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二章 接吻

4 何も聞きたくない

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※夫視点、NTR/寝取られ。


 彼が縛りつけられた柱から、寝台は見えない。
 だが耳に入る音は、あまりに多くのことを伝えてきた。

 妻の悲鳴、嬲る父の声、引き裂かれる布、寝台のきしむ音、壁に揺れる影。

 目の前で妻が犯されていく。
 何をされているのか。どんな辱めを受けているのか。
 あんなに泣き叫んで、どんなに怖いだろう。どれほどの屈辱だろう。
 こんな手の届く距離にいて、何もできない。

「い、いやッ──! あなた、見ないでぇ……!」

 気が狂いそうだった。

 がんじがらめに手足を縛られ、入念に柱に固定されて、ほとんど身動きすら取れない。姿は見えない。だが、聞こえてくる声と悲鳴に、陵辱の一部始終が、いやというほどわかってしまう。

「膝を開け。開くんだ」

 男女のことなど何も知らない、無垢な乙女だったのだ。
 口づけひとつも、時間をかけて、ゆっくりと慣れるのを待った。妻になってからも、いつまでたっても初めてのように羞じらい、少し身を固くする。身体を開くたびに小鳥のように震えて、大丈夫、と消え入るような声で、おずおずと彼を迎えてくれた。

 そんな初々しい少女に、なんという鬼畜の所行。

「待っ、や、めてぇ……!」

 大切に慈しんできた、世界に一輪の蕾だった。
 それを。
 こんなふうに穢すなど。
 あんなふうに踏みにじるなど。
 子供が戯れに虫の足をもぐ残酷さで、そんなふうに弄んでよい女ではないものを。

「奥までよく見える」

 愛する妻が、自分の父に辱められ、奪われた。
 どうしてこんなことに。

「お義父さま、おねがい、外して……」

 縛られたまま、耳をふさぐことすらできない。
 気が狂う。
 これ以上、もう何も聞きたくない。

「いや……どうして……ど、して、こんな……」

 聞こえてくる妻の涙声が、胸をえぐる。
 それでもいっそ、ただただ恐怖と苦痛ばかりの悲鳴なら、まだ耐えられたかもしれない。

 だが、いや、やめて、と訴える声はだんだん弱く細っていった。

 引き裂くような悲鳴が、怯えた震え声になり。
 涙混じりの訴えから、泣き濡れた嗚咽へ。

 それは、いつしか、あきらかに甘く潤んでいた。

「ん、うぅっ、んっ、んんっ……」

 途中で彼女も口をふさがれたのだろう。
 くぐもった声は、彼が聞いたことのない、欲にまみれた声だった。
 あんなに淫らな声を、あの妻が。
 どんな姿で、どんなに蕩けた顔で、あんな女の声を。

 そしていつまでも終わらない壮絶な絶頂の嬌声。
 彼とは経験したことのない淫虐に叩き堕とされ、忘我の恍惚に沈められていることは明らかだった。

「あっ、あっ、あっ、ああああああああぁッ───!」

 いま、どんな目に遭っているのか。
 あの夜、いったい何をどれだけ、され、また、させられたのか。
 あどけない妻の、あの幼く慎ましかった身体が、そこまで変わり果てるほど──。

「これっ、あっ、だめっ、止めて止めて止めてお願い止めてぇ……!」

 彼女が好んで淫蕩を貪っているとは、思うまい。
 父の手練手管で、むごくも快楽漬けにされたのだ。
 意志に反して、無理矢理に。

「あっ、ああああああっ」

 わかっている。
 わかってはいるが、それでも──。

 あのきよらかで無垢な妻は、もう。

「あっあっだめっ、またイク、今だめっ、やめ…ッ! んぁぁああああああっ」

 頭の中がどす黒く濁っていく。

「ぁぁああああああ──」

 もう何も聞きたくない。

 もう、何も。

 *

 どれだけ経ったのだろう。
 いつしか時間感覚が失せていた。

 ふ、と影が落ちた。
 仁王立ちで見下ろしている男がいた。

 この男が、彼女を──。

 どす、とみぞおちに重い衝撃がはしって、意識が暗転する。

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