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13章 死の国

148 閑話1 

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ブライside1
注:ブライ視点を2話程あげます。シェリーが知らなかった、事柄が垣間見える話となっております。


 ついてない。思いっきりついていない。陛下から、アイラ嬢をモルテ国に送って行くように命令されてしまった。
 俺は言ったよ。アンディウムの方がいいんじゃないかと。しかし、間を置かずに却下されてしまった。アンディウムは白だからダメだと。

 はぁ。

 分かっている。わかってはいるが、あのラースの嬢ちゃんを制御できるとは思われない。
 この前、第9師団の小隊長から謝られてしまった。『何かあったら生贄を置いて逃げてください。今度は師団長がやられますから』って、一体何があった!

 そして、問題の聖女候補だった少女だ。皆が気味が悪いと近寄らない。アンディウムに聞いてみても、死んだ目になって理解不能な得体の知れない生物という言い方だった。

 それだけじゃ分からなかったので、影から観察していると・・・うん。なんとなく言いたいことがわかった。
 アンバランスなんだ。子供が背伸びして大人ぶっていると言いたいところだが、見た目は少女なんだが、中身が娼婦と言っていいかもしれない。
 だから、気味が悪いのだ。必要にかられてでも無く、純粋にでもなく、己の求める下心の思うまま大人に媚を売る少女。

 二人の問題児の面倒なんて見れるはずないだろ。それに、ラースの嬢ちゃんの側にいる男共だ。ここ1月程、嬢ちゃんの屋敷にいるみたいだが、銀爪のカイルは・・・まぁなんとなくわかる。時々、ニールが愚痴っているからな。ラースの第2公子もまぁギリわかる。
 なぜ、スーウェンザイル・シュエーレンがいるんだ!意味がわからん。
 もっと意味がわからんのが、オルクス・ガナート傭兵団長がいる事だ。もう、国を乗っ取ろうとしているようにしか思えてしかたがない。

 そして、モルテ国との外交を担当しているイリア外交補佐官だ。彼女はまぁ、まだいい。黒を持つからす鳥人なので、モルテ国との外交役に選ばれたにすぎない、常識人だ。

 あと、王族を付けることで最低限の敬意を払っていると示したいのか、ノートル様も行くことが決まった。しかし、ノートル様は黒に対する偏見が強いお方だ。黒を崇拝するモルテ国に行って大丈夫なんだろうか。イリアもノートル様が付いてくると聞いたとき、『あの方、私に対する接し方がキツイからな嫌なのよ。』と愚痴っていた。

 問題ばかりの旅になりそうだ。

 と、思っていたら、やはり初日から問題が起きた。例のアイラ嬢だ。王妃様専用の魔道馬車に乗ってやってきたのだ。誰だ。許可を出した奴は!
 キラキラしている方がいい?俺たちが護衛をすれば問題ない?問題ありすぎだ!

 モルテ国にそんなキラキラした馬車で行けば、吸血鬼共に襲われても文句は言えないぞ。それにアイツらは不死身だから対処のしようがない。それを俺たちが悪いとは些か腹が立つ。

 イリアが慌てて第一層内に戻って行ったが、もう少し旅の行程を短くしたい。
 ノートル様も同じ事を思っていたのか、旅の行程を短くしたいと言い出した。
 するとラースの嬢ちゃんがいい案を出してくれた。

「騎獣をワイバーンに変えればもう少し短くなりますよ。馬車の乗り心地は最悪になりますが。」

 ワイバーンだと?確かに力があるから魔道馬車を引っ張っても普通の騎獣と変わらなく飛べそうだ。

「ワイバーンですか。確か今、第1師団の全部隊が王都にいますよね。師団長と中隊長3人程が確かワイバーンを騎獣にしていましたよね。」

 流石、ノートル様。ワイバーンの持ち主を特定できているらしい。

「借りるか。」

「借りましょう。精神的にも安全性にもその方がいいでしょう。」

 ワイバーンなら多少の無理も可能だということで、もっと行程を縮めようとしていたら、ラースの嬢ちゃんに止められてしまった。人族と獣人族を一緒にしてほしくないと言われてたのだが、この旅は憂鬱すぎる。結局ワイバーンは借りれなかったが、ノートル様がククルカンという王家が管理している騎獣を用意してくれたことはとても助かった。

 中核都市トルクに着いたが、早速アイラ嬢が騒ぎ出した。

「あのイケメン達を呼んできて!」

 イケメン?よくわからない言葉だ。シェリーの嬢ちゃんのところにいる彼らのことを言っているのだろうが、この街で依頼を受けているらしく、今はいない。

「イケメンとは何ですか?」

 ノートル様が真面目に聞き返している。

「はぁ?イケメンと言えば、スライム退治に一緒に行ってくれた人達じゃない!そんなこともわからないの?」

 いや、それはアンディウムに頼まれてシェリーの嬢ちゃんが行っただけで、彼らは付き添いだったはず。

「はぁ。彼らはいません。」

「何で?あたしの護衛でしょ!あたしの側にいなくてどこに行ったの!早く連れて来なさいよ!」

 彼らは護衛ではないぞ。もし彼らを護衛で雇うとしたら、どれだけの金を積めばよいのか・・・恐ろしい。

「お食事をお持ちしました。」

 イリアがワゴンを押しながら入ってきた。今回、宿の人に無理を言って作ってもらったのだ。教会でもそうだったようだが、本部で面倒を見ていたとき、食事を普通に受け入れなかったらしい。
 パンが硬いだとか、肉が硬すぎる人の歯を折る気なのかだとか、スープの具が硬すぎるもっと煮込め、味は塩味しかないのかとか一々文句を言ってきたらしい。
 どれだけ、柔らかい物しか食べられないのだ。赤子かよ。

 だから、柔らかい物を無理を言って作ってもらった。

 イリアがアイラの前に夕食を並べだす。肉の細かく叩いたものを固め焼いたもの、スープの具材も小さく切ったものだ。これで文句はないだろう。

「何コレ。ハンバーグのなり損ない?ソースは?相変わらず塩味しかないスープ。美味しくない。パンは相変わらず歯が折れそうなほど硬いし、はぁ。もっと美味しくできないの?」

 結局文句を言うのかよ。ノートル様がプルプルしているが、そろそろ我慢の限界なんだろうか。イリアも目がピクピクしている。

 あれだな、シェリーの嬢ちゃんが言っていた眠ってもらうのが一番いいのかもしれない。ノートル様が俺を見てうなずいている。
 シェリーの嬢ちゃんが帰って来たら眠りの魔術を掛けてもらおう。

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