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27章 魔人と神人

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「犯人探し。簡単に済めばいいけど、どれほどの神がいると思っているの?大変よ」

 かつてグローリア国に住んでいた大魔女エリザベートはその神の多さを指摘した。非効率だと。

「まぁ、そうですね」

 シェリーはため息を吐きながら答える。その言葉にどこからか安堵感が漂ってきたのはきっと気の所為ではないだろう。

「それはおいおい」

 いや、シェリーは時間が掛かるだろうから、その都度、神を締め上げていけばいいと考えているようだ。

「それからモルテ王、エリザベート様が頼んでいた資料は何もお持ちでは無いのですか?」

 エリザベートが持ってくるように頼んでいたエリザベートが三千年間書き溜めてきた書物のことだ。それもシェリーは頼まれていたのに、何一つ持ってきていないのかと、非難している様に言う。
 仮にも相手は、エリザベートと同じ時を生きた、神に創られし存在だ。普通であればそのような物言いはできない。

「持って来られるはずがないだろう?エリザベートの資料だぞ。いったいどれほど在ると思っているんだ」
「知りませんよ」

 どれほどの数の書物があるか聞いていないシェリーは、物怖じすることなくいう。
 これはシェリーの性格だと言えるが、今のモルテ王は話が通じると思っているからだ。

「エリザベートにとっては鞄に入る量かもしれんが、一部屋を占領する量だ。持ち歩けるはずもない」

 確かにエリザベートは家さえも鞄に入れてしまえるのだから、それぐらいの量の書物は負担にもならない。

「それは私が、モルテ国に行かなければならないということですか?」
「そういうことだ」

 シェリーはモルテ王の言葉に、考えるように俯く。
 今はミゲルロディアの依頼を受けているところだから、このままモルテ国に行くわけにはいかない。その後に行けるかといえば、きっと女神ナディアの妨害があるだろう。
 いや、ずっとラースに会いに来いと言い続けている女神ナディアがしびれを切らして、強制的に連れて行く可能性が高い。そうシェリーの他のツガイたちの様に。

「今はラース公国の大公閣下の依頼で動いているので、直ぐに行けそうにはありませんね」
「ラース公国?……そう言えば、レガートスが面白い事を言っていたな。以前、黒の聖女が来る前にラース公国の方で巨大な魔力を検知したそうだ。その後数日は存在していたが消えたと。しかし年の終わりぐらいに再びラース公国に顕れたと。何が起こっているんだろうなぁ」

 モルテ王はニヤニヤとした笑みを浮かべて言った。巨大な魔力とは魔人化だと当たりをつけているのだろう。魔人二人によって全てが狂わされたのだ。
 それは警戒もするだろう。

 シェリーはそんなモルテ王を見る。人外であり、狂王と恐れられた神人を見る。
 そして、死してこの世界の記憶から構築した大魔女エリザベートを見る。

 人外と言っていい者たちだ。

 ミゲルロディアにモルテ王と繋ぎを作っておくのも悪くない。シェリーはそう判断し、重い口を開いた。

「それは魔人化したミゲルロディア大公閣下です」
「ほぅ。魔人が国を治めるのか?」

 モルテ王はシェリーの言葉に目を細める。それは面白いと言わんばかりに。

「今のラース公国で、大公に立てる人はいません。それに女神ナディアが是と言えば、全てが認められる国です」

 シェリーの言葉にエリザベートが立ち上がってテーブル越しにシェリーに詰め寄ってきた。

「あの女神がそれを許したっていうの?」

 エリザベートにとっては青天の霹靂だったのだろう。目を見開き信じられないという表情だ。

「閣下もナディア様とラース様の子ですから」

 するとエリザベートは力なくソファーに倒れ込む。背もたれに背を預け、乾燥した草花が吊るされている天井を見上げた。

「そうよね。結局あの女神はそうなのよ」

 全ては己が愛したラースが中心なのだ。なんて重苦しい愛情。

「それでその魔人は狂わずに統治できているのか?」

 モルテ王は魔人の愚かしさをよく知っている。それは最初に魔人化したラフテリアの二番目の犠牲者なのだから。

「ミゲルロディア大公閣下は既に復讐を終えています。それに20年という歳月を狂わずに過ごされていた忍耐をお持ちです」
「復讐を終えているか。ならば何も問題は無いな」

 魔人という人が魔に転じて得られた力は際限なく振るわれればどうなるか、それは各地の歴史に刻まれている。人災であり災害だと。

「一つお聞きしたいのですが」
「なんだ?」
「ラフテリア様とお会いしても大丈夫なのでしょうか?」

 聖女ラフテリアが魔人化するきっかけ、それは王太子だった目の前の人物と聖女ラフテリアの婚姻だったはずだ。

 シェリーはモルテ王はラフテリアに対して、引き金にならないのかと尋ねたのだ。その言葉にモルテ王はニヤリと笑みを浮かべた。
 そして、己が入ってきた入口を見る。

 その入口の扉のノブが何者かが侵入しようとしているのか、激しく動いているのだった。

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