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活路

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「トモちゃん、アナタ波瀾万丈だね」

ケイコは智と会ってなかった数ヶ月に何が起こったかの話を聞き、驚きの声を上げた。  

「だから、尚更仕事見つけて頑張んなきゃいけないんですけど、全然見つからなくて。
風俗に戻る事も考えたんですが、それも何か違うかなあって。」

「そうね。難しいわね、ワタシらみたいな人間がフツーに生きていくってことは。」

「ですね。採用された後に色々詮索されたり問題視されるのもイヤなので、予め、男だけど女性として生活してるって伝えてるんですけど、それによって最初の段階で躓いてます。」

「なるほど。働く条件として、女性として働けるって事以外、何かあるの?
給料面とかお休みとか。」

「いえ、それ以外は何も求めていません。たとえお給料が安くても全然かまいません。」

「わかった。トモちゃん、まだ時間ある?」

「えっ、はい。まだ大丈夫です。」  

智が答えると、ケイコは携帯を取り出し、画面を見つめながら何かを打ち始めた。

「ちょっと会ってもらいたい人がいるのよ。
あ、返事来たわ。すぐ来るって。」

それから三十分ほどして、二人の席に向かって一人の男が近づいてきて声をかけた。

「ごめん、ちょっと道が混んでて遅くなっちゃった。」

「トモちゃん、いきなりごめんね。
紹介するわ。この人は山田さんっていって、会社を経営されてるの。」

「はじめまして、山田と申します。」

山田と言われたその男は智に名刺を差し出し、頭を下げた。
年齢は四十代後半というところか、短髪で恰幅もよく、色黒で目が大きいという特徴の持ち主だった。

「吉岡智と申します。」

智も名刺を受け取りながら頭を深く下げた。
山田が自分の隣に腰掛けると、ケイコが話をはじめた。

「トモちゃん、差し出がましいんだけど、この人の話を聞いてみて、いけそうだったらここで働くってのはどうかなって。」

「えっ。」

「私の会社は企業等と契約して主に清掃の仕事を請け負ってます。
こんなファーストフード店が閉店してから開店までの清掃なんかも主に請け負ってます。」

「そうなのよ。デスクワークじゃないんだけど、もし良ければ一度詳しい話を聞いてみるのもいいんじゃないかって。」

「ありがとうございます。是非、お話を聞かせてください。」

智は長期に渡って仕事が決まらない状況に精神的にマイってた事もあり、二つ返事で頭を下げた。

山田は仕事内容、給料、休み、その他福利厚生について、細かく説明をした。
勿論、どれを取っても前職と比べて足元にも及ばない内容だったが、それでも智は‥

「是非、宜しくお願いします。」

と、頭を深々下げた。

翌日に面接に行く約束をし、仕事の話はそこで終了した。

「よかったわ、少しでも役に立てて。」

「ありがとうございます。」

「実はね、この人と今付き合ってるのよ。」

ケイコは隣の山田に視線を送りながら、照れくさそうに言うと、山田も頭を掻きながらアイスコーヒーを一口飲んで、少し顔を赤らめた。

兎にも角にも、ケイコの善意で自分の恋人の会社を紹介してもらった智は、まだ採用されたわけではなかったが、深々と頭を下げたのだった。

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