婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼

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「しかも、婚約破棄とな?! なんと都合の良い! まさか、縁を切ったミレー家に匿われているなんて敵も想像しないでしょう!」

今まで肩を落としていたザガリーが閃いたように指を鳴らして、パッと顔を輝かせた。
暗い顔から打って変わって、明るい顔になったザガリーに、私の苛立ちがぶり返した。

「冗談でしょう!? ザガリー様! ちょっと、他に適任者はおりませんの?! わたくしは困ります!」

私は思わず声を荒げた。

「まあまあ、エリーゼ様。そんな冷たいことをおっしゃらずに・・・」

ザガリーはどうどうと馬でもなだめる様に両手で私を制した。それが私の怒りに拍車を掛ける。

「冷たいですって!?」

私はバンッとテーブルを叩いた。

「道端に無様にぶっ倒れていた無関係の人間、且つ、幼子に変化へんげしてしまった人間を、危険を承知で身銭まで切って助けて、寝床と食事を与えたこのわたくしが冷たいですって?!」

「あ、い、いや、失礼しました。そんなつもりで言ったのでは・・・」

私の勢いにザガリーはオロオロし始めた。

「褒められこそすれ、冷たいなどと蔑まれるなんて! なんて酷い!」

「申し訳ございません!! 冷たいなどとんでもない! エリーゼ様は感謝されるべきです!」

ザガリーはビシッと姿勢を正し、私に頭を下げた。

「その通りです。空のように広く、海のように深い、わたくしの寛大な心に感謝して頂きたいわ」
「自分で言うな、自分で・・・」
「貴方が一番感謝すべきなんですぅっ! 殿下っ!!」

私は小声で突っ込むレオナルドを睨みつけた。

「では、そのなお心のエリーゼ様にたってのお願いでございます。どうか殿下をお助け下され!」

「え・・・」

ザガリーの言葉に私は固まった。彼は頭を下げたまま。

「空のようにどこまでも青く美しく、海のようにどこまでも深く広いエリーゼ様のお心に頼るしか、今は術がございません。この通りでございます」

ザガリーの頭がさらに下がる。
くっ・・・、揚げ足を取られた・・・。

「乗り掛かった船でございます! どうか!」

だから、その船を降りようってしてたのよっ! もう~~~っ!

「この通り! この通りでござ・・・」
「分かったわ! 分かりました! もう頭をお上げください、ザガリー様」

私はどんどん頭が下がっていくザガリーを止めた。これ以上下がるとテーブルにぶつけそうだ。

「ありがとうございます! 良かったですなぁ! 殿下!」

ザガリーは頭を上げると喜びの声を上げた。反対に私は深く溜息を漏らした後、キッとレオナルドを睨んだ。レオナルドは目が合うとまたプイッと顔を背けた。
なんだ、その態度! あんたがお礼を言えっての! ザガリーじゃなくて!

「では、一先ず、私の研究室へ。殿下の容態を診察いたします」

ザガリーはそう言うと、私たちを二階に行くように促した。
レオナルドは椅子からピョンッと飛び降りると、トトトッとザガリーの後を走るように追いかけた。

私はもう一度大きな溜息を付くと、レオナルドの衣装を持ってその後を付いて行った。


☆彡


研究室に入ると、レオナルドは椅子に座らされ、ザガリーから診察を受けた。
まるで風邪でも引いた患者のよう。目の下や喉を覗いたり、脈を図ったり。私はその様子をボケッと観察していた。

最後に、ザガリーは注射針を取り出すと、レオナルドの腕から少量の血液を採取した。それを大事そうに試験管に移し終えた時だった。階下から呼び鈴が聞こえた。来客だ。

「誰だ・・・?」

ザガリーは不安そうに窓から外を覗いた。

「クリスか・・・」

「クリス!?」

ザガリーの独り言にレオナルドが声を上げた。

「クリスか?! クリスが来たのか!? 丁度良かった! クリスなら安心だ! 俺も会おう!」

レオナルドの顔は安堵に満ちている。よっぽど信頼できる人なのか? ならばその人に頼ればいいじゃないか! 私も軽く期待が高まる。

「いいえ、殿下。なりません」

しかし、彼の意見と私の淡い期待はザガリーにバッサリと斬られた。

「彼も敵か味方か分からない限り、用心することに越したことはありません。私だけで対応します。殿下もエリーゼ様もこの部屋からお出にならないように。いいですな?」

ザガリーは私たちにそう忠告すると、自分に気合を入れるように着ている白衣の襟をビシッと正し、慎重な面持ちで部屋から出て行った。


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