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ディーテ

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昼下がりの優雅なお茶会。
近所の奥様方と他愛もない話に花を咲かせる。
皆さん噂話がお好きなようで仕入れた話を順々に披露。
二個も三個もお持ちだから回って来る心配はない。
聞き役に徹していればいい。

どうしても気になって仕方がない。
落ち着かない。来て欲しい。でも来て欲しくない。
ううん来なくてはいけないのです。私は何を勘違いしてると言うの?
なぜ自分中心に考えてしまうのか。もう娘ではないと言うのに。
娘ではない? そう私は確かに娘ではない。
見れば分かる。いくら可愛らしく着飾ろうともそれはただのまやかし。
自分を自分でごまかしている。
本当に酷いもの。
ただ慣れと言うのは恐ろしいものでまるで自分が少女であるかのように錯覚する。
いや正確にはそう錯覚させられる時がたまにある程度。

「随分お若いですわね」
「本当。お年を取らないと見えました」
「本当にお若くお綺麗で」

馬鹿にしないで欲しい。お世辞だと言うことぐらい百も承知。
ただ毎日のように言われるとどうしても自信のようなものが湧く。
ただのお世辞でおべっかだとしてもそれは本当に心地よいもの。
夢心地とでも言いましょうか。その時だけは自分がいくつなのかを忘れてしまう。
本当にいい加減で都合のいい私。
お茶会の席や集まりの時はいつもそう。
ただ私にも期待する部分がどこかにあるのは間違いない。
恥ずかしい。でも嬉しい。何とも夢心地。
あーあ。もっと言って。もっと言って。
そんな風に思っていることが伝わってしまったら赤面するどころではない。
もう顔も合わせられないでしょうね。
求めるとだいたい言ってくれなくなる。
こんなに求めてるのに。恥ずかしいのか忘れたのか嫌がらせなのか。現実に戻される。

「ではこれで」
お茶会はお開き。
優雅なひと時が終わり午後に再び鈍色の世界が広がる。
本当に辛いのです。
話す相手と言えばメイドぐらいなもの。
主人である私の顔色を窺うことが習慣になっている。
機嫌が良ければそのまま。
怒っていたら距離を取り何も話しかけてこない。
落ち込んでいると励ましてくれるのは助かりますけどね。
そしていつも何気なしにお綺麗ですね。お若いですね。
そう言ってもらえるのは本当にうれしいことだけど。
気を遣って言ってるのだろうと思うと素直には受け取れない。

もう娘じゃない。
そう私には娘がいる。だからもう娘じゃない。
いつまでも若いだのきれいだの美しいだの言って浮かれていてはダメ。

先月姉にも似たようなことを言われた。
姉は遠い異国の地。
慣れないと最初は愚痴を言っていたけどいつの間にか落ち着いて話し役から聞き役に変わった。今では私の悩みを聞いてくれる数少ない相談者。そして主人となった私を叱ってくれる唯一の存在。
手紙のやり取りも頻繁に行っている。主人となってから悩みが尽きることは無い。
姉は気にしてるのだろう。私がこの家を継ぐのに反対した。
今でも閉じ込められずに自由を求める姉には私の考えを受け入れてくれそうにない。だって私はお父様、いえお母様から財産を受け継いだ。その条件としてここで女主人になるよう言われた。それは小さい頃から。ただ母は反対の様だった。

どちらかと言えば姉は母に。私は父の影響を受けている。
女主人となってどうしても守らなければならないものがある。それは同時に多くの男を惹きつける結果となってしまった。後悔してるかと言えば違う。だって彼らは私をお姫様のように扱ってくれた。それも田舎のそれではなく都会的な雰囲気で。

結局母の言いつけを守らずに自ら重荷を背負うことに。
それはとてつもなく重いもので一族の繁栄が私の手にかかっていると言っても過言ではない。
はっきり言えば受け継ぐべきではなかった。
母が父を迎えたように私もボノを迎えた。
そして今……

                   続く
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