異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

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本編

-145- カップケーキ オリバー視点

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「駄目ですよ、それは!」
「え?」

アサヒが、朝から楽しそうにソフィアとおはぎと3人して、クッキーにするかマドレーヌにするかと、キッチンで相談していました。
その理由が、『シリルのところにお土産にもってく』と聞いて慌てて止めた次第です。


「忘れたのですか?ソフィアの料理は魔力が回復するんですよ?」
「あ……」
「先生もネストレさんも口にされるでしょう?どちらかが気が付くかもしれません」
「そうですね。毎日食べていた私たちには気が付かなくても、体調不良の優秀な薬師と鑑定の得意な医者では違いに気が付かれる可能性も十分にあり得ます」

珍しく、私の言い分をタイラーが後押ししてくれました。
私よりも説得力があるのはなぜでしょう?
年のせい、ということにしておきましょうか。

「ごめん、ソフィア……すっかり忘れてた」
「私も頼まれたことが嬉しくて、すっかり忘れてたわ」

アサヒは、青ざめた顔をしてソフィアに謝りました。
私の言い方が悪かったでしょうか?
そこまで責任を感じることでもないはずですが……アサヒに頼まれて了承したソフィアもソフィアでしょう。
ソフィアは気にした風もなく、いつものとおりふんわりとした笑顔でアサヒを宥めています。

「うっかりしちゃったわ」
「ソフィアが気を付けてくださらないと」
「そうよね、ごめんなさい」
「や、俺の気が回らなかっただけだから」

「元気出す、アサヒ。ソフィアのお菓子、美味しい!」

おはぎは、私をキッと睨んだ後に、アサヒにまとわりつきました。
アサヒは強ばっていた顔を幾分ゆるめ、おはぎの頭を撫でながら、『ありがとな、おはぎ』等とお礼を言っています。
まるで私が悪者のようですが、おはぎのアサヒ贔屓は今に始まったことではありません。

アサヒの眷属なので致し方ないとは思いますが、精霊とはこんなにも感情豊かな生き物なのでしょうか?
本来、気まぐれで、気分屋だと言われていますが……わからないものですね。



「あ、オリバー、先生のところに行く前にシリルの手土産買いたい」

馬車に足をかけたところで、アサヒがそう言いだしました。
そもそも手土産という概念が私にはありませんでした。
医者を連れて行くのですから十分だと思っていましたので。
ソフィアのお菓子が持っていけなくなったからでしょう。

「わかりました。どこかに寄ってもらいましょう」
「あんまり高級なもんだと遠慮されるかもしれないし、かといって貴族の馬車が立ち寄るのにあまりにも安いもんは買えないよな。
あと、食器を使わないで食べられる、小さい子供が喜びそうなお菓子とかがいいんだけど」

どっか知らないか、と聞くのは、私にではなく、マクシムへでした。
……そうですね、私はそのようなお店は知りませんから、悔しがる権利もありませんね。

「ああ、でしたら、カップケーキはいかがですか?娘と家内が気に入っているお店があります。休憩時の馬車止めからすぐですし、クリームたっぷりで見た目も可愛らしい商品ですよ」
「手でも食べられそうか?」
「はい、手掴みでいけます」
「そっか、ならそれにする」
「畏まりました」

「ありがとう」
「お役に立てたようで何よりです」

笑顔で告げるアサヒに、マクシムはきょとんとした顔で……おそらく、素直にお礼を言われることに驚いたのでしょうが、その後は満足そうに笑顔を返してきました。
マクシムは奥方思いの誠実な男性だと聞いていますし、その笑顔に他意はないとわかってはいます。
ですが、それでも良い気持ちはしないものですね。
今度、コナーに会った時には、気の利いた店の手土産リストを聞いておこうと思います。


出不精の私からしてみれば、馬車に乗ること自体気が重かったのですが、アサヒと一緒ならばとても楽しい。
アサヒとならば沈黙も苦痛ではないどころかいい気分にさせてくれます。
そういう時のアサヒは、なんというか……とてつもなく好かれているのが分かる視線を向けてくれるといいますか、自惚れてしまいそうになるんですよ。
それを態と気が付かない風を装って私から声をかけると、いつも照れた様子で返してくる、それが本当に可愛らしいので私はまたつけあがるのです。

何気ない話の中でも、アサヒの関心のあること、好きなこと、やってみたいこと、それらはしっかりと頭に入ってきます。
アサヒも、そうなんですよ?
アサヒは感心のないものや、どうでもいいことはすぐに忘れがちです。
どうでもいいことというのがアサヒ基準なので、他人から見たら大切なことも含まれたりします。
ソフィアの料理がいい例ですね。
ですが、私に関することは些細なことでもちゃんと覚えていてくれます。
アサヒが私のことをちゃんと見てくれて大切にしてくれているのがわかるので、私もそれに応えたいという気持ちが自然に湧いてくるのです。



