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プロローグ 絞首刑台からの逆襲
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クリスマスの二週間ほど前の土曜日。午後三時過ぎ。
十五歳の赤毛の美少女ルビー・クールは、絞首刑台に、ひとり、立たされていた。
首に、絞首刑用の太いロープをかけられて。
両手は、後ろ手に手錠をかけられている。
帝国魔法学園の純白の制服は、まるで死に装束のようだ。
絞首刑台の前の広場には、無法者たちがひしめき合っている。その数は、一万人を超える。広場の向こう側の二車線道路にまで、若い男たちがあふれている。
彼らは、十五歳の少女の絞首刑を、今か今かと待ちわびている。卑猥なヤジを、絞首刑台上の少女に向かって、投げつけながら。
広場に、子どもたちが連行されてきた。絞首刑台の右手の入り口からだ。
五十人を超える子どもたちは皆、恐怖に怯え、泣いている。
それを見た瞬間に、ルビー・クールは動転し、思わず叫んだ。
「約束でしょ! 子どもたちを傷つけないで!」
テロ組織の司令官が、下卑た笑みを浮かべた。黒いあごひげを撫でながら。
「約束? なんのことだ?」
「約束したじゃない! あたしが抵抗をやめて降伏したら、孤児院の子どもたちには危害を加えないって」
司令官は、言い放った。笑いながら。いかにも、愉しそうに。
「嘘に決まってるだろ」
ルビー・クールが、叫んだ。その言葉に打ちのめされ、泣きそうな顔で。
「そんな、ひどいわ! あなたには良心というものがないの!」
司令官は、高らかに笑った。
「我々は、おまえらが持つ古い道徳は、すでに捨て去った。我々の革命の実現のためには、いくらでも嘘をつき、どれほど人を騙しても、かまわない。いやむしろ、積極的に嘘をついて騙すべきなのだ。それこそが、我々、無産者革命党員の良心なのだ」
テロ組織「無産者革命党」の司令官は、愉しそうに言葉を続けた。
「ガキどもは、おまえの絞首刑を見せつけたあと、一匹ずつ公開処刑だ。豚のようにな」
その恐ろしい言葉に震えたルビー・クールは、涙目で懇願した。
「お願いよ。子どもたちを殺さないで」
視線を向けると、子どもたちは恐怖に怯え、泣き叫んでいる。
「バカか、おまえは。殺すに決まってるだろ」
ニヤつきながら、司令官は右手をあげた。
ルビー・クールの顔を、平手打ちした。
「や、やめて! 顔は殴らないで!」
悲鳴をあげ、反射的に、そう口走ってしまった。
その言葉に興奮したのか、司令官は、再び右手をあげた。
「いやっ! やめて! お願いよ」
思わず、ルビー・クールは懇願した。
司令官はその懇願を無視し、何度も平手打ちを繰り返した。興奮した表情で。無抵抗の女を殴るのが、愉しいらしい。ろくでもない男だ。
子どもたちが、泣き叫んでいる。恐怖だけではない。殴られるルビー・クールを見て、泣いたのだ。女児が泣きながら、周囲の男たちに懇願していた。「お姉ちゃんに、もうひどいことしないで」と。
懇願など、無意味だ。この無法者たちには。
このままでは、自分だけではなく、子どもたちも全員殺されてしまう。
自分が、守らなくては。子どもたちの命を。
そう思った瞬間、ルビー・クールの心の奥底で、真っ赤な炎が燃えあがった。
闘志の炎だ。
熱い闘志の炎は、瞬く間に、心の中全体に、燃え広がった。
ルビー・クールは、決意した。子どもたちを守る。そのために、戦う。この命、燃え尽きるまで。戦って、戦って、最後まで、絶対にあきらめない。
そう強く、決意した。
司令官が、ルビー・クールの髪をつかみ、顔を無理矢理あげさせた。
「いいことを思いついた。おまえを殺す前に、おまえの目の前で、ガキどもを一匹ずつ殺してやる。まあ、おまえが、跪いて泣いて懇願するなら、考え直してやってもいいけどなあ」
そう言って、再び下卑た笑みを浮かべた。
どうせ、嘘だ。また、騙すつもりだ。
ルビー・クールの心の中で、怒りの炎も燃えあがった。人間誰もが持つ、悪を憎み、正義を求める怒りの炎だ。
ルビー・クールは、司令官をにらみつけた。
「なんだ、その目は。ガキどもを殺すぞ」
「その前に、あたしがあなたを殺すわ」
その言葉に、司令官が笑いだした。
「私を殺すだと? どうやってだ? 私が合図をすれば、次の瞬間には、おまえは絞首刑だぞ」
「あたしがあなたに、死刑を執行するわ」
ルビー・クールの口調は、すでに冷静さを取り戻していた。
司令官は、笑い転げた。
「だから、どうやってだ? 死刑執行直前は、おまえのほうだろ」
ルビー・クールは、自ら顔をあげた。表情が、すでに一変していた。
背筋を伸ばし、まっすぐに直立した。
冷ややかな口調で、言い放った。
「あなたの遊びの時間は、もう終わり。ここからは、あたしの逆襲の時間よ」
孤立無援で、絶体絶命の窮地。一万人を超える無法者たちを相手に、今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
