上 下
2 / 33

第一章 絞首刑直前で絶体絶命 <第1話>

しおりを挟む
  <第一章 第1話>
 十五歳の赤毛の美少女ルビー・クールは、涙目で懇願こんがんした。
 「お願いよ。子どもたちを殺さないで」
 子どもたちは、恐怖におびえ、泣き叫んでいる。
 「バカか、おまえは。殺すに決まってるだろ」
 無産者革命党の司令官が、吐き捨てた。
 「なぜ? なぜ子どもたちを殺すの? 子どもに罪はないわ!」
 「いや、ある!」
 司令官は、突然、語気を強めた。
 「あの孤児院のガキどもは、裏切り者だ。だから全員、皆殺しだ!」
 「子どもたちが、なにをどう裏切ったっていうのよ?」
 「あの孤児院は、おまえら貴族の支援を受けている。貴族は、我々を抑圧する我々の敵だ。敵の支援を受けた者を裏切り者と呼ばずに、何と呼ぶんだ!」
 司令官は、振り返った。絞首刑台の上から、広場を埋め尽くす一万人を超える無法者たちを見回し、叫んだ。
 「同志諸君!」
 その一言で、広場の群衆から、どよめきと歓声があがった。
 司令官は、言葉を続けた。
 「この赤毛の女は、我々の敵である貴族だ!」
 再び、群衆がどよめいた。「殺せ!」と叫ぶ声があがった。それに、「つるせ!」という怒声も。
 「そして、そこにいるガキどもは、この貴族から支援を受けている孤児院のガキどもだ」
 司令官は、子どもたちに視線を向けた。絞首刑台の前に集められた孤児院の子どもたちは、五十名を超える。全員、十一歳以下だ。
 再び司令官は、広場の群衆に目を向けた。
 「つまり、我々無産者にとって、裏切り者どもだ!」
 みたび、群衆がどよめいた。「ガキどもも殺せ!」「ガキも吊せ!」という怒声があがった。
 広場は、怒り狂った若い男たちの怒声や罵声で満ちあふれた。彼らは、「殺せ」「吊せ」と連呼している。
 ルビー・クールは、打ちのめされた。幼い子どもたちを助けようとする男は、この広場には、どこにもいない。一万人以上の男たちは、幼い子どもたちまで殺したがっているのだ。ルビー・クールは、絶望的な状況に、精神的に追い詰められた。
 「お願いよ。子どもたちの命は助けて」
 ルビー・クールは、泣きそうになりながら、司令官に懇願した。
 司令官は、再びルビー・クールに視線を向けた。
 「ガキどもの心配よりも、自分の心配をしたらどうだ?」
 そう言うと、薄気味の悪い笑みを浮かべた。
 「おまえ今、自分がどういう状況か、わかってるのか? 絞首刑直前だぞ」
 たしかに、そのとおりだ。
 ルビー・クールは、後ろ手に手錠をかけられ、首には、絞首刑用の太いロープがかけられている。絞首刑台の左端には大型レバーがあり、死刑執行人が、いつでもレバーをろせるように準備している。レバーが下りた直後に、ルビー・クールの足下の床が二つに割れて下に向かって開く。ルビー・クールの身体は落下し、ロープに吊されて絞首刑だ。
 まずい状況だ。それも極めて、まずい。このままでは、絞首刑で殺されてしまう。
 先ほどから後ろ手で、手錠の鍵を開けようとしているのだが、うまくいかない。この手のタイプの手錠は、鍵穴の中の突起物を動かせば、解錠できるはずだ。釘一本で解錠できるはずなのに、なぜか、うまくいかない。
 今日は、純白の帝国魔法学園の制服に合わせ、白いリストバンドを、左右の手首に着けている。
 左手のリストバンドには、マチ針と釘を忍ばせてある。ロープを首にかけられた直後に、右手で釘を一本取りだした。
 絞首刑台は、広場の奥に設置されている。絞首刑台の後方は高さ五メートルの石塀だ。そのため、ルビー・クールの後方に回り込む者はいない。手錠をはずそうとしていることが、ばれる心配はない。
 だが、早く解錠しなければ、絞首刑で死ぬ。
 早く、早く、早く。
 そうあせれば焦るほど、うまくいかない。
 まずい、まずい、まずい、まずい。本当にまずい。
 早く解錠しないと、本当に死んでしまう。
 ルビー・クールは、思わず涙目になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ

ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。 【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】 なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。 【登場人物】 エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。 ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。 マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。 アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。 アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。 クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

どんでん返し

あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~ ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが… (「薪」より)

四次元残響の檻(おり)

葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。

失踪した悪役令嬢の奇妙な置き土産

柚木崎 史乃
ミステリー
『探偵侯爵』の二つ名を持つギルフォードは、その優れた推理力で数々の難事件を解決してきた。 そんなギルフォードのもとに、従姉の伯爵令嬢・エルシーが失踪したという知らせが舞い込んでくる。 エルシーは、一度は婚約者に婚約を破棄されたものの、諸事情で呼び戻され復縁・結婚したという特殊な経歴を持つ女性だ。 そして、後日。彼女の夫から失踪事件についての調査依頼を受けたギルフォードは、邸の庭で謎の人形を複数発見する。 怪訝に思いつつも調査を進めた結果、ギルフォードはある『真相』にたどり着くが──。 悪役令嬢の従弟である若き侯爵ギルフォードが謎解きに奮闘する、ゴシックファンタジーミステリー。

ピエロの嘲笑が消えない

葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美から奇妙な相談を受ける。彼女の叔母が入院している精神科診療所「クロウ・ハウス」で、不可解な現象が続いているというのだ。患者たちは一様に「ピエロを見た」と怯え、精神を病んでいく。葉羽は、彩由美と共に診療所を訪れ、調査を開始する。だが、そこは常識では計り知れない恐怖が支配する場所だった。患者たちの証言、院長の怪しい行動、そして診療所に隠された秘密。葉羽は持ち前の推理力で謎に挑むが、見えない敵は彼の想像を遥かに超える狡猾さで迫ってくる。ピエロの正体は何なのか? 診療所で何が行われているのか? そして、葉羽は愛する彩由美を守り抜き、この悪夢を終わらせることができるのか? 深層心理に潜む恐怖を暴き出す、戦慄の本格推理ホラー。

映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ
ミステリー
それは一人の映画コレクターの死から始まった―― 高名な映画コレクターの佐山義之氏が亡くなった。日比野恵の働く国立映画資料館の元にその一報が入ったのは、彼のコレクションを極秘に保全してほしいという依頼が死去当日に届いたから。彼の死を周りに悟られないようにと遺族に厳命を受け、ひっそり向かった佐山邸。貴重な映画資料に溢れたコレクションハウスと化したそこは厳重なセキュリティがかけられていたはずなのに、何故か無人の邸の地下に別の映画コレクターの他殺体が見つかる――。手に入れられる訳がないと思われていた幻のコレクションの存在とその行方は? カルト映画『夜を殺めた姉妹』との関連性とは? 残された資料を元に調査に乗り出すうちに、日比野達はコレクター達の欲と闇に巻き込まれて行く。 ※この作品はフィクションです。実在の場所、人物、映画とは一切関係ありません。 ※残酷描写、暴力描写、流血描写があります。

処理中です...