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27章 魔人と神人

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「でもその時は気が付かなくてね。祭壇の上部にミイラのようになった首があるのに気がついて、試しにミイラの首がくっつくのか試してみたのよ。くっついても後で逆再生すればいいことだしね」

 ミイラの首。祭壇に飾られるようにあるのなら、聖人なのだろうか。いや、神に選ばれた聖人ではなく、カウサ神教国の聖人だ。

 そう……例えば、その身を盾にして魔人を止めようとした高貴な者とか言って、祭壇に祀り上げられた王太子の首だとか。

「それでミイラの首と再生した身体を合わせて見たらね。合わせただけで、くっついたのよ。それから黒い繭に覆われてしまって、何をしても解放されなかったのよ。ロビンの身体がね。三回目の死を覚悟したわ。ラフテリアに殺されるっていう意味のね」

「よく生きていましたね」

 シェリーは思わず言ってしまった。ラフテリアがどれほどロビンを想っているかは、側で見ているだけでも分かるというものだ。

「それどころの話じゃ無くなっていたもの。いったいどれほどの月日が経ったのかしら?ラフテリアとマリーの死と再生の狂乱が始まってから」

 そう言えば、その終結は語られてはいなかった。二人が暴れ、神々が哀れに思い、新たな種族を誕生させた。その様に歴史の闇には語られている。そこには二人の魔人が怒りを収めた成り行きが示されていないのだ。

「ロビンと二人で、黒い繭を観察していたら、繭にヒビが入って、中から全く知らない人物が出てきたのよ。王太子の姿でもないし、ロビンの姿でもない者なのよ。その背後には王錫を持った骸骨までいるじゃない?」

 王笏を持った骸骨。それは死の神モルテのことだろう。その時に地上に化現していたとは、シェリーは初めて知った。

 神という存在は滅多に人前には出てこない。シェリーの前ではよく神という存在が顕れてはいるが、それは普通ではない。なぜなら神という存在が地上に与える影響は少なからずある。
 神によって影響は違ってくるが、女神ナディアがよく化現するラース公国を引き合いにだすと、その異常さがよく分かるというものだ。

 以前語ったが、愛と美の女神であるナディアの国は、普通より長く生きる人が多く、老化も緩やかになる傾向がみられる。
 普通ではありえないことだ。

 そして、死の神モルテが地上に化現したとなると、死がその地にまかれるということだ。
 だが、再生し死を与え続けられるカウサ神教国の民には関係がないこと。

「その骸骨が言うのよ。名を与えろって……あれは強制的な命令ね。だから私は『ルナティーノ・トールモルテ』と名付けたわ。失敗から生まれた存在だけど、マリーを止めるには必要な存在だったわ。……そう言えば、ラフテリアの側にマリーが居なかったわね。何か用事を言い渡されたのかしら?」

 マリートゥヴァの番である王太子の首を持つルナティーノ・トールモルテ。エリザベートは知らない人物と言ったが、絵姿は所詮、絵姿だ。髪と目の色と特徴が合えば、なんとなくその人物に見えるもの。

 黒髪黒目となり蘇った死者の容姿はエフィアルティス王太子だった。それはマリートゥヴァを止める要因にはなっただろう。

 そして、そこに神の介入があったと知れば、ラフテリアは受け入れる。
 そう神との約束を破ってしまったラフテリアは、二度と神との約束を破らないことを決めていたのだ。

「マリートゥヴァ様は自らその身を差し出して、ロビン様の身体に成ることを決められました」

「あら?白き神の力で肉体を得たのではないの?」

「これはラフテリア様とロビン様が試されたのだと私は思っています」

 ラフテリアとロビンを試す。それは、同じ魔人を犠牲にしてまで、生きたいのかという試練だ。

「試すねぇ。やっぱり神という存在は好きにはなれないわね。マリーが居ないって知ったらルティーはどうするかしら?もう別の存在になったから、構わないのかしら?」

 エフィアルティス王太子だったルナティーノ・トールモルテ。既に一度死に世界の楔から解き放たれ、唯一無二の存在と成った死の王。
 その王にも白き神から番が新たに与えられた。二度死に二度生き返った大魔女に番が充てがわれたようにだ。

「ルティーの話になってしまったけれど、私の個人的な資料は全て、ルティーに渡しているのよ。」

「ここにあると言ったのではないのですか?」

 確かにエリザベートは赤い旅行鞄の中に全てがあると言っていた。

「流石の私も番に捕まって、死を受け入れざる得ない状況になってね。ああ、私の死ではなくて、番の男の死という意味ね。だから、未来に託す資料はルティーに持ってもらっているのよ」

 三千年生きた魔女が死んだ理由。それは番の死であった。ならば、死の王に番が充てがわれ、番の儀を行われれば死の王にも死が与えられるという意味だ。
 そして、死が無い王に未来に託す資料を全て受け渡したエリザベート。

 子孫の者ではなく、己が事故により創った存在であり、名を与えた死の王に譲り渡したと言葉にしたのだった。
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