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実態
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「これはこれは専務!この度はご結婚おめでとうございます!」
亮輔と多喜が店に入るなり、マネージャーの岩下が揉み手をしながら近寄ってきた。
「マネージャー、ご苦労様。この前は披露宴に来てくれてありがとう。
今日来たのは、少し店を見せてもらいたくてね。」
亮輔は店内の様子を一々確かめるよう見ながら、岩下に言った。
「今、開店前のミーティングが終わったところなんですよ。とりあえず事務所の方にどうぞ。」
岩下は亮輔と多喜を連れて奥に進んでいった。
キャバ嬢達は亮輔とすれ違う度に頭を下げたが、その目は反感に満ちていた。元々自分達の同じキャバ嬢でありながら、うまく多村に取り入り、結婚した本田綾香の事は、ここでも有名で、誰もが良い印象を持っていないのは明白だった。
それに気付いてか、岩下は歩きながら亮輔に言った。
「すいません、専務。
専務は超一流店で社長に出会われたのに、アイツらは自分と同じレベルの人間だと勘違いしているんですよ。 全てが違うのに…」
「いえ、別に構わないわ。私がいたのは多村の経営する店ではなかったけど、同業者と言われればそうだからね。」
亮輔は気にする様子もなく、表情を変えずに言った。
事務所に入ると、亮輔も多喜もお茶を出すという岩下を手で制して椅子に座らせた。
「マネージャー、早速だけど気付いた事を言ってもいい?」
亮輔は腰掛けるなり本題に入った。
「あ、はい。どうぞ…」
「今日入ってるメンバーにナンバーワンの子が含まれてる?」
「はい。ナンバーワンどころか、ウチのベストメンバーですよ。」
「以前からずっとそうだった?」
亮輔がそう質問すると、急に岩下の元気が無くなった。
「いえ… 二ヶ月前は別の子でした。」
「その子は?」
「他店に引き抜かれました。」
「まあ、そんなことは、この業界じゃ常識だけど。私が調べたところによると、この店から他店に移る子の比率が、ウチの系列店舗の中で圧倒的に高いのよ。給料は変わんないのに… これについてはどう思う?」
「それは…」
岩下は答えに窮して、言葉が途切れてしまった。
多喜は二人の会話を黙って聞いていたが、自分と同い年で荒くれ者だった亮輔の口から発せられている言葉だということが、いまだに信じられない思いで、ただ黙って聞いているだけだった。
組に復帰するにあたり、亮輔はもう一度極道、いや、会社経営について、多村の役に立つ人間となって頑張ろうと、暇な時間を利用して猛勉強したのだ。
現代社会において、ヤクザ稼業だけで生計を立てられる者など、一人として存在しない。
経済ヤクザとして名を馳せた多村は、早くから会社経営をし、組の仕事とは一線を引いて、主たる収入源としていた。
今後は、さらに多村興業へのシフトチェンジを加工しなければならいと、考えていた矢先の綾香の逃亡であった。
この事が、多村のビジネスのビジョンに大きな影響を与え、一つの考えが浮かんでいたのだった。
しかし、亮輔はまだ多村の計画を知らず、目の前の仕事に集中しようと、心がけていた。
亮輔と多喜が店に入るなり、マネージャーの岩下が揉み手をしながら近寄ってきた。
「マネージャー、ご苦労様。この前は披露宴に来てくれてありがとう。
今日来たのは、少し店を見せてもらいたくてね。」
亮輔は店内の様子を一々確かめるよう見ながら、岩下に言った。
「今、開店前のミーティングが終わったところなんですよ。とりあえず事務所の方にどうぞ。」
岩下は亮輔と多喜を連れて奥に進んでいった。
キャバ嬢達は亮輔とすれ違う度に頭を下げたが、その目は反感に満ちていた。元々自分達の同じキャバ嬢でありながら、うまく多村に取り入り、結婚した本田綾香の事は、ここでも有名で、誰もが良い印象を持っていないのは明白だった。
それに気付いてか、岩下は歩きながら亮輔に言った。
「すいません、専務。
専務は超一流店で社長に出会われたのに、アイツらは自分と同じレベルの人間だと勘違いしているんですよ。 全てが違うのに…」
「いえ、別に構わないわ。私がいたのは多村の経営する店ではなかったけど、同業者と言われればそうだからね。」
亮輔は気にする様子もなく、表情を変えずに言った。
事務所に入ると、亮輔も多喜もお茶を出すという岩下を手で制して椅子に座らせた。
「マネージャー、早速だけど気付いた事を言ってもいい?」
亮輔は腰掛けるなり本題に入った。
「あ、はい。どうぞ…」
「今日入ってるメンバーにナンバーワンの子が含まれてる?」
「はい。ナンバーワンどころか、ウチのベストメンバーですよ。」
「以前からずっとそうだった?」
亮輔がそう質問すると、急に岩下の元気が無くなった。
「いえ… 二ヶ月前は別の子でした。」
「その子は?」
「他店に引き抜かれました。」
「まあ、そんなことは、この業界じゃ常識だけど。私が調べたところによると、この店から他店に移る子の比率が、ウチの系列店舗の中で圧倒的に高いのよ。給料は変わんないのに… これについてはどう思う?」
「それは…」
岩下は答えに窮して、言葉が途切れてしまった。
多喜は二人の会話を黙って聞いていたが、自分と同い年で荒くれ者だった亮輔の口から発せられている言葉だということが、いまだに信じられない思いで、ただ黙って聞いているだけだった。
組に復帰するにあたり、亮輔はもう一度極道、いや、会社経営について、多村の役に立つ人間となって頑張ろうと、暇な時間を利用して猛勉強したのだ。
現代社会において、ヤクザ稼業だけで生計を立てられる者など、一人として存在しない。
経済ヤクザとして名を馳せた多村は、早くから会社経営をし、組の仕事とは一線を引いて、主たる収入源としていた。
今後は、さらに多村興業へのシフトチェンジを加工しなければならいと、考えていた矢先の綾香の逃亡であった。
この事が、多村のビジネスのビジョンに大きな影響を与え、一つの考えが浮かんでいたのだった。
しかし、亮輔はまだ多村の計画を知らず、目の前の仕事に集中しようと、心がけていた。
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