異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

文字の大きさ
144 / 198
本編

-144- 劣等感 オリバー視点

しおりを挟む
「なあ……トイレで何があったんだ?」

洗浄薬の準備をしていると、アサヒが背中越しに尋ねてきました。
まだ気にしていたらしいですね、普段強気に出るのに遠慮がちに聞いてくるので無視はできません。
まあ、強気に出られても到底無視など出来ないのですが。


「……まだ気になるんですか?」
「だって、今日変だったぞ?それくらいしか理由思い出せねーし」
「……え?」

変、とは?
情交が変ということでしょうか?
アサヒに対しては、いつも大切に丁寧に抱いていたはずなのですが……。
ですが、言われてみれば今日は理性的でないところが所々あったかもしれません。

アサヒはそんな私に対して、今日も本気で拒むことをしなかったので、つけ上がっている自覚はあります。

私の行為に対して、大抵のことなら受け入れてくれる───そんな気持ちがなかったわけではありません。

だからこそ、丁寧に、愛情が伝わるように抱いてきたはずです。
言葉でも身体でも体現していたつもりです。

……はずだとか、つもりだとか、言い訳がましいですね。
今日は、そこに“嫉妬”という醜い感情が少なからずあったことは自覚しています。


「何か、あなたの嫌がることを私はしていましたか?」
「や、全然。寧ろ……じゃなくてっ!」

もしそうだったらどうしたら……と思いながら尋ねると、すぐさま否定が返ってきました。
こんなふうに照れるアサヒも可愛らしい。
大胆だと思えば、私の表情や言葉、愛撫に素直に反応してくれる。
こうやって髪を梳くだけで、気持ちが良さそうな顔をしてくれます。
本当に可愛らしい。

「じゃあ何故?」
「お前がずっと引きずりそうだから」
「………」

アサヒが、まっすぐに私の目を見てそう答えてくれましたが、図星をさされた私は、すぐに返事を返すことができませんでした。
多分、いいえ、十中八九、思い出されるはずです。
何気ない会話の中で、ふとした瞬間に。
劣等感と嫉妬が入り交じる醜い心は、私の中に常にあり、普段はその身を潜めています。

行きつくのは、私の容姿とそれに見合わないほどの不器用さが原因です。
アサヒが私の不器用なところを含めて好きだと言ってくれても、やはり葛藤は起こる。
ないものねだり……なのかもしれませんが、他人に指摘されるとどうしても考えさせられてしまうものです。
それが、全く私に非がないならともかく、そうでないから尚更。


「他の奴のことずっと考えてるの、面白くねえもん」
「アサヒっ!」

ああ、アサヒは私を喜ばせる天才でしょうか?
本当に可愛らしい答えが返ってきて、私はそれだけで浮かれてしまいます。

「うおっ……待て、今日はもうやんねーぞ」

アサヒが慌てた様子で私の胸元を押してきます。
ここで私が本気で欲しがれば、口ではそう言いつつも流されてくれるでしょうね。
まあでも、声も枯れていますし、今日はたくさんいただきましたから大人しく引いてあげましょう。

「分かってますよ」
「……言って損した」

ほっとしたように腕の力を抜いて、私の腕の中で大人しくなるアサヒが本当に可愛らしい。
私にとってみればとても可愛らしい反応だったので、嬉しいだけでしたが。

「───で?」
「フレイの旦那さんにトイレで会ったんです。
それで、なんで好みの食事を偽っていたんだ、と。本当のことを言わなかったんだ、また彼を悲しませるのか、と言われてしまって」

「それでお前はなんて返したんだ?」
「偽ってはいない、と。ただ、言わなかっただけだと伝えました。私が極度の偏食だというのも伝えましたし、私が彼を振ったと思っていたようですね。私が彼に振られたんだということも伝えましたが、信じてはくれませんでした」

