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ザガリーを見送った後、私はレオナルドに振り向いた。
「クリスってどなたですの?」
「王室付きの呪術師だ・・・」
レオナルドは不安そうな顔で答えた。
「クリスはザガリーの一番弟子なんだ。彼まで疑うなんて・・・」
肩を落とし、そう呟く。二歳児のその姿はなかなか憐れみを誘う。なにかと狡い姿だ、この姿は。
「念の為ですわよ。事が事です。慎重になって当然でしょう? きっと、そのクリス様という方も、宮廷内で殿下が行方不明なので、心配してザガリーの所にいらしただけでしょう」
可哀相になり、つい励ましてしまう。
「そうだな・・・。今、俺は行方不明なんだから・・・。きっとザガリーに俺の行方を・・・」
「・・・」
「・・・なんで・・・ザガリーに? 俺が彼を頼るのを知って・・・?」
「・・・考え過ぎでは・・・? 手あたり次第に知り合いを訪ねているのでしょう、きっと・・・」
「そうだな・・・」
「ええ・・・、多分・・・。もしくは、たまたま用事があっただけかもしれませんし・・・」
「うん、そうだ・・・。でも・・・、彼も呪術師だ・・・」
「・・・」
「・・・」
シーンと静まり返る室内。私たちは顔を見合わせた。
レオナルドが両手を差し出したのと、私が彼に手を伸ばしたのは同時だった。
私は無言でレオナルドを抱き上げると、静かに部屋の扉を開けた。
そーっと廊下を覗く。誰もいない。私は静かに廊下に出た。
階段近くまで来ると、レオナルドを降ろした。私は彼の横にしゃがみ、一緒になって手すりの間から階下を覗き込み、耳を澄ませた。
・・・。
モソモソと人の話をしている気配がするだけで、話の内容までは聞き取れない。
それでも私たちは意地になって耳をそばだてた。
暫くの間耳を傾けていたが、正直成果はない。
無言でレオナルドに振り向くと、彼も私を見て、がっかりしたように首を振った。
カチャ・・・。
その時、階下で部屋の扉の開く音が聞こえた。
私たちは慌てて立ち上がると、手すりから離れた。
階下からは見えない位置で、二人で寄り添い息を潜め、耳を澄ませる。
「突然の訪問、大変失礼しました。では、私はこれで」
「ああ、ご苦労だったな。また、いつでも来い」
「ありがとうございます。師匠もお身体にお気を付けて」
入り口から聞こえる会話。それは普通の別れの挨拶。重大な問題を抱えている人たちの会話ではない。
本当にたまたま来訪しただけ? タイミングは単なる偶然か?
あまりにも普通の会話に、拍子抜けするよりも、反対に違和感と不信感を持ってしまう。
チラッとレオナルドを見ると、彼も顔を顰めていた。
玄関の扉が閉まる音がしたと思ったら、トントントンと階段を駆け上がる音がして慌てて、レオナルドを抱えて部屋に戻ろうとしたが、間に合わず、ザガリーに見つかってしまった。
「やはり、覗いていましたか・・・。部屋から出ないように申し上げたのに・・・」
ザガリーの呆れ顔に、私もレオナルドも気まずそうに首を竦めた。
☆彡
「クリスは? クリスの様子はどうだったんだ?」
研究室に戻ると、レオナルドはザガリーに食いつくように質問した。
「残念ながら、彼には用心した方がいいと思われます・・・」
「そ、そんな・・・」
レオナルドはガクッと肩を落とした。
「いえ、殿下。私も彼が黒と判断したわけではありません。ただ、判断する材料が乏しいのです」
気の毒そうにレオナルドを見ながらザガリーは続ける。
「普段、クリスは突然来訪することはありません。必ず一報を寄こしてからやって来るのです。それなのに、今日は突然来たかと思うと、近況報告とか言いながら、自分の事はほとんど話さず、私のことばかり聞いてくる・・・。探りを入れているとしか思えんほどに・・・」
そう言って、思案顔で顎を摩った。
「どうやら、殿下を探している事には間違いないようですな。ただ、真相を知っているかまでは分からない。ただ、行方不明の大人の殿下を探している可能性もあります」
「そうだ! クリスは昨日の朝から今日にかけて外出していた!俺が子供の姿になったことは知らないはずだ!」
バッとレオナルドは顔を上げた。
「ならば、城に戻ってから殿下の不明を知り、急ぎここに来たのだろうか? しかし、純粋に殿下をお助けしたいと思っていたのならば、素直に私に協力を求めてきただろうに・・・」
「箝口令が敷かれて迂闊に物が言えない状況なのでは?」
私も口を挟んだ。
「確かに、箝口令は敷かれているでしょうな・・・。ならば、もし、彼が殿下をお助けしたい一心で探りを入れてきたのであれば、私を誘拐犯の一味とでも思っているのかもしれませんね・・・。それはそれで心外ですな・・・」
ザガリーは腕を組み、うーんと考え込む。
レオナルドも腕を組み、考え込んでいる。
気付くと、私も腕を組み、首を傾げていた。
暫くの間、部屋の中央で、三人して同じポーズをしていた。
