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5章  魔人の初源

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 青を基調とした建物に近づいていく。黒いモヤは多少あるがそれは自然に溜まったような感じなので、塊としては見受けられない。

 建物の中に入ると異様な緊張感が感じられる。他の三人もその違和感を感じているのか辺りを見渡している。
 建物の中央付近、ミゲルロディア大公閣下もとい魔人ミゲルロディアを閉じ込めた部屋の前から、威圧的な力の塊の存在を感じる。部屋の中からではなく外である。シェリーのスキルが強制解除された感じはしない。

 カイルとグレイがシェリーの前に立ち警戒をする。
 廊下の先にいたのは、部屋の前にいたのは、黒髪の少女だった。

「黒の6番目久しぶりね。」

 黒い髪に黒いタールを流し込んだような目、シェリーと同じ年頃に見える少女が黒いワンピースを着た姿で立っていた。

「ここに新しい子がいるのよね。中々来ないから会いに来たんだけど、黒の6番目の力で閉じ込めちゃったの?」

「魔人がこっちにいると大変だから閉じ込めたんじゃないかな。普通は魔導師っていうのがいないとダメだっていうよ。」

 少女の腕の中から声がする。正確には少女が抱えている人の頭から声が聞こえる。まるで頭部だけで生きているようだ。
 シェリーがカイルとグレイを押し退けて前にでる。

「「シェリー。」」

「ラフテリア様、ロビン様お久しぶりです。」

「やあ、久しぶりだね。大きくなったね。リアと同じぐらいかな?」

 頭だけの青年がしゃべる。薄い茶色い髪に薄い青い目、見た目上は人族に見える。ただ青年の首には棘のアザが黒々と周囲をぐるりとめぐっていた。

「黒の6番目が黒で無くなっている。お揃いだったのになんで?」

 ラフテリアと呼ばれた少女は一瞬で距離を縮め、シェリーの目の前に現れ、シェリーを鼻の先が当たるかの距離で観察している。
 後ろの三人が殺気立つ。

「リア近すぎ、リアに近づくのは僕だけだよ。」

 ロビンと呼ばれた青年が嫉妬を表すが、そもそも、常に頭部を抱きかかえてれている状態で嫉妬をするのもおかしなことだ。

「ごめんね。ロビン。」

「それでラフテリア様は新しい魔人の方を迎えに来たのでしょうか?」

「違うよ。」

「では、なぜここに、わざわざいらしたのですか。」

「気になるでしょ。何にそこまで苦しんだのか。何に狂うほど絶望したのか。何に世界を壊したいほど憎んだのか。知りたいでしょ?」

「わたしは、全く気になりませんので、あちらの大陸へ行ってからお聞きになってください。」

「今、聞きたいの。今。なのに、6番目が閉じ込めているし」

「では、今開けて、すぐにお送りしますので、お帰りください。」

「6番目は意地悪だね。」

「意地悪ですか?ある意味親切心ですよ。ラフテリア様はロビン様と共に在ることを望まれているのであれば、こちらの大陸のものから悪意を持たれる前に帰られたほうが、よいのではないですか?」

「はっ。ダメ。ダメ。ダメ。帰る。帰るよ。ロビン。」

 シェリーの言葉を聞き、狂った様に騒ぎたてるラフテリアに対し首だけのロビンは困ったような顔をして

「騒がしてごめんね。帰ろうか、リア。」

 そう言って、転移の魔術が施行され、この場から消え去った。

 二人の侵入者が去った廊下にはあの強烈な力の圧力はなくなり、夏の朝の虫たちの音が戻ってきた。
 ドサリ
 と音がする方を見ればグレイが青い顔をして床に座り込んでおり、スーウェンはうつむいて壁にもたれ座りこんでいるので表情はみえないが、心なしか震えているように思える。
 カイルは先程と変わらず立ってはいるが、ラフテリアのいた場所を睨み続けていた。

 まあ、思ってもみない人物の遭遇したのだから仕方がない。そう思いながらシェリーは元ミゲルロディア大公閣下を閉じ込めている扉の前に行く。
 「ちょっと待って」とグレイが言っているが、ラフテリアに会ったぐらいで、すくまないで欲しい。
 シェリーが『地獄ゲヘナの牢獄』で造り上げた骸骨の扉に手をかけようとして、手を掴まれた。

「シェリー、ちょっと待って。」

「何故ですか。」

 カイルに手を掴まれているので、離すようにと睨みつける。

「スーウェンが使い物にならないから、転移が使えないよ。」

「ちっ。ラフテリア様がまた来てもいいのですか?」

「ラフテリアって大陸のラフテリアじゃないよね。」

「は?ラフテリア様を知らない?」

 数千年前の話だとしても、竜人族だと生きている人もいるはずだ。なのに、ラフテリアを知らない。

何か問題がある?

「初代聖女は誰ですか?」

 突然、全く関係のない質問がシェリーの口から飛び出した。

「3千年前のシャーレン精霊王国のスピリトゥーリ聖女だよ。猛将プラエフェクト将軍が番で有名だよね。それがどうしたのかな?」

 カイルの口から初代聖女の名前ではない名前が出たのだった。

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