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23章 孤独な世界と絆された世界

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 炎王に光の巫女と呼ばれた者に会わせてもらったので、炎王からの依頼であるアフィーリアの問題を解決しようとして10日。


 シェリーの目の前にはトロトロに煮込まれたビーフシチューがあった。

 炎王に材料の提供をしてもらい。あちらの世界にあるビーフシチューのルーを使ったものの、一人でアフィーリアが作ったものだった。

 ビーフシチューをガン見しているシェリーをアフィーリアはドキドキしながら見ている。

「見た目は良くなったね」

 シェリーはビーフシチューを一口も食べずにそう感想を述べた。

「妾は頑張ったのじゃ!上手に出来たのじゃ!もっと褒めるのじゃ!」

 アフィーリアは前のめりになってシェリーに言い寄っていく。しかし、シェリーの口からは褒め言葉ではなく、ため息が溢れていた。

「はぁ。アフィーリア、最後にいらないことしたよね」

 その言葉を聞いたアフィーリアはギクリと固まってしまった。

「······気の所為なのじゃ」

 その言葉を聞いたシェリーはスプーンを手に取り、シチューに突き刺す。
 そして、ぐるぐるとかき回していくとスプーンの大きさが徐々に小さくなっている。いや、シチューの中で溶けているのか?

「金属腐食属性?」

 スプーンを取り出して先が無く錆色に変色している先を見つめてシェリーがいう。器は陶器なので入れ物として機能しているが、これが入っていた鍋を横目で見てみると、そこから、茶色い液体が漏れている。

 10日如きでは、この怖ろしい祝福を制御できることは適わなかったのだ。

「炎王。悪いですけど、これ以上は無理です」

 この状況を部屋の端から、引きつった顔で見ていた炎王にシェリーはきっぱりと言う。

「目玉焼きは形は歪ですが、できます。お米も米を研いで、水加減と火加減は問題なくできてきます。包丁もなんとか最初より使えてます。」

 シェリーは先が無くなったスプーンで底が抜けた鍋を指しながら、顔をしかめていう。

「流石に祝福の制御までは、無理です」

「ああ、うん。そうだな。今度はいったい何の雑菌が繁殖したのだろうな」

 炎王は遠い目をして答える。この金属腐食物質をどう処分するかの方が問題だろう。



 約束の10日、炎王から依頼を受けた10日であったが、鍛冶師ファブロから言われた10日でもあった。

 シェリーは商業区にやってきて、そのままファブロのところに行くのかと思えば、途中にあった一軒の店にふらりと入っていった。その後ろには勿論ツガイである彼らもいるのだが、炎王も付いてきていた。

「いらっしゃいミャ!」

 店番をしていた鬼族の女性が、入ってきた者達を見て固まってしまった。それはそうだろう。店に入ってきた者たちの中にはこの国の初代王と王太子であったリオンがいるのだ。
 しかし、シェリーは変わらず淡々と注文をする。

「米5俵と鰹節一箱とみりんを···「ちょっと待ってください!」」

 鬼族の女性が慌ててシェリーの注文を止める。聞き逃したのだろうかとシェリーはもう一度、始めから言い直してみると

「お米5俵と」

「ですから、待ってください。そもそもいきなり来られてお米5俵はないでしょう!」

 鬼の女性は逆ギレをするかのように憤るが、確かに一般の店で購入する単位としてはおかしい。
 しかし、シェリーは首を傾げ、鬼の女性を見る。

「おかしいですね。最初、上限5俵までなら購入可能だと言われましたが?」

 5俵······1俵が60kgなので、合計300kgの米になるのだが、そもそも300kgのお米なんて早々消費できない。
しかし、ここ最近居候が増え続け、業務用の炊飯器の大きさの物をオリバーに言って作ってもらっていたのだが、それが一升炊きなのだ。1俵が40日で消費される計算になるのだが、一日に一升だけで済むこともなく実質1俵が一ヶ月で消費されてしまっているのだ。

 炎国に来られるのであれば、買っておこうと思い立ったのだが、あまりよい返事がもらえなかった。

「上限5俵?」

 鬼族の女性がシェリーの言葉に何か引っかかったのか、考え込んでしまった。

 仕方がないのでシェリーは別の注文をすることにし、棚においてある壺を指しながら

「ここからここまでの香辛料を全部ください」

「だから、それは前もって言って欲しいと何度も ······あら?もしかして、金髪のお嬢さん?」

 鬼族の女性は目の前の黒髪の女性が、いつも大量購入していく金髪の少女ではと思い至った。そんな変な購入をしていくのはシェリーぐらいしかいないのだろう。

 そして、鬼族の女性は改めて周りをみる。さっきは混乱していて確認出来ていなかったが、一度、シェリーと共に店を訪れた者達と、シェリーを探して来た炎王となにかと噂に上がる元王太子のリオンが居ることを理解させられたのだった。





閑話
【アフィーリアのお料理修行】

 昨日はクッキーという物を作ったのじゃが、どうやら妾は時の女神様の加護を戴いたようだったのじゃ。だから、美味しくなるように祈ったら凄いものが出来上がってしまったようなのじゃ。
 なんでもバブルスライムというものらしい。

 そのバブルスライムというものをどうにかするために、シェリーから料理を教わるように言われたのじゃ。
 それで今日はシェリーから卵を渡されたのじゃ。
 卵を割ればいいのじゃろ?簡単じゃ!

『ガンガン!ぐしゃ·····』

 簡単なのじゃ!

『ガンガンガン!べちょ···』

 …難しいのじゃ。



 今日はお米を炊くのじゃ!お米ぐらいは炊けないと駄目なのじゃ!

 お米を研ぐとな?

『ゴリゴリゴリ』

 シェリー!お米が粉になったのじゃ!力を弱めてじゃと!でも料理長がお米とお米をギュッギュッとすると言っていたのじゃ!

 鳥族の料理長と鬼族の力を一緒にしてはならぬと?それはそうなのじゃが····水を混ぜ混ぜするだけでよいのか?もう少しギュッギュッと。
 わ、わかったのじゃ。これ以上食材を無駄にしないのじゃ。



 今日はシチューを作るのじゃ!
 お肉を一口大に?お肉は大きい方がいいのじゃ!シェリー痛いのじゃ!暴力は駄目なのじゃ。
 次は野菜を乱切りに。わかったのじゃ!適当に切れば良いのじゃな?シェリー痛いのじゃ!
 大きさを揃えるとな?それは乱切りではないじゃろ?

 煮込んだあとにルーというものを入れればいいのじゃな?煮込むのは4半刻30分か。時間経過するのじゃ!成功じゃ!
 ルーを溶かすように混ぜるのじゃな?
 よいぞ。『まぜまぜ』『まぜまぜ』
美味しくなるのじゃ!
 あ、間違えたのじゃ。美味しく出来たのじゃ。


 そして、出来上がったのは金属腐食兵器だった。


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