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23章 孤独な世界と絆された世界

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『あ、あ······なんで?』

 己の状態に頭が追いつかないのか、床に目を向けたまま固まっている女性がいる。その女性の目を覗き込むようにシェリーはしゃがみ込み声を掛けた。

「お久しぶりですね。オーラ様」

『え?·····ええ、シェリーちゃんお久しぶり?』

 シェリーの姿を認め、女神オーラはオウム返しのように挨拶をする。どうやら、まだ理解出来ていないようだ。

「何故、アフィーリアに加護を?とてもとても最悪な状態になっているのですが?」

『え?最悪?わたくしの加護はとても素晴らしいものでしょ?』

 床に座り込んだ女神オーラはシェリーが何を言っているのかわからず、首を傾げる。白と黒の斑の長い髪がサラリと揺れた。

 その姿にシェリーは苛立ち、立ち上がって女神オーラを見下ろす。それはとても冷たい目で見下ろしていた。

「素晴らしい?」

 シェリーはそう言って、グツグツお椀の中で発泡している怪しい液体を女神オーラに差し出す。

「これが素晴らしい?一種の破壊兵器だと言うものが?」

「破壊兵器とは何じゃ!ちょっと失敗してしまっただけじゃ!」

 離れたところでアフィーリアが文句を言っているが、差し出されたお椀の中をみた女神オーラは真っ青な顔色になっている。

『何です?この酸生成微生物の大量増殖したものは?微生物兵器でしょうか?』

 言ってしまった。シェリーが敢えてどういうモノか言わなかったのに、女神オーラがいってしまった。

「貴女の加護の成れの果てです」

『成れの果て?』

「成れの果てです」

 女神オーラは呆けた顔でシェリーを見て、ギギギと音がしそうなほど、ぎこちなくアフィーリアを見た。

『わ、わたくしの加護はそのような怖ろしいものは作りません!だって、エンくんは私の愛し子を正しく導いてくれたもの!わたくしの所為ではないの!』

 そう言って首を横に振りながら、床を後ずさっている。神の一柱のはずの時を司る彼女が床を這っているのだ。その女神オーラの視線の先にいるのは神に至らぬ人族のシェリーだ。

「貴女の所為ではない?貴女が加護を与えなければ、このような物は出来上がらなかったのですが?」

 シェリーは一歩踏み出す。シェリーは怒っていた。アフィーリアがルークの番であることも認めたくなかったのに、条件を付けて認めようとしたところで、この加護だ。下手をすればルークの生死に関わってきてしまう加護だ。

『ひぃっ!』

 怯えている。女神オーラが怯えてまた後ずさる。そのシェリーと女神オーラの前にふわりと舞い降りるものがいた。

「なんですか?ルーチェ様。邪魔です」

 シェリーの目の前には、金色の髪がふわりと揺らめき、柔らかく微笑みながらシェリーを見つめる美しい女性が立っていた。光の女神ルーチェだ。

『ここで、争いごとはやめてくれぬか?』

 春の穏やかな光のように柔らかな声が部屋を満たした。

「争い事などしていないですよね。ただ、私はそこの·······ちっ、逃げた!」

 女神ルーチェの後ろに居たはずのオーラが居なくなっていた。どうやら、女神ルーチェに気を取られていた隙きに逃げられたようだ。

『オーラも良いことをしたと思おておる。許してやれぬか?』

「は?良いこと?押し付けがましい加護と言う名の呪いですよね」

 シェリーの言葉に女神ルーチェは微笑みながら困ったような顔をする。しかし、この話を女神ルーチェに言っても仕方がないので、シェリーはついでとばかりに尋ねる。

「貴女の祝福は国が中心なのですか?王が中心なのですか?それとも祭司が中心なのでしょうか?」

 シェリーの質問に女神ルーチェは首をコテンと傾げ、ふわりと微笑む。

『われはこの国の全てを愛しておる』

 その慈愛あるれた笑顔を向かられたシェリーは無表情でうなずいている。

「そうですか、わかりました」

 聞きたかった答えは聞けたようで満足したようだ。それをみた女神ルーチェは光を纏って消えていった。

 女神オーラに逃げられてしまったことで、アフィーリアに掛けられた祝福を緩和したかったのだが、できなくなってしまった。
 仕方がないと、アフィーリアの方に振り向くと皆が跪いていた。

「どうかしましたか?」

 今まで、あの謎の生命体のときぐらいしか皆跪かなかったのに、どうしたのだろうとシェリーは首を傾げる。

「ど、どうしたも、こうしたも無いのじゃ!」

 ぷるぷると震えながらアフィーリアが腰が抜けたのかよつん這いになりながら、こちらにずりずりとやって来た。

「流石に光の女神様の力は凄いね」

 カイルが立ち上がりながら言ってきた。その言葉にシェリーはふと考える。そう言えば女神ルーチェは力を抑える気は全くなかった。
 力を魅せつけていたのだろう。

「凄い?今までの方々はこの地上に影響を与えないようにしていただけです。ある意味意地悪ですよね。ルーチェ様は」

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