143 / 196
本編
-143- 思惑 オリバー視点
しおりを挟む
「まだ、起きていられますか?」
「ん……へーきだけど」
ひとしきり愛を確かめ合った後に、名残惜しくも抱擁を緩めて問うと、アサヒは気怠そうに返事を返してくれました。
ならば、このまま休むことなく先に洗浄したほうが良いでしょう。
「なら、中、綺麗にしましょうね」
「……わかった。任せる」
「ええ、喜んで」
アサヒを背にし、私は洗浄薬を手に取りました。
実は、洗浄のことまで最初は意識が向きませんでした。
中は、自然に任せればいいと思い浄化をかけずにいました。
浄化してしまうと、妊娠しない可能性が高まるとされています。
検証されたわけではありません。
ですが、浄化魔法の理論上そうだろう、と言われているのです。
今まで私がお付き合いしてきた中に、女性はいませんでした。
貴族男性の方々ばかりでしたので、妊娠の可能性など全くなく、相手が貴族ということもあり自身で浄化されていました。
情交後は互いに身体を浄化し終了、留まることなく明日の仕事を理由に寮へ帰宅、というのが今までの流れでした。
アサヒが浄化魔法を覚えてから、情事後に中を浄化していると知り慌てました。
慌てた矢先に母上から届いたのが、洗浄薬でした。
『オリバー様、シャーロット様からこちらが届きました』
『え?母上から……』
一緒に届けられた手紙は分厚く、読む前から気合が必要でした。
くれぐれもアサヒを気遣い大切にすることの他、神器様と通常の人との違いについての心理的身体的特徴が程細かに記載されてありました。
私もそれなりに神器様の特徴は以前学んだつもりでしたが……その、悪い意味で宮廷では目についたので気になりましたので。
彼らはどういった者なのかを知るために一通りのことは学んだつもりだったのです。
が、所詮、つもり、だったようですね。
アサヒと一緒にいることの覚悟を、改めて心に刻みました。
手紙には、妊娠した場合はすぐに知らせることも書かれてあり、乳母の選定と教育もしているので安心しろとも書かれていました。
乳母。
ソフィアがいれば問題ないと思いましたが、それも見透かされていました。
ソフィアも良い年ですし、全ての家事を任せているところに赤ん坊まで任せるのは酷である、と。
私の見た目に絆されず、母上と同年代な女性で既婚者を数名雇い入れ、母上の目で選定するとも書かれてありました。
手配の早さには尊敬を通り越し、いっそ呆れるほどです。
それから、来年になっても妊娠しなかった場合には、偏食を直せとも。
偏食と妊娠とどう関係があるのかと思いましたが、食べ物によって男性機能の低下が見られるらしいとも手紙に書かれてありました。
アサヒが妊娠しない場合は、100パーセント私の非であることくらい分かります。
なので、その場合は私の体質によるものだと理解ができます。
できますが……文面に、緩やかなプレッシャーと圧を感じます。
私だけで良かった。
早く孫を、と望む気持ちもわからなくもありませんが、出来れば心内に隠しておいて欲しかったと思います。
到底アサヒには見せられない手紙ですね。
洗浄薬の必要性はわかりましたし、有難く使わせていただきます。
ちなみに洗浄薬は、神器様専用の商品ではなく、本来女性用として売られているもので特別そう珍しい商品ではありません。
感謝する気持ちもありますが……お節介が過ぎる、とも思えなくも───いえ、お礼の手紙は面倒がらずに私自身で書きましょう。
『タイラー、面倒かもしれないけれど全文目を通しておいて貰えるかい?』
『よろしいのですか?』
『うん。母上からの静かな圧を感じる手紙だったよ』
『……遠回しに、孫を望まれていますね、切実に』
『言葉の端々から、圧を感じないかい?』
『オリバー様───』
『いや、状況は嫌でもわかっているつもりだよ』
母上は貴族的な考えをお持ちの方です。
優しいのですが、時に厳しい。
育てられた環境にもよると思いますが、血に関しては、ワグナー家の誰よりも大切にされていると思います。
それを表立って口にされることは一度としてありませんでしたし、父上の考えを否定することもありませんでした。
父上は、自身が恋愛結婚であるが故に、子供たちにもそれを一番優先してくれています。
血などどうでもよいと考えていて、全く頓着されていません。
ですが、裏を返せば“血などどうでもいいが、ワグナー家の存続は重視している”とも言えます。
兄上ともに、恋愛結婚です。
兄上も馬鹿ではありませんから、恋愛でありながら人脈作りも兼ねた間柄です。
必要ならば養子を取ればいいと思っていることでしょう。
ワグナー家の遠縁からでも、それが難しいならば孤児院からでも。
方法はいくらでもあります。
でも、私とアサヒの間に子供が産まれたら、いやでも望まれることでしょう。
勿論、本人の意思に任せる、と言ってくれるはずです。
ですが、母上にかかれば、そそのかされる……いえ、言葉が過ぎました。
その気にさせることなど他愛もないことです。
叔父上にも子供がいないのですから、母上は少なくとも二人以上を望まれているはず。
私としては、複雑な思いです。
『アサヒには余計なことだから言わなくていい』
『畏まりました』
タイラーから返された言葉はいつも通り変わらないものでした。
ですが私にはまるで“よくできました“と言われたような、そんな気さえする返事でした。
「ん……へーきだけど」
