がんばれ勇者くん

うさのり

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第一章

冒険の始まり2

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後から来た女の子は、そうとわかるくらいに苦笑いを浮かべ、誠二の頭に黄色い透明な石がついた金色の額飾りをはめた。

「確かにねぇ。あそこで大人しくしていてほしかったけど~。ま、何はともあれ、無事でよかったよぉ。『勇者』君♪」
額飾りを誠二の頭にはめると、美少女は右手で帽子を取り肘を直角にまげて、軽く頭を下げた。そして顔を上げてにっこりと笑った。その動作は洗練されていてとても優雅だったが、誠二はそんな細かいことを考えている余裕は無かった。

「え?」

(勇者ぁ?)

少し頬を赤らめていた誠二は、きょとんとした顔になった。

「あまり知らない場所を一人で歩き回るのはどうかと思う。
ディヤイアンが捜索の呪文で探してくれたからここまで来ることができたが、もう少し行っていたら君は底なし沼にはまっていただろう。」

「はぁ?」

突然言葉がわかるようになり、ゲームや漫画でなければあまり聞かないような単語が出てきたので、誠二は目を丸くして固まった。

「突然話してもわかんないよぉ。エクーディアぁ。」

やれやれという顔をしながら、後から来たディヤイアンと呼ばれた女の子は、帽子をくるくると回しながら、誠二を座らせたエクーディアと呼ばれた美女を見た。

「私は、早く終わらせたいだけだ。」

「師匠がからむと、周りが見えなくなるよねぇ~。エクーディアは。でもね、ちゃーんと説明してあげないと、『勇者』くんだって混乱するよぉ?
それに、あたしたち、自己紹介もしていないんだよぉ?」

その言葉にはっとしたような顔をしたエクーディアと呼ばれた人物は、一度目を閉じてから先ほどのディヤイアンと同じように帽子を脱いで頭を下げた。

「自己紹介も無くすまなかった。」

それから頭を上げ、誠二をまっすぐに見て言った。

「私は、王国軍親衛隊第三部隊所属、王位継承者警護担当責任者の、エクーディア・トゥークツエルという。よろしくたのむ。」

そう言うと彼女は微笑んだ。その笑顔を見て、誠二は真っ赤になった。
彼は今までエクーディアに対して冷たい印象を持っていたが、その笑顔からはとても暖かい優しさがうかがえた。

「あたしはぁ、治療術の魔法使いでぇ、王国軍魔法師隊所属、王位継承者警護担当の、ディヤイアン・クエムディオでーっす。よろしくね♪」

エクーディアを見ながらほほを赤く染めた誠二を見て、にこにこと笑ったディヤイアンは楽しげにそう言った。

「あ・・・。えっと、緑陵学園高等部二年C組でサッカー部所属の深井誠二です。よろしくお願いします。」

誠二がぺこりと頭を下げると、二人は軽くうなずいてお互いを見た。

「それでは、ゆっくりと話ができるよう、場所を変えよう。」

「そーだねぇ。んーと・・・、ドゥエムワウムグイルンに戻るより、南西の小屋のほうが近いよねー。それにあそこなら、お茶の用意もすぐ出来るし。ゆっくりできるよねー。」

「わかった。では行こう。」

エクーディアが頷くと、ディヤイアンは誠二を見てにっこりと笑った。まるで、厚い雲の隙間から太陽が顔を出したかのような、明るく暖かい笑顔だった。

「『勇者』君。ちょこっと歩くことになるけど、いい?」

「へ?」

誠二はいまだに、ほほを染めながらエクーディアをぼーっと見ていたが、ディヤイアンの言葉に反応して、顔をそちらに向けた。

「・・・?『勇者』君?どしたの?」

「どうした?体調でも崩したのか?」

心配した二人の顔を見て、誠二は慌てて立ち上がって両手を振った。

「あ、いや、大丈夫です。ぜんぜんOKっす。」

「・・・?では、行くか。」

「は、はい!」

エクーディアの後ろを右手と右足を同時に出しながら歩く誠二を見て、ディヤイアンはちょっと困ったように笑って、そのあとに続いた。
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