不死の妖

アリエッティ

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ロスの悲劇

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 前は普通の街だった。アメリカの大都市ロサンゼルス、小さな頃からここに住み暮らしていた。

 「エリー! こっちだ!」
ブロンド髪の少女の手を引き、青年は建物の陰へ

「セバスチャン..何なのこれ?」

「わからない...けどみんなああなった。
ロビーもシズも、みんな襲われた..!」
友人は皆巻き込まれた。理性を失い、変わりはてた姿に成り人を食らい始めた。

「博士のところにいってみましょう。
何かわかるかもしれないし」

「確かに、あそこなら壁も厚いし頑丈だ。
直ぐに行こう。少し走るけど、いいよね?」

「…構わないわ!」

 〝ロスの悲劇〟そう名付けた。
突如人々が理性を失い人に食らい付き、傷を付けられた人間が更に理性を失い人を襲う。

「酷い悪循環だ...。」

「博士! 
何者かが二名、こちらへ向かって走って来ています」

「生者か!?」

「はい、シルエットを見るに生存者です!」
研究室のモニターから街を見渡すと、温度の識別で生者か死者かが判断出来る。

「通せ、直ぐに扉をしめろよ?
彷徨うゾンビに侵入《はい》られては困るからな。」
外の死者は増える一方だ。
街を彷徨う死者達は、やむを得ず警察が打ち倒している。研究室からは死者の数が減る様子も確認する事が出来るがそんなものは極わずか、雀の涙程の減少が適度に見られるくらいだ。

「博士!」「今度は何だ!?」
いつになく助手が慌しい、普段冷静な事も相まって起きている事の重大さを物語っている。

「死者の数が減少しました..。」

「いちいち報告する事か?
増加が著しく気付かないが以前からちらほらと減ってはいただろう..」

「違うんですっ!!
..一部の死者が、ごっそりといなくなりました。」

「……なんだと?」
突如街の一片に存在した死者の群れが一斉に何処かへいなくなったという、警察の仕業ではなさそうだ。

「一体何処に..?」「わりません。」
科学者と言えども首を傾げる他無かった。


 時系を遡って江戸時代、侍が腰に刀を携え髷を結っていたこの時代にとある諍いが生まれていた。

 「覚えてやがれっ!」「二度と来るな!!」
人里へと降りてひと暴れした鬼を追い払うと、鋭い怒号で忠告を促す。これで一旦の平和は保たれたと思った矢先、背を向ける鬼の正面から首を掻っ切る侍がまた一人。赤い鬼の血は、やはり同じ赤色をしていた。

「隊長!」

「情けを掛けるな。
妖は人に付け入る事があっても、反省はしない」

「は、はいっ!」
人ではない、獣でもない異界の住人〝妖〟が人里に降りては悪事をよく働いていた。街の侍はそれを危惧し結託して「妖討伐隊」を組織し、妖の駆除に努めるようになった。

「はっは、相変わらずだねぇ早助《そうすけ》。
ちょいとやり過ぎなんじゃねぇの?
いくら鬼ったって食い物くすねただけだろ」

「..吾太郎か、お前も情けを掛けるクチか?」

「冗談だよ、これからも頑張っていこうぜ隊長さん」
 早助と比べると真逆の性質である吾太朗だが、討伐隊の許可申請を役所に提出する際、隊長である早助が最も信頼できる侍として副隊長に任名した男だ。

「それより、ホントに行くのかよ?
本拠地の連中は人里の雑魚と比べ者になんねぇだろうぜ、冗談無しに全滅って事も..」

「俺がいる、だれも死なせはせんしな。
街を護る事は部下を守る事だ」

「…頼もしいな、信じてるぜ隊長!」
山奥にあるという妖の本拠地、一度敢えて留めを刺さず追跡し辿り着いたのが街外れの向こうにある霧の立ち込める山、「風仙山《ふうせんざん》」。

そこには異界の入り口と、本当の危害が潜んでいる。

「......侍共が結託していつ頃経つ?」

「知らねぇ、けど見て見ぬフリは出来ねぇよな。」

「だからこうやって皆集まって話し合ってんでしょ、こんな見晴らし悪い山の頂上で!」

「けっ、くだらねぇ..まとめて食っちまえよ。」

「それが出来たらもうやってんだよ」
顔を見合わせ、妖達が言葉を交わしている。
お世辞にも仲が良いとは言えない雰囲気ではあるが、それでも気概は同じ。侍を打ち砕くべく結託したこちらもまた一つの組織「妖同盟」。

「でもあいつら相当な腕っぷしらしいぞ?
妖相手なら容赦なく情けも掛けねぇってな」

「そんなもんに怯えてるのかよ!
情けねぇな、バケモンの癖によぉっ!!」

「黙ってろ鵺公、お前が筆頭じゃなくて良かったぜ」
気性の荒い獣は戦闘以外に役に立たない。本来は話し合いなどに向き合わせるべき相手ではないのだが、野放しにしていても何をしでかすかわからない。侍以前の八方塞がりが目の前に存在している。

「まったく..纏まりの無ぇ連中だぜ。」

「そんな事よりさー、アイツら誰?
九尾さんですらずっと知らん振りしてるけどさ!」

「…確かに、気になるな。
そこにいる多勢の者、姿を現せ」
深い霧の向こうからゆっくり這うように彷徨い歩き近
近付いてくる。顔に覇気は無く生気も感じない。

「なんだよ人間じゃねぇか。」

「良い度胸だな、食い散らかしてやるっ!」

「手を出すな。」
九尾が大きな尾を振り回し連中を一掃する。霧の中へ再び潜り姿を消し、消えたように見えたがすぐに起き上がり彷徨い歩く。

「まだ生きてるぞ」

「頑丈な連中だな、それとも九尾が鈍ったか?」

「そんな訳無いでしょ?
九尾がこんな連中いなせない訳無いわ。」

「…もう皆でやったほうがいいんじゃない?」
てっとり早く複数で手をあげる事にした。しかしおかしい。いくら傷つけようが、いくら血を噴き出させようが命を落とす気配が無い。

「おい、これどうなってんだよ!?」

「身体の構造がおかしい..何故死なん?」
当然だ、既に彼らは死んでいる。向こう側では人間の限界はとうに終えているのだ。

「九尾、危ないっ!!」
死者の一人が九尾の首筋に噛み付き傷を付けた。

「ぐおっ!」「九尾っ!」
九尾が一瞬怯み倒れた瞬間に、他の妖達も身体の一部を噛み付かれ傷を付けられてしまう。

「……」
妖が倒れても尚彷徨い続ける不死の愚者達、霧で上手く前が見えないのかその後ウロウロと辺りを見回している。

「……クゥッ!!」
暫くして妖達が息を吹き返すと、その姿は見る影も無く大いなる変貌を遂げていた。

「人間風情が...消え失せろっ!!」
霧を巻き込んだ九尾の狐火が、妖を避け不死の人々を赤く焼き払う。妖の筆頭たる彼は今、不死の筆頭にへと成り果てるのだった。

「人間共よ
我々の死を最て貴様らに絶望を与える..」
未来の悲劇は、過去にすら悲しみの破滅を導く。
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