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25章-2 冬期休暇-旅行先の不穏な空気

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 裏庭でシェリーとロビンは向き合って立っている。空は2つの満月が浮かび上がり、シェリーとロビンの姿を照らしている。

 約束。

『ロビン様。先日、新しい刀を手に入れたので、また、手合わせをお願いします』
『いいよ。次、月が綺麗な日にしょう』
『では、そのように』

 二人が取り決めた、ただの口約束。ロビンは律儀にその約束を守るために、この月夜にシェリーを訪ねてきたのだ。

 二人から離れたところではカイルとラフテリア。そして、ルークが向き合う二人の姿を見つめていた。

「カイルさん。あのお二人はどういう存在ですか?姉さんの言葉だけでは僕は理解できなくて」

 ルークは隣にいるカイルに声をかけながら、その向こうにいるラフテリアに視線を向けている。
 シェリーの言葉。確かにシェリーは称号と言うべき聖女と剣聖。そして二人の名前しか言っていない。それもルークからすれば初代聖女はエルフ族であり、あのような恐ろしい存在ではない。

「そうだね。魔人と···うーんオリバーと同じ様な存在といえばいいのか?」

 カイルからしても、ラフテリアは魔人だと言い切れるが、ロビンはあの高貴な存在が自ら創った者だ。どう表現すればいいかわからないが、未だにロビンの首には茨の紋様がぐるりと巡っていることから、ラフテリアに従属した者といえるだろう。


 シェリーとロビンが己の武器を手に取り、動き出す。その姿を見ながらルークはカイルの言葉を繰り返す。

「父さんと同じ?」

 どう見ても自分の父親と姉に剣を振るっている存在がどう見ても同じだとは思えない。そして、そのまま視線を横にスライドさせ、黒髪の青年の姿をした存在をハラハラとした感じで見ている黒髪の少女の姿をした魔人。
 ルークとしては初めて魔人という存在を目にした。魔人とはおとぎ話の中だけでの存在だと思っていた。それが、目の前に存在している。
 一つの国を滅ぼしたという話。一晩で巨大な山を破壊し尽くしたという話。一つの都市をひと月も燃やし続けたという話。
 あまりにも逸脱した話すぎて、創作の物語だけの存在だと思っていたが、あのような存在なら一つの国なんて簡単に滅ぼしてしまうだろうと、ルークは納得してしまった。

 だが、ここにいるラフテリアが魔の大陸の名前の元となった魔人ラフテリアだとは考えは及んではいない。大陸を滅ぼした魔人だとは思いもしないのだろう。

 剣の打ち合う音が辺りに響き渡る。

「あの、先程言っていた姉さんの番の事を聞いていいですか?」

 やはりルークとしたら、姉の番という者が気になるのだろう。それは母親代わりの姉に男ができたのなら、気にならないといえば嘘になる。

 どうも姉であるシェリーはルークに隠しごとをするのが得意なようで、今まで、オリバーと血がつながっていないなどと匂わすこともなく。普通(?)の家族として過ごしてきたと思っている。
 そして、魔人などという知り合いがいることも知らなかったし、カイルが呼びかけたシェリーの友達という謎の女性の声もルークの知らなかったことだ。一緒に暮らしてきた割にはルークにとって知らない事が多すぎたのだ。

 ルークの言葉にカイルはシェリーから一時も目を離さず、苦笑いを浮かべる。己にその事を聞くかという苦笑いだ。

「ラース公国の第2公子とエルフの族長の第3子とギランの元傭兵団長と炎国の元王太子だ」

 カイルは一気に言葉にする。改めてその立場を口にすると苛立ちしか起こらない。オリバーの言っていた言葉をそのまま言いたいぐらいだ。『世界白き神は敵』だと。

 ルークはカイルの言葉を聞いて、黒髪の青年と剣を交えている姉を見る。学園に姉が現れたとき背後には5人の人物が居たのは見えた。一人は姉が冒険者ギルドに出入りしていたときによく声をかけてくれていたカイルだということは直ぐにわかった。(その時のカイルはシェリーに声を掛けていただけだが)
 もう一人は遠目からも特徴的な白い翼が見えたことがら、第2師団長だということも直ぐにわかった。
 ただ、残りの3人が誰だかわからなかったが、これで納得ができた。シェリーの手紙にあった『母方の親戚』の文字の意味。
 恐らく一度あった伯父だという人の息子とその妻に繋がるエルフ族の青年の事をさしていたのだと。
 あの時、生徒たちを退屈そうに相手をしていた人物が『ギランの豹』だという噂を耳にしたが、その噂は真実だったようだと。

 そして、まだ見たことがない人物が炎国の王太子だということ。

「カイルさん。姉さんはなぜ僕に何も言ってくれないのでしょうか」

 ここまで姉のことを知らなかったということは、ルークにとってはとても寂しくもあった。自分だけ知らなかったということは何だか仲間外れにされているようだと。

「これは予想でしかないが、シェリーはルークに普通の子供として過ごしてほしかったのではないのかな?」

「普通?」

「そう、学園に入って、そこから自分の未来の行く道を決めて歩めるように」

 ただの普通の人の人生を歩めるように、シェリーもオリバーもルークには何も話してはなかったのではないのかと。

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