がんばれ勇者くん

うさのり

文字の大きさ
上 下
18 / 33
第三章

経験の値1

しおりを挟む
先ほど動物をしとめた場所から五分ほど歩いた、下草がやわらかく、少し開けている場所が、今日の宿だった。
頭上を見ると青い空が徐々に赤くなりかけている。


ここに到着してから、ディヤイアンは動物をエクーディアに託すと、動物除けの結界を張ってから、薪を集めに行った。エクーディアは結界の端に置かれた動物を、ナイフでさばき始めた。
最初誠二は、ディヤイアンに薪集めの手伝いを申し出たが、迷うと困るからと優しく断られた。
ディヤイアンが森の奥に消えると、彼はエクーディアの側に行き、エクーディアが無駄の無い動きで動物をさばくのを見ていた。
はっきり言って恐いし気持ち悪いし死んでしまった動物がかわいそうだったが、誠二は何故か熱心にエクーディアのナイフさばきを見ていた。


(・・・。やっぱり、この動物、エクーディアさんが殺したんだよな・・・。
んで、オレたちが食べるんだよな・・・。
オレが腹へったって言ったから、この動物、死ななきゃいけなくなったんだよな・・・。)

彼にしてはネガティブなことをぐるぐる考えていると、こちらも見ずにエクーディアが話し掛けてきた。

「死んでしまった動物は・・・。」

突然語りかけたエクーディアに、誠二がびっくりして俯き加減だった顔を上げた。それを気配で感じ取り、エクーディアは苦笑いをしながら言った。

「この世界では、死んでしまった動物や壊れてしまったものには、ちゃんと理由がある。
快楽で生き物を殺す者は、この世界では、それまでと同じようには生きていけないようになっている。生きていくにはそんな感情は必要無い。」

「えーっと、たとえば今日食べるご飯も無くって、それで人を殺してお金を手に入れるとか・・・。」

以前ニュースで見たような状況を、おそるおそる誠二が言うと、エクーディアは手を止めずに言った。

「そのようなことはありえない。衣食住は国で保証されているからな。」

「えぇ?」

「わたしは剣士だから、この世界のために剣を振るう。だから、それ以外の仕事は基本的にしなくていい。もちろん、家に帰ったら家事を手伝うがな。」

「・・・他の国はどうなんですか?」

誠二の呟きに、エクーディアはやっと顔を上げて少し考えてから、誠二を見た。

「あぁ、そうか。誠二君の世界は国が乱立しているのだったな。」

そして、再び作業を開始して話を続けた。

「この世界には国は一つしか無い。わたしたちが仕えているフォウスディ王家のみだ。」

「へ?」

「・・・まったく。ディヤイアンは何の説明をしたのか・・・。」

その後しばらくは肉をさばく音がしていたが、再び唐突にエクーディアは話し始めた。

「この世界は、国王を中心として、一つの国が世界を管理している。といっても、世界は広いから目が行き届かない事もある。
そこで、領主という制度が設けられている。五人いる領主は、一定の領土を王からまかされて、そこを治めている。
その他は、誠二君の世界とあまり変わりはないと思うのだが?
能力がある人物がその職業に就き、そこで得られたものや資源が全世界の人間に分けられる。そしてわたしたちは生活をしている。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

文官たちの試練の日

田尾風香
ファンタジー
今日は、国王の決めた"貴族の子息令嬢が何でも言いたいことを本音で言っていい日"である。そして、文官たちにとっては、体力勝負を強いられる試練の日でもある。文官たちが貴族の子息令嬢の話の場に立ち会って、思うこととは。 **基本的に、一話につき一つのエピソードです。最初から最後まで出るのは宰相のみ。全七話です。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...