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火種
しおりを挟む「マネージャー、ウチを辞めていった子達はどこの店に引き抜かれたか把握してる?」
「ええ。ほとんどが、駅の西口にある『squash』に引き抜かれました。」
ここで、ようやく多喜が口を挟んだ。
「『squash』って言ったら、免田のオッサンの店じゃないっすか!」
それを聞いた亮輔は
「なるほどね。」
と、全てを理解したように大きく一度頷いた。
「専務… どうします?」
多喜が少し困惑した表情を浮かべて亮輔の方を見ると
「とりあえず、帰るわよ。」
亮輔はそう言うと、既に立ち上がり、歩きだしていた。
行きと同じように、多喜は素早く後部座席のドアを開け、亮輔を乗せると、自分もすぐに乗り込み、車を発進させた。
「専務、少し厄介な事になりましたね…」
「そうね。この件を社長に報告するべきかどうか…迷うところだわ。」
「えっ… 社長に報告しないんですか?」
多喜は驚いて、ルームミラー越しに亮輔を見た。
「… 報告しないわけにはいかないけど…」
亮輔はそれだけ言って黙ってしまった。
何故なら、この件が後に及ぼす影響がどれほどのものになるかを、二人は、はっきりと理解していたからだ。
「専務… 今日同行させてもらって、全ての面で感服しました。
自分が知ってる松山亮輔とはまるで別人です。
あ、外見っていう意味じゃなくて、中身がです。
一体二年の間に何があったんですか?」
多喜がそう言うと、亮輔は窓の外をぼんやりと見つめていたが、ミラー越しに視線を向け直した。
「そうね… さっきアンタが言ったストックホルム?何とかっていうやつ。
たしかに、私はそうなるくらいに精神的に追い詰められてたわ。
冷静なって後から考えても、やはり地獄の日々だったね。その中をずっと生きてきたの。
まさにこの世の果てを思わせる世界をね。」
「…」
「そこから這い上がって来たのよ。あの頃のように甘い生き方は二度としないわ。」
「専務…」
「でも、今の自分の人生は、そう悪くはないと思ってるわ。」
亮輔はニコッと笑った。
「専務、俺も死に物狂いでついて行きますんで、これからも宜しくお願い致します!」
多喜は運転しながら頭を下げて言った。
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