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本編

-92- 孫は可愛い

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「余計なことをしてしまいましたか?」

シン…と静まり返ったところで、オリバーが心配そうに俺に問いかけてきた。
ここで、シリルにでもその祖父さんにでもなく、俺に聞くところがオリバーならではだ。

「いや、余計なことってことはねえけど」
「アサヒがとても怒って見えたので。
こんなくだらないことでずっとアサヒの気分を害するなら…と、一番簡単な手段を取ってしまいました」

こんなくだらないことでって、言い方。
またこいつは、本当に言葉のチョイスがヘタクソだ。

けど、さっきの迫力に思わずときめいた。
そんでもって、今、こんなヘタな言葉でさえときめいてる俺がいる。
他ではない、俺のために、ってことだ。
俺も大概だ。


「あ……どうしましょう、アサヒっ!」
「は?なんだ、どうした?」

あんだけ冷静できまってたオリバーが、急に顔色を悪くして慌てだす。
どーした?
さっきの迫力はどこへいった?っつーくらい、へにょっとして残念な姿だ。

「アサヒのデート代を全部渡してしまいました。
アサヒの好きなものや、お揃いの何かを買うつもりでいたのに」
「いいよ、別に。
いつだって出来るだろ?また今度行こう」
「はいっ、絶対ですよ」
「おー……、シリル、大丈夫か?」

抱き着いてくるオリバーを右手であやしながら、左手を繋いだままのシリルに声をかける。
勝手に進めてしまったが、目の前で自分の母親が出ていくのはさぞ苦しいことだろう。

「うん…へーき。祖父ちゃんと父ちゃんがいるから」
「そっか」
「ん」
「シリルは強いな」

強がりかもしれないが、泣かないところがまず凄い。
何で出ていったのか、戻ってこないのか、なんて聞かないのもわかってるからだろうが、それをこの小ささで理解しているってのがすげえよ。

「オリバー様、ありがとうございました。…だが、あんなたくさんのお金、返すに返せんです、どうしたら……」

シリルの祖父さんが、困ったようにオリバーに声をかけてきた。
金貨20枚か。
特許の金はそれ以上に入るだろうが、初回からは難しいな。
てか、返す必要なんてねえもんだ、オリバーが勝手に渡した金だし。

「あれは私が勝手にお渡ししたもので、貸したわけではありませんよ?返す必要なんてありません」
「しかし……」

オリバーは俺を抱きしめるのをやめて、そっと手を離すと、やはり俺の思ったように口にした。

「それより、エリソン侯爵領のどちらへ?」
「ハワード伯爵領の一区画に、私と妻の2人で住んどります。
妻が帰りを待ってるんで、そこで一緒に住もうかと。
昔は、私と妻で小さいですが薬屋を営んでましてなあ、古いですが製薬の器具や魔法具は揃っとります。
妻が膝と腕を痛めて店を閉めたんですが、ネストレが店を再開してくれたら、と。
店を開けるにはすぐには無理かもしれん。だがあ、ゆっくりやってきます」
「そうですか。ハワード伯爵家の一区画でしたら、人も多くある程度賑わいもありますし歓迎されるでしょう。
緑も豊かですし、ここより庭も広いと思いますから、シリル君の研究する場所も十分とれそうですね」
「はい、それにシリルにも学校へ通わせてやれます」

「もし、困ったことがあればなんでもご相談ください。
私は今帝都のエリソン侯爵邸を借りて住んでいますので。
ハワード伯爵家の長男は私とアレックスの友人でもありますから、伯爵自身ともある程度交流がありますし」
「なんからなんまで、ほんとにありがとうございます」

「祖母ちゃんが待ってるんだな、良かったな、シリル」
「うん…でも、祖母ちゃんに会ったことない。祖母ちゃん僕のこと嫌じゃないかな?」
「そんなことないと思うぞ?」

嫁は憎くても孫は可愛い、そういう年寄りはたくさん目にしてきた。
きっと、そういうもんだろう。
世界が違ったって、人の心理ってものが全く変わるわけじゃねえと思う。

それに、シリルの顔は母親似で可愛らしいが、目の色と髪は違った。
あの母親は赤茶色の髪に同じような濃い茶色の瞳をしていたが、シリルは金髪にも近い薄いセピア色の髪に、外国の海みてえなコバルトグリーンの瞳だ。
まっすぐな髪質の母親と違って、ふわふわとしたウェーブの髪。
祖父さんもウェーブがかった髪に瞳の色はおんなじだ。
もう真っ白な髪だから髪色まではわからないが、おそらく親父さんに似たんだろう。
シリルは、素直で良い子で聡い。
歓迎してくれるはずだ。
祖父さんへと二人して目を向けると、びっくりした祖父さんは何度も頷いた。

「祖母ちゃんもシリルと暮らせるの楽しみにしとるぞ。
祖母ちゃんはなあ、膝を痛めて長い時間は歩けん。だからそんな悲しいこと言わんでくれ」
「うん」

そういや、ハワード伯爵家ってのは、エリソン侯爵領で現在唯一の伯爵領だ。
そこの長男は、オリバーとアレックス様の友人なのか。

どんな人か、すげー気になる。
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