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第十一章 市民裁判で絶体絶命 <第1話>

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   <第十一章 第1話>
 午後五時半頃になっていた。
 もう日没まで、それほど時間が残っていない。
 急がなければ。
 百名を超える元兵士たち全員を、新しい警官に任命した上で、帝国陸軍時代の階級を尋ねた。
 下士官は、一人もいなかった。
 最上級の階級は、上等兵だった。
 帝国陸軍では、二等兵の大部分は、一年後か二年後に、一等兵に昇進できる。
 だが、三年後以降に、上等兵に昇進できる一等兵は、十名に一人くらいだ。
 上等兵は、九名いた。彼らを、分隊長とした。一個分隊は十名強とし、彼ら自身で分隊を編制させた。
 免職した制服警官十三名から、警棒と手錠、それに警帽を取り上げた。
 分隊長には、警帽をかぶらせた。
 市長、ニコラウス、ヴィクトールの三名には、後ろ手に手錠をかけた。執事は、右手を撃たれて負傷していたため、手錠は、かけなかった。
 四個分隊約五十名に、警官から奪ったライフル銃を、一個分隊につき一挺の割合で、支給した。それに、携帯用弾薬ケースも一つずつ。
 彼らには、市長公邸に向かうように指示した。シャベルを持って行き、裏庭を掘り起こすように指示した。ニコラウスに殺害された少女三十名の死体が、埋められていることを伝えて。
 ルビー・クールは三階の窓から、元兵士の新任警官たちに指示を出し続けた。次々に。
 本来、ルビー・クールには、なんの法的権限もない。
 だが有事においては、法的権限よりも、実力が重視される。
 ルビー・クールによって警官に任命された元兵士たちは、誰も文句を言わず、彼女の指示に、したがった。
 弥次馬やじうまが、広場に集まり始めた。彼らに呼びかけて、金物屋などから、シャベルを借りてくるように頼んだ。
 彼らは嬉々として、指示にしたがった。
 市長やニコラウスのことを、以前からこころよく思っていなかったのだ。
 解任した十三名の元警官に命じ、ヴィクトールの部下たちの死体を、移動させた。広場の中央へ。
 ホテルの正面に、広いスペースをつくるためだ。
 弥次馬たちに協力を求め、椅子や、からの木箱を、できるだけたくさん、持ち寄ってもらった。
 それに、手提げランプなども。日が暮れたときのためだ。
 弥次馬たちに頼み、飲食店や食料品店の従業員たちを呼んできてもらった。彼らに、二百名分のサンドイッチとコーヒーの用意を、頼んだ。新任警官たちの夜食用だ。料金は、金貨で前払いした。ホテルの一階まで来てもらって。
 サファイア・レインが、尋ねてきた。
 「ねえルビー、説明してちょうだい。これから、なにをするのかを」
 「市民裁判よ」
 「市民裁判って、なに?」
 平然と答えた。ルビー・クールが。
 「あたしたちが裁判をし、判決を下すのよ」
 仰天ぎょうてんした。サファイア・レインが。
 「あたしたちに、そんな権限ないでしょ。あたしたちは弁護士でも裁判官でもない」
 「だから、市民裁判なのよ」
 ルビー・クールは、三階の窓から、指示を出し続けた。
 グランドパレスホテルの正面に、椅子を四脚、並べさせた。ちょうど、リビングルームの中央窓の前だ。二車線の馬車道の向こう側の車道だ。馬車道は、ホテル前は立ち入り禁止にした。二台の馬車の車体で、道路をふさいで。
 その四脚の椅子は、被告席だ。市長、ニコラウス、ヴィクトール、執事の四名を、座らせた。
 その四名の後方には、解任した元警官十三名を、座らせた。直接、石畳の上に。
 彼らの周囲を、少し距離を取って、五十名を超える新任警官に、包囲させた。
 さらにその後方にも、椅子を並べた。傍聴席ぼうちょうせきだ。
 傍聴席の十メートルほど後方に、木箱を並べた。立ち見の弥次馬たちが、木箱の上に立って、市民裁判を、見学できるようにするためだ。
 新任警官たちも、弥次馬たちも、テキパキと動いてくれたため、あっという間に準備が整った。
 午後六時を、過ぎた。まだ、日は没していない。
 数百名どころか、千名を大きく超える群衆が、集まってきた。口コミで、集まったようだ。
 そのうえ、中央円形広場の周囲の建物は、二階の窓も三階の窓も、人であふれている。
 誰もが、気づいていた。なにか大きな変化が、起きることを。
 ちょうどそのとき、伝令が走ってきた。市長公邸に派遣した元兵士の警官隊から。
 派遣してから、半時間しか、たっていない。
 一体目の少女の死体を、発見したとの連絡だった。
 ホテルの三階の窓から、ルビー・クールが、大きな声を張りあげた。
 「市長公邸の裏庭から、ニコラウスの供述通りに、少女の死体が発見されました! よってこれより、市民裁判を開始します!」
 どよめいた。広場の群衆が。
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