「クリスってどなたですの?」
「王室付きの呪術師だ・・・」
レオナルドは不安そうな顔で答えた。
「クリスはザガリーの一番弟子なんだ。彼まで疑うなんて・・・」
肩を落とし、そう呟く。二歳児のその姿はなかなか憐れみを誘う。なにかと狡い姿だ、この姿は。
「念の為ですわよ。事が事です。慎重になって当然でしょう? きっと、そのクリス様という方も、宮廷内で殿下が行方不明なので、心配してザガリーの所にいらしただけでしょう」
可哀相になり、つい励ましてしまう。
「そうだな・・・。今、俺は行方不明なんだから・・・。きっとザガリーに俺の行方を・・・」
「・・・」
「・・・なんで・・・ザガリーに? 俺が彼を頼るのを知って・・・?」
「・・・考え過ぎでは・・・? 手あたり次第に知り合いを訪ねているのでしょう、きっと・・・」
「そうだな・・・」
「ええ・・・、多分・・・。もしくは、たまたま用事があっただけかもしれませんし・・・」
「うん、そうだ・・・。でも・・・、彼も呪術師だ・・・」
「・・・」
「・・・」
シーンと静まり返る室内。私たちは顔を見合わせた。
レオナルドが両手を差し出したのと、私が彼に手を伸ばしたのは同時だった。
私は無言でレオナルドを抱き上げると、静かに部屋の扉を開けた。
そーっと廊下を覗く。誰もいない。私は静かに廊下に出た。
階段近くまで来ると、レオナルドを降ろした。私は彼の横にしゃがみ、一緒になって手すりの間から階下を覗き込み、耳を澄ませた。
・・・。
モソモソと人の話をしている気配がするだけで、話の内容までは聞き取れない。
それでも私たちは意地になって耳をそばだてた。
暫くの間耳を傾けていたが、正直成果はない。
無言でレオナルドに振り向くと、彼も私を見て、がっかりしたように首を振った。
カチャ・・・。
その時、階下で部屋の扉の開く音が聞こえた。
私たちは慌てて立ち上がると、手すりから離れた。
階下からは見えない位置で、二人で寄り添い息を潜め、耳を澄ませる。
「突然の訪問、大変失礼しました。では、私はこれで」
「ああ、ご苦労だったな。また、いつでも来い」
「ありがとうございます。師匠もお身体にお気を付けて」
入り口から聞こえる会話。それは普通の別れの挨拶。重大な問題を抱えている人たちの会話ではない。
本当にたまたま来訪しただけ? タイミングは単なる偶然か?
あまりにも普通の会話に、拍子抜けするよりも、反対に違和感と不信感を持ってしまう。
チラッとレオナルドを見ると、彼も顔を顰めていた。
玄関の扉が閉まる音がしたと思ったら、トントントンと階段を駆け上がる音がして慌てて、レオナルドを抱えて部屋に戻ろうとしたが、間に合わず、ザガリーに見つかってしまった。
「やはり、覗いていましたか・・・。部屋から出ないように申し上げたのに・・・」
ザガリーの呆れ顔に、私もレオナルドも気まずそうに首を竦めた。
☆彡
「クリスは? クリスの様子はどうだったんだ?」
研究室に戻ると、レオナルドはザガリーに食いつくように質問した。
「残念ながら、彼には用心した方がいいと思われます・・・」
「そ、そんな・・・」
レオナルドはガクッと肩を落とした。
「いえ、殿下。私も彼が黒と判断したわけではありません。ただ、判断する材料が乏しいのです」
気の毒そうにレオナルドを見ながらザガリーは続ける。
「普段、クリスは突然来訪することはありません。必ず一報を寄こしてからやって来るのです。それなのに、今日は突然来たかと思うと、近況報告とか言いながら、自分の事はほとんど話さず、私のことばかり聞いてくる・・・。探りを入れているとしか思えんほどに・・・」
そう言って、思案顔で顎を摩った。
「どうやら、殿下を探している事には間違いないようですな。ただ、真相を知っているかまでは分からない。ただ、行方不明の大人の殿下を探している可能性もあります」
「そうだ! クリスは昨日の朝から今日にかけて外出していた!俺が子供の姿になったことは知らないはずだ!」
バッとレオナルドは顔を上げた。
「ならば、城に戻ってから殿下の不明を知り、急ぎここに来たのだろうか? しかし、純粋に殿下をお助けしたいと思っていたのならば、素直に私に協力を求めてきただろうに・・・」
「箝口令が敷かれて迂闊に物が言えない状況なのでは?」
私も口を挟んだ。
「確かに、箝口令は敷かれているでしょうな・・・。ならば、もし、彼が殿下をお助けしたい一心で探りを入れてきたのであれば、私を誘拐犯の一味とでも思っているのかもしれませんね・・・。それはそれで心外ですな・・・」
ザガリーは腕を組み、うーんと考え込む。
レオナルドも腕を組み、考え込んでいる。
気付くと、私も腕を組み、首を傾げていた。
暫くの間、部屋の中央で、三人して同じポーズをしていた。
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