でもそれはしょうがないと言えばしょうがないのかもしれませんね。
誰だって、大切な相手を傷つけられた男は悪者です。

もし、アサヒの元恋人が出てきたとして、正しいことを言ってきても、私は耳を貸さないでしょう。
私の言い分など、全て言い訳に聞こえたと思いますし、あの彼は、私の話しを聞くことすら拒んでいたでしょうから。

「学生時代のフレイは、とても自信家で、我が儘な性格をしていました。
気に入れないことがあるとすぐに機嫌を損ねますし、結構な癇癪持ちで宥めるのが大変でした。
『こういうの好きでしょ?』と言われて、全く好きでないものを出されても、私は『ありがとうございます』とだけ返してきました。あの時は、それが一番良いと思っていましたし、その選択しか出来なかったんです」

それでも笑顔を見せてくれることもありました。
少なくとも、最初の3ヶ月は上手くいっていたはずです。
少しずつ、歯車がかけ違えたかのように狂い始め、最後にはバラバラと崩れました。
先に耐えきれなかったのは、フレイの方です。
振られたのは私で、先に愛想を尽かされたのも私です。
フレイの中の理想のオリバー様に、私は程遠い人間でした。

「それは、お互い様じゃね?
フレイさんだってお前のことをちゃんと見てなかったってことだしさ。
お前も正直に言えなくて向き合うことをさけちまったのは良くなかったのかもしんねえけど。
まあ、俺に対してはぜってーやってほしくないな」

我慢するな、と、本音で言えと、思ったことを言葉にしろ、アサヒは何度も言ってきます。
それでぶつかったとしても、愛想を尽かすことはない、と。
臆病な私を勇気づけてくれるだけじゃありません。
私そのものを受け入れてくれる、家族や友人はいましたが、恋人……ああ、もう夫夫ですが、そんなの、今までアサヒだけです。

「アサヒは外さないじゃないですか」
「今後外すかもしんねーじゃん」
「理想のオリバー様じゃなくて、私自身を見てくれているでしょう?」
「まあ……そりゃそうだけどさ」
「欠点だらけの私を知っても、愛想をつかすことなく傍にいてくれるのはアサヒが初めてですよ」

ようやく、私は心からアサヒへと笑顔を向けることが出来ました。
そんな私を目にし、アサヒはほっとしたような、柔らかな表情を浮かべてくれました。

「初めてで、最後な」

ああ、アサヒは本当に私を喜ばせる天才ですね。

「っ……はい」

甘くみずみずしい苺の香りに包まれて、私は心から幸せを噛み締めました。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

過労死で異世界転生したら、勇者の魂を持つ僕が魔王の城で目覚めた。なぜか「魂の半身」と呼ばれ異常なまでに溺愛されてる件

水凪しおん
BL
ブラック企業で過労死した俺、雪斗(ユキト)が次に目覚めたのは、なんと異世界の魔王の城だった。 赤ん坊の姿で転生した俺は、自分がこの世界を滅ぼす魔王を討つための「勇者の魂」を持つと知る。 目の前にいるのは、冷酷非情と噂の魔王ゼノン。 「ああ、終わった……食べられるんだ」 絶望する俺を前に、しかし魔王はうっとりと目を細め、こう囁いた。 「ようやく会えた、我が魂の半身よ」 それから始まったのは、地獄のような日々――ではなく、至れり尽くせりの甘やかし生活!? 最高級の食事、ふわふわの寝具、傅役(もりやく)までつけられ、魔王自らが甲斐甲斐しくお菓子を食べさせてくる始末。 この溺愛は、俺を油断させて力を奪うための罠に違いない! そう信じて疑わない俺の勘違いをよそに、魔王の独占欲と愛情はどんどんエスカレートしていき……。 永い孤独を生きてきた最強魔王と、自己肯定感ゼロの元社畜勇者。 敵対するはずの運命が交わる時、世界を揺るがす壮大な愛の物語が始まる。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...