってる。

 ――はぁ、嫌だなぁ……。

 こういう視線があるから、こんなところに来たくなかったんだ。荒んだあの日々の事を思い出してしまう。昔はこれより、もっと酷かったけど。

 もう何度目になるかもしれないため息をついて、適当な空いてる席に座る。

「ね、ねえ……」
「うん?」

 好奇の視線が散った後、一人の女の子が声を掛けてきた。その子は……ものすごく珍しい、人の姿をした猫人族の女の子。灰色の毛並み……って言えばいいのかな? 髪と耳と尻尾はそんな感じで、目が黒い子だった。

「貴女は?」
「あ、はじめ、まして。私、シルケットから来ましたリュネー・シルケット……と言い、ます」

 シルケットと言うと……ちょうど隣国にあたるところだったはず。それに、その家名は……。

「シルケットの王女様?」
「あ、うん。そう、だよ」
「初めまして。私はエールティア・リシュファス。よろしくね」
「よ、ろしく」

 うーん、どんな話し方をすればいいのかわからない……そんな風な感じなんだと思う。

「それにしても、珍しいわね。人のような猫人族の女の子なんて」
「やっぱ、り。この姿……変?」
「ううん。とっても可愛らしいわ。仲良くしましょう」

 私の言葉を聞くと、彼女は花が咲いたような笑顔を見せてくれて、何度も何度も頷いてた。

「全員、席について! そろそろホームルームを始めるよー」

 気付かなかったけど、いつの間にか先生が来てたようだ。リュネーと軽く挨拶を交わしてから、彼女も席について……ホームルームの時間が始まった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...