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二章 接吻

3 目で犯される

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※NTR/寝取られ、緊縛、視姦、目隠し、耳栓、放置。


 突然すぎて、驚く隙もなかった。

 文字どおり、またたきをしている間に、視界が奪われていた。幅広の布が両目を覆って巻かれている。

「はっ……あ……」

 ぞくぞくぞくっ──。

 全身に緊張が走る。さっきまでの比ではない。

 両手を縛られ、両足をつながれ、秘所を大きく晒したこんな羞ずかしい状態で、ついには何も見えなくされてしまった。
 義父の動きが見えない。どこにいて、何をしているのか。何をしようとしているのか。
 これから自分は、何をされるのか。どんなふうに、どこを、どれほどに……。

 感情は一気に大きく膨れ上がった。

「お義父さま……!」

 返事はない。
 ますます不安が煽られる。

「お義父さま、おねがい、外して……」

 ピリピリと甘い痺れが肌を這いずる。
 そこに、まぎれもなく混ざりこんでいる、淡い快感。
 意識を侵し、弱いところにじんわりと溜まっていく。
 露出の刺激と見られる羞恥は、もはやすっかり物理的な触知として、彼女の全身を嬲っていた。

 ゾクっと震えるたびに、どくんと脈打ち、とろりとぬるむ。
 溜まった快感が、じゅん…と肌に染みを広げる。
 肚の奥が熱をもつ。

 きゅぅん……。

「いや……どうして……ど、して、こんな……」

 こんな状況で気持ちいいだなんて、どうして。

 動くことも、逃げることも、見ることすら、禁じられて。
 ただ、見られるためだけにこの身を差し出して。

 羞ずかしいのに、怖いのに、不安なのに、気持ちよさに浸ってしまいそうになる。
 自分を手放してしまいそうになる。

「あぁ……」

 衣擦れの音にはっとした。義父が近い。足元だ。すぐそこにいる。そこで見ている。見えずとも、わかる。
 見られている、と思うと、また顔が熱くなった。
 そんな近くで見られたら、ひくひくと痙攣しているだけでないことが、義父にわかってしまう。
 震えて、ひくつくそこが、もう濡れはじめていることが。

 ふと、その向こうに、夫の呻き声が聞こえた。
 ぎくりと身がすくむ。

「あ、なた……」

 思わず呼んでしまった。
 そうしてしまってから、自分の失策に気づいた。

 ちりちり、と、肌を刺す視線が痛い。
 足音と衣擦れ。さらに距離が詰められた。
 何よりも、気配が、あきらかに変わった。
 不穏な禍々しさ。嗜虐の昂り。そして、雄の征服欲。
 いつでも屠れることを知る狩人の、残忍な笑みが目に浮かぶようだった。

「あ……」

 不安が爆発しそうだ。
 しかし、そこに分かちがたく紛れ込んだ悦楽の期待もまた、隠しがたく。

 こんな自分を、夫には知られたくない。

 縛られて、晒されて、怖くて、羞ずかしくて、不安で。
 なのに、奥をうずかせて。それも全部見られて。

「いや……」

 いいや、ちがう。「なのに」ではない。本当は。

 義父に縛られ、見られ、虐められて、羞ずかしくされ。
 それを悦んでいるのが、脳なのか、心なのか、身体なのかは、わからない。
 けれどたしかに、彼女の中の女が、ぬるぬると涙をこぼしている。
 焦れてきゅんきゅん泣く子宮が、強い雄を求めて、うずうずと喘いでいる。

 すぐそこに夫がいるというのに。

「いや、ぁ……」

 涙が止まらない。

 ふと、顔がかげった。義父が枕元にきた、その影に入ったのだ。見下ろす視線を、熱いほど感じる。
 どんな表情をしているのだろう。どんな目で自分を見ているのだろう。

 ごくりと喉が鳴った。

「目を閉じて、耳もふさいで、私だけを感じていればよい」

 義父の声は、いっそ優しかった。
 子供の頭を撫でるかのようにやわらかい。
 実際に撫でられたのでは、と思うほどに。

「お義父さま……」

 かちゃかちゃと箱の開閉する音がした。

 なんだろう?
 と、首をかしげたところへ、いきなり、本当にいきなり、耳がくるりと撫でられた。
 何の準備もできていなかった。まったく無防備だった。いきなり触れられて、自分でもびっくりするほどぞくぞくと、ときめいた。

 あまりの驚きに、続いて何か柔らかいものが耳穴にぐっと入れられたことに、気づくのが遅れたほどだった。

(……え? 綿?)

 次に、ひやりとぬめる、柔らかいもの。粘土のような。
 もーん……と、こもった残響が少し残って、それを最後に、外の音は何も聞こえなくなった。

 呆然と硬直している間に、もう、すべてが終わっていた。
 耳に栓をされたのだ。

「え、あ、あっ、あああ」

 外界の音が何も聞こえない。自分の呼吸音ばかりが、うるさいほどに響いている。

 手足の自由を奪われ、脚を大きく開かされて、視界を塞がれ。
 いま、また、音までも奪われた。

 もう、外界を知るすべが、ほとんどない。
 残されているのは、匂いと、味と、肌の触知ばかり。
 それがこんなにも、身体を過敏にするとは。

「あぁ」

 守るものの一切を剥ぎとられた脚の間を、ふわりと空気が撫でるのを感じた。

 ぞわぞわぞわ──

 たまらない感覚が、全身を一斉に舐め上げる。
 まるで、むらがる無数の棒に、寄ってたかって身体中を弄ばれているような。

 彼女の知っているどんな官能とも違う。
 未知の快楽の予感に酔わされ、脳がしびれていく。

 じゅん……。

「はっ、はっ、あっ」

 鼻からぬける熱い吐息が、甘く潤む。

 視覚も聴覚もない世界。
 なんと心細く、寄る辺ない。

 生まれてきたばかりの赤ん坊は、こんな気持ちなのだろうか。
 見知らぬ世界。
 目を開くとそこに、何が、誰が待っているのかと。
 どんな世界にやってきたのかと。

「お義父さま……」

 腰のあたりにたまっていた裾が、ふわりと持ち上げられた。
 そのまま、口に咥えさせられる。
 咥えていろということだ。それくらいはわかる。
 けれどそうして持ち上げられると、腹部が大きく露出してしまう。いや、腹部だけではない。胸のふくらみも、そうしてその頂上にある小さな紅嘴も。

 夜着の下で熱をこもらせていた胸が、たっぷりとまろび出た。
 谷間に浮いた粒の汗は、空気にふれてすうっと冷える。
 こりこりと尖った稚蕾が、義父の視線を感じて、きゅっと凝る。

 ああ、見られている。
 目で犯される。

 チリ、チリリ──。

 焦れったいほどの淡い快感が胸先に灯もり、じん…と官能がわく。
 また奥が、うず、と泣いた。

「ううぅ……」

 じゅわん。

 ごくりと喉がなるのが自分でわかる。

 不安も期待も、白くかすんでいく。
 ただ、見られているという感覚だけを、ひりひりするほど感じていた。

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