ひとしきり愛を確かめ合った後に、名残惜しくも抱擁を緩めて問うと、アサヒは気怠そうに返事を返してくれました。
ならば、このまま休むことなく先に洗浄したほうが良いでしょう。
「なら、中、綺麗にしましょうね」
「……わかった。任せる」
「ええ、喜んで」
アサヒを背にし、私は洗浄薬を手に取りました。
実は、洗浄のことまで最初は意識が向きませんでした。
中は、自然に任せればいいと思い浄化をかけずにいました。
浄化してしまうと、妊娠しない可能性が高まるとされています。
検証されたわけではありません。
ですが、浄化魔法の理論上そうだろう、と言われているのです。
今まで私がお付き合いしてきた中に、女性はいませんでした。
貴族男性の方々ばかりでしたので、妊娠の可能性など全くなく、相手が貴族ということもあり自身で浄化されていました。
情交後は互いに身体を浄化し終了、留まることなく明日の仕事を理由に寮へ帰宅、というのが今までの流れでした。
アサヒが浄化魔法を覚えてから、情事後に中を浄化していると知り慌てました。
慌てた矢先に母上から届いたのが、洗浄薬でした。
『オリバー様、シャーロット様からこちらが届きました』
『え?母上から……』
一緒に届けられた手紙は分厚く、読む前から気合が必要でした。
くれぐれもアサヒを気遣い大切にすることの他、神器様と通常の人との違いについての心理的身体的特徴が程細かに記載されてありました。
私もそれなりに神器様の特徴は以前学んだつもりでしたが……その、悪い意味で宮廷では目についたので気になりましたので。
彼らはどういった者なのかを知るために一通りのことは学んだつもりだったのです。
が、所詮、つもり、だったようですね。
アサヒと一緒にいることの覚悟を、改めて心に刻みました。
手紙には、妊娠した場合はすぐに知らせることも書かれてあり、乳母の選定と教育もしているので安心しろとも書かれていました。
乳母。
ソフィアがいれば問題ないと思いましたが、それも見透かされていました。
ソフィアも良い年ですし、全ての家事を任せているところに赤ん坊まで任せるのは酷である、と。
私の見た目に絆されず、母上と同年代な女性で既婚者を数名雇い入れ、母上の目で選定するとも書かれてありました。
手配の早さには尊敬を通り越し、いっそ呆れるほどです。
それから、来年になっても妊娠しなかった場合には、偏食を直せとも。
偏食と妊娠とどう関係があるのかと思いましたが、食べ物によって男性機能の低下が見られるらしいとも手紙に書かれてありました。
アサヒが妊娠しない場合は、100パーセント私の非であることくらい分かります。
なので、その場合は私の体質によるものだと理解ができます。
できますが……文面に、緩やかなプレッシャーと圧を感じます。
私だけで良かった。
早く孫を、と望む気持ちもわからなくもありませんが、出来れば心内に隠しておいて欲しかったと思います。
到底アサヒには見せられない手紙ですね。
洗浄薬の必要性はわかりましたし、有難く使わせていただきます。
ちなみに洗浄薬は、神器様専用の商品ではなく、本来女性用として売られているもので特別そう珍しい商品ではありません。
感謝する気持ちもありますが……お節介が過ぎる、とも思えなくも───いえ、お礼の手紙は面倒がらずに私自身で書きましょう。
『タイラー、面倒かもしれないけれど全文目を通しておいて貰えるかい?』
『よろしいのですか?』
『うん。母上からの静かな圧を感じる手紙だったよ』
『……遠回しに、孫を望まれていますね、切実に』
『言葉の端々から、圧を感じないかい?』
『オリバー様───』
『いや、状況は嫌でもわかっているつもりだよ』
母上は貴族的な考えをお持ちの方です。
優しいのですが、時に厳しい。
育てられた環境にもよると思いますが、血に関しては、ワグナー家の誰よりも大切にされていると思います。
それを表立って口にされることは一度としてありませんでしたし、父上の考えを否定することもありませんでした。
父上は、自身が恋愛結婚であるが故に、子供たちにもそれを一番優先してくれています。
血などどうでもよいと考えていて、全く頓着されていません。
ですが、裏を返せば“血などどうでもいいが、ワグナー家の存続は重視している”とも言えます。
兄上ともに、恋愛結婚です。
兄上も馬鹿ではありませんから、恋愛でありながら人脈作りも兼ねた間柄です。
必要ならば養子を取ればいいと思っていることでしょう。
ワグナー家の遠縁からでも、それが難しいならば孤児院からでも。
方法はいくらでもあります。
でも、私とアサヒの間に子供が産まれたら、いやでも望まれることでしょう。
勿論、本人の意思に任せる、と言ってくれるはずです。
ですが、母上にかかれば、そそのかされる……いえ、言葉が過ぎました。
その気にさせることなど他愛もないことです。
叔父上にも子供がいないのですから、母上は少なくとも二人以上を望まれているはず。
私としては、複雑な思いです。
『アサヒには余計なことだから言わなくていい』
『畏まりました』
タイラーから返された言葉はいつも通り変わらないものでした。
ですが私にはまるで“よくできました“と言われたような、そんな気さえする返事でした。
45
お気に入りに追加
1,007
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる