絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第十一章 第2話>

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   <第十一章 第2話>
 広場に集まった群衆たちは、正確には、分かっていないはずだ。
 これから、なにが起きるのかを。
 だが彼らは、期待している。大きな変化が、起きることを。
 その変化が、良い変化、正義の実行で、あることを。
 市長が怒鳴った。ルビー・クールに向かって。
 「市民裁判だと! なんだ、それは!」
 大きな声で、答えた。ルビー・クールが。できるだけ多くの群衆に、聞こえるように。
 「これから、正義に基づき、巨悪をさばく市民裁判を開始します! 裁判官は、あたしがつとめます。陪審員ばいしんいんは、この広場につどった市民の皆さんです!」
 そのとたん、群衆が、どよめいた。肯定的な反応だ。
 市長が怒鳴った。
 「おまえに、そんな権限あるのか! ワシは市長だぞ! ワシを裁く権限など、おまえにはない!」
 平然とした表情で、言い放った。ルビー・クールが。
 「現在は、非常時です。非常時において重要なのは、法的権限ではなく、市民社会を守ることです。よって、多数の市民を殺害した市長親子と、その共犯者を、市民裁判で超法規的に裁くことは、市民社会を守るうえで、必要なことです」
 一瞬、押し黙った。市長が。
 だが数秒後、怒鳴った。
 「弁護士を呼べ! ワシには、弁護士を呼ぶ権利が、あるはずだ!」
 その言葉の直後、群衆の中から、声があがった。次々に。
 「悪徳弁護士を呼べ!」
 「悪徳判事も呼べ!」
 「ヤツらも同罪だ!」
 「市長と同罪だ!」
 群衆にたずねた。ルビー・クールが。その事情を。
 答えた。群衆の中の男たちが。次々に。大きな声で。
 二年ほど前、ニコラウスが中央円形広場で、最初に、少女を拉致しようとしたときだった。
 それを止めようとした青年が、いた。
 その青年は、ニコラウスとその取り巻きによって、袋だたきにされた。
 彼は、死亡した。
 警察は、見て見ぬふりをした。
 その青年の妻と兄が、裁判所に告訴した。目撃した市民三名が、証人として、裁判で証言することになった。
 そのあと、皆殺しになった。
 被害者の妻と、その幼い娘。彼の兄一家五名。それに、証人の市民三名。
 いずれも、強盗殺人事件とされた。
 その犯人は、いまだ、逮捕されていない。
 それ以降、市民は皆おびえ、ニコラウスの少女拉致に、抗議の声をあげることが、できなくなった。
 その裁判で、ニコラウスは無罪となった。悪徳弁護士の弁護と、悪徳判事の判決によって。
 この事件に対する市民の怒りは、相当大きいようだ。
 ルビー・クールが、命じた。新任警官の分隊長二名に。分隊を率いて、悪徳弁護士と悪徳判事を拘束し、ここへ連行するように。一個分隊につき、一挺のライフル銃と十数発の弾丸を渡した。
 二個分隊が、すぐさま駆け出した。
 日没まで時間がないので、市民裁判を、開始した。
 ヒルダに、群衆の前で、市長の暗殺命令を、証言するように求めた。
 あらためて彼女には、司法取引を約束した。すべてを証言したら、罪には問わない。この町から出て行っていいと。
 ヒルダは淡々たんたんと、証言した。市長の暗殺命令を。
 さきほどの新聞記者とのやりとりで、前任の市警の署長や、市議などの重要人物の暗殺については、被害者の名前が判明していた。
 ときおりルビー・クールが、質問をまじえた。
 聴衆たちが、怒りでふるえるのを、感じた。
 彼らは、いきどおっていた。
 市長の極悪ぶりに。
 ヒルダの証言が、終わった。
 続いて、若い女性たちが十名、ホテルから出てきた。パール・スノーに連れられて。
 彼女たちの半分は、市長公邸で監禁されていた者たちで、残りの半分は、ヴィクトールの娼館で、強制売春させられていた娼婦だ。
 ちょうどそのとき、悪徳弁護士と、悪徳判事が、連行されてきた。後ろ手に、手錠をかけられて。
 彼らは、顔面蒼白だった。
 女性たちが、証言を始めた。ニコラウスに拉致され、性的暴行を受けたこと。娼婦たちは、そのあと、ヴィクトールの娼館に売り飛ばされたこと。強制売春を、させられたこと。
 それに、ニコラウスとヴィクトールが、反抗した少女たちを殺すところを、目撃したこと。
 殺された少女たちの名前や、死体が市長公邸の裏庭に埋められたこと。あるいは、川に捨てられたこと。
 など、など、など。
 怒りが、渦巻いた。広場に集まった群衆たちの怒りが。
 そのときだった。
 市長公邸に派遣した警官隊から、伝令が走ってきた。
 裏庭から、三十体目の少女の遺体が発見された、と。
 ルビー・クールが、大きな声で叫んだ。
 「ニコラウスの大量殺人は、明らかです! 証人も、証拠の死体もある! 彼の有罪に異議のある者は、声をあげよ!」
 そのときだった。
 悪徳弁護士が、叫んだ。
 「異議あり!」
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