「あの店か?」
「そのようですね……」

マクシムの言う通り、カップケーキを売るその店は、なんとも可愛い白い扉と看板が出ていて、扉前にはお洒落をしたお嬢さんやご夫人が並んでいるのが見えました。
あれは、私たちが並んだらとても目立ちそうですね……。

「あ、でもテイクアウトは横っぽい。あっちははけるのが早そうだし入口ほどじゃないな」
「ああ、それなら助かりますね」

私たちが列に並ぶと、前に並んでいたお嬢さんたちが一斉に振り向きました。
顔を赤らめてすぐに前に向き直りましたが、アサヒと私の話をしていることはすぐにわかりました。
悪い感情ではないようですし、直接話しかけてこないあたり、面倒はおこらないでしょう。

客層は、夫婦や親子、貴族のお遣い、ご友人同士……といったような間柄ですね。
すぐ前に並んでいる若い女性二人は制服を着ているのでどこかの従業員でしょうか?
ちらちらと私たちを肩越しにみては、きゃっきゃと楽し気な様子を見せています。

「ちょっと聞いても良いかな?」
「っは、はい!勿論!」

アサヒが目の合った斜め前の女性に声をかけました。
故意にやわらかな笑顔で。

「城下の外れに住む友人の子供へ、手土産にと並んでるんだけれど、おすすめとかある?」
「今ですと、キャラメルプリンの味が期間限定で出ているのでおすすめです。ね?」
「そうね!あ、あとベリーのカップケーキもおすすめです。クリームもフルーツもとても美味しいですし、見た目も可愛いらしくて」
「チョコレートも美味しいんですよ!あ、あと、あまり甘いのが得意でない方にも、クリームのない甘さ控えめなレモンのカップケーキや、チーズとベーコンのしょっぱいカップケーキもあるので、男性にもおすすめです!」
「カップケーキ以外にも瓶詰のキャンディもおすすめです。見た目も可愛いし、フルーツの味がしっかりしてて、日持ちもします!」
「そっか。ありがとう、とても参考になったよ」
「いいえ!」
「どういたしまして!」

いかにも貴族でお忍びなんです、という雰囲気を醸し出し、柔らかな笑みで対応するアサヒは流石です。
どこかの従業員の買い出しだろうことを踏まえて声をかけたに違いありません。
身なりが整っていているからか、きちんとそれなりに丁寧な対応をしてきましたし、必要以上にこちらに干渉せずにいるので助かりますね。

前の女性二人は事前に予約をしていたのでしょう。
受取りがとてもスムーズで二人とも紙袋を抱えて帰っていきました。

「ベリーのカップケーキ二つと、キャラメルプリンを二つ、チョコレートを二つと、それと……何がいい?」
「そうですね……キャラメルプリンをもう一つ」
「あと、別包装でチーズとベーコンを一つ。それと、このフルーツキャンディの瓶詰を四つ」
「キャンディはそれぞれ別にお包みしますか?」
「お願いできる?」
「はいっ、ただいま用意いたします!」

「キャンディ四つはどなたの分ですか?」
「ソフィアと、マクシムのお嬢さん二人と奥さんに。カップケーキは痛むかもだし」
「なるほど。なら、チーズとベーコンはマクシムにですか」
「そう。この間奥さんが作ったチーズとベーコンのホットサンドが好きだって言ってたから」

アサヒは本当に気配り上手です。
私にはとても出来ませんが、それを口にすれば、『それを補うのが俺だ』と言いってくることでしょう。

アサヒは窓口奥の店内の様子が気になるみたいですね。
店内も凝った様子ですし、食器類も良いものを使っていそうです。

「アサヒが気に入ったのなら、今度、外でお茶をしましょう」
「あー……お茶なら、コンサバトリーで十分贅沢してる」
「……そうですか」

アサヒと一緒になら外でお茶をするのも楽しいと思ったのですが。

「二人きりでゆっくりできるほうが俺は嬉しいよ」
「……」

アサヒの笑顔と返しに、後ろの女性たちから小さくも歓喜溢れる声が漏れました。
ええ、笑顔は余所行きだとわかっています。
わかっていますが、こういうアサヒにも私は弱いのです。
それに、その言葉はアサヒの本心からだと伝わります。

私の心も、彼女たち以上に歓喜に溢れました。
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