第一章に続く
十五歳の赤毛の美少女ルビー・クールは、絞首刑台に、ひとり、立たされていた。
首に、絞首刑用の太いロープをかけられて。
両手は、後ろ手に手錠をかけられている。
帝国魔法学園の純白の制服は、まるで死に装束のようだ。
絞首刑台の前の広場には、無法者たちがひしめき合っている。その数は、一万人を超える。広場の向こう側の二車線道路にまで、若い男たちがあふれている。
彼らは、十五歳の少女の絞首刑を、今か今かと待ちわびている。卑猥なヤジを、絞首刑台上の少女に向かって、投げつけながら。
広場に、子どもたちが連行されてきた。絞首刑台の右手の入り口からだ。
五十人を超える子どもたちは皆、恐怖に怯え、泣いている。
それを見た瞬間に、ルビー・クールは動転し、思わず叫んだ。
「約束でしょ! 子どもたちを傷つけないで!」
テロ組織の司令官が、下卑た笑みを浮かべた。黒いあごひげを撫でながら。
「約束? なんのことだ?」
「約束したじゃない! あたしが抵抗をやめて降伏したら、孤児院の子どもたちには危害を加えないって」
司令官は、言い放った。笑いながら。いかにも、愉しそうに。
「嘘に決まってるだろ」
ルビー・クールが、叫んだ。その言葉に打ちのめされ、泣きそうな顔で。
「そんな、ひどいわ! あなたには良心というものがないの!」
司令官は、高らかに笑った。
「我々は、おまえらが持つ古い道徳は、すでに捨て去った。我々の革命の実現のためには、いくらでも嘘をつき、どれほど人を騙しても、かまわない。いやむしろ、積極的に嘘をついて騙すべきなのだ。それこそが、我々、無産者革命党員の良心なのだ」
テロ組織「無産者革命党」の司令官は、愉しそうに言葉を続けた。
「ガキどもは、おまえの絞首刑を見せつけたあと、一匹ずつ公開処刑だ。豚のようにな」
その恐ろしい言葉に震えたルビー・クールは、涙目で懇願した。
「お願いよ。子どもたちを殺さないで」
視線を向けると、子どもたちは恐怖に怯え、泣き叫んでいる。
「バカか、おまえは。殺すに決まってるだろ」
ニヤつきながら、司令官は右手をあげた。
ルビー・クールの顔を、平手打ちした。
「や、やめて! 顔は殴らないで!」
悲鳴をあげ、反射的に、そう口走ってしまった。
その言葉に興奮したのか、司令官は、再び右手をあげた。
「いやっ! やめて! お願いよ」
思わず、ルビー・クールは懇願した。
司令官はその懇願を無視し、何度も平手打ちを繰り返した。興奮した表情で。無抵抗の女を殴るのが、愉しいらしい。ろくでもない男だ。
子どもたちが、泣き叫んでいる。恐怖だけではない。殴られるルビー・クールを見て、泣いたのだ。女児が泣きながら、周囲の男たちに懇願していた。「お姉ちゃんに、もうひどいことしないで」と。
懇願など、無意味だ。この無法者たちには。
このままでは、自分だけではなく、子どもたちも全員殺されてしまう。
自分が、守らなくては。子どもたちの命を。
そう思った瞬間、ルビー・クールの心の奥底で、真っ赤な炎が燃えあがった。
闘志の炎だ。
熱い闘志の炎は、瞬く間に、心の中全体に、燃え広がった。
ルビー・クールは、決意した。子どもたちを守る。そのために、戦う。この命、燃え尽きるまで。戦って、戦って、最後まで、絶対にあきらめない。
そう強く、決意した。
司令官が、ルビー・クールの髪をつかみ、顔を無理矢理あげさせた。
「いいことを思いついた。おまえを殺す前に、おまえの目の前で、ガキどもを一匹ずつ殺してやる。まあ、おまえが、跪いて泣いて懇願するなら、考え直してやってもいいけどなあ」
そう言って、再び下卑た笑みを浮かべた。
どうせ、嘘だ。また、騙すつもりだ。
ルビー・クールの心の中で、怒りの炎も燃えあがった。人間誰もが持つ、悪を憎み、正義を求める怒りの炎だ。
ルビー・クールは、司令官をにらみつけた。
「なんだ、その目は。ガキどもを殺すぞ」
「その前に、あたしがあなたを殺すわ」
その言葉に、司令官が笑いだした。
「私を殺すだと? どうやってだ? 私が合図をすれば、次の瞬間には、おまえは絞首刑だぞ」
「あたしがあなたに、死刑を執行するわ」
ルビー・クールの口調は、すでに冷静さを取り戻していた。
司令官は、笑い転げた。
「だから、どうやってだ? 死刑執行直前は、おまえのほうだろ」
ルビー・クールは、自ら顔をあげた。表情が、すでに一変していた。
背筋を伸ばし、まっすぐに直立した。
冷ややかな口調で、言い放った。
「あなたの遊びの時間は、もう終わり。ここからは、あたしの逆襲の時間よ」
孤立無援で、絶体絶命の窮地。一万人を超える無法者たちを相手に、今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
第一章に続く
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