婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼

文字の大きさ
上 下
28 / 97

27

しおりを挟む
「なるほど・・・、御身はレオナルド殿下でしたか・・・。それはそれは、なんとも・・・」

全員テーブルに腰掛け、私たちから一通りの説明を受けた後、ザガリーは大きな溜息を付いた。

「情けないって続けて下さってよろしくてよ、ザガリー様」
「おいっ!」

「いいえ・・・、とんだ災難だったと・・・」

私の言葉にザガリーはフルフルと首を振った。

「それにしても、殿下を見つけて保護されたのがミレー家のエリーゼ様とは・・・。婚約者様だったなんて、何と幸運だったことか・・・」

「元ですわ。元婚約者です」

「は?」

ザガリーはポカンとした顔を私に向けた。

「だって、一昨日、殿下に婚約破棄されましたの、わたくし」

「へ?」

「ね? 殿下?」

私は隣の椅子に座っているレオナルドににっこりと微笑むと、レオナルドはムスッとした顔のまま、プイッとそっぽを向いた。

「ということで、わたくしはレオナルド殿下の婚約者でもなく、まったくの他人でございます。ただ、この災難に偶然めぐり合わせてしまっただけ。後は殿下の信頼されている貴方様にすべてお任せいたしますわ。どうぞよろしくお願いいたしますわね、ザガリー様」

私は椅子から立ち上がった。

「殿下。こちらが殿下のお召し物でございます。ザガリー様に元に戻してもらったら、こちらを着てくださいね」

私は持っていた包みをテーブルに置いた。
彼がこれを着る頃にはきっと皺くちゃになっているだろうが、そんなこと私の知ったことではない。

「では、わたくしはこれにて失礼させていただきますわ。あ、そうそう、今お召しのマイケルの服は念のためお返しくださいませ。母に無くなったことを気付かれると面倒ですので」

「ちょ、ちょっと、エリーゼ様?」

「それでは、ごきげんよう、殿下。ザガリー様も」

「ちょっと! ちょっと待った!! エリーゼ様!! お待ちくだされ!!」

ザガリーが血相を変えて立ち上がった。

「何をおっしゃる! このまま帰られては困りますぞ! この家では殿下は預かることは出来ん!」

私は真っ青になって懇願するような顔をしているザガリーを見て眉を寄せた。

「どうして? すぐに元に戻るお薬を調合して下さればよろしいのではございませんこと?」

「薬はそんなに早く調合できませんぞ! 特にこんな人体を変化へんげさせるほどの高度な薬の解毒剤はなど!」

「え・・・?」
「なっ・・・!?」

ザガリーの言葉に私もレオナルドも目を丸くした。

「そんな! それは困る! 早く元の姿に戻らないといけないんだ!」

レオナルドは椅子の上に立ち上がり叫んだ。

「それは十分理解しております。だが、今日の今日にできるものではございません! まずは殿下が飲んだ薬がどのようなものかを調べる所から始めないといけない。どんなに急いでも、二日はかかります」

「そ、そんなぁ・・・」

レオナルドはがっくり肩を落とした。

「その間、殿下をお預かりすることはできません。ここは危険です」

「なぜですの?! なぜ預かってもらえないの?!」

「犯人は殿下が子供に変化する薬を飲んでいることを知っているのですから。そしてこのような薬を作るのは只の薬剤師には不可能、呪術師に限る。しかも、かなりの高度な技術を持った者です」

青い顔のままザガリーは続ける。

「つまり、その高度な技術を持つ呪術師は私も含まれるのです」

「だから?!」

私は苛立ち気にザガリーを睨みつけた。

「今、宮中内では殿下の不在に大騒ぎでしょう。敵は殿下の行方を必死に探しているはず。殿下が私のもとを頼るであろうとは簡単に想像できる。きっと探りを入れてくるはずです」

彼は睨んでいる私を宥めるように話す。

「殿下のお話ですと犯人はウィンター伯が濃厚ですが、確定したわけではありませんし、彼に手を貸した呪術師は不明。下手をすれば、私の弟子の可能性もあるわけです」

「そんな・・・こと・・・」

思いもよらない言葉に、私は苛立ちがサッと消え、代わりにゾッと寒気を感じた。
レオナルドをチラリと見ると、彼も青い顔をしている。

「もちろん、私は弟子たちを信じていますがね。彼らは呪術に対し勤勉です。しかし、将来に対し希望も野心もある若者揃い。大金をチラつかされたら心が動かない保証はない・・・」

ザガリーは残念そうに肩を落とした。

「身内を疑うのは心苦しいですが、用心に越したことはございません。ここは危険です。エリーゼ様、どうか、薬が出来上がるまではミレー侯爵家で殿下の御身を預かって下され。侯爵家には敵もそう簡単に踏み込めません」

確かに、侯爵家の門は簡単に突破できるものではない・・・。

けれども! だが! しかし! 
何故、婚約破棄された私が面倒を見なければいけないのだ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

